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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第15章:「ヴェーゼンシュタット攻防戦」

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第265話:「密議:2」

第265話:「密議:2」


 アリツィア王女がオルリック王国軍のイチ士官にふんし、男装して、人目を忍んでエドゥアルドをたずねて来た理由。


 それは、指揮権を有する皇帝・カール11世が軍議の席で下した決定に違反し、オルリック王国軍とノルトハーフェン公国軍、そしてオストヴィーゼ公国軍だけで、サーベト帝国軍に奇襲をしかけようという誘いをするためだった。


「抜け駆けを、するのですか?


 僕たちだけで、ですか? 」


 エドゥアルドはそのアリツィアからの言葉に、戸惑うしかない。


(無茶だ……)


 勝ち目などないと、そう思うからだ。


 少し前のエドゥアルドであったなら、この話にすぐに乗り気になっただろう。

 貴族たちの思惑によって運命を左右される民衆を救うために戦うことに、エドゥアルドはなんの抵抗も感じない。

 望むところだ。


 だが、実際にサーベト帝国軍と交戦した今となっては、容易には同意できない。


 サーベト帝国軍と戦う前は、敵のことを、旧式装備が目立つ、タウゼント帝国よりも旧態依然とした軍隊だと、見くびるようなところがあった。


 それは、真実だ。

 サーベト帝国軍の装備は全般的にタウゼント帝国軍のものよりも旧式で、洗練もされておらず、剣や槍を装備した部隊も数多い。


 しかしそれは決して、サーベト帝国軍が無力で、エドゥアルドたちによって一方的に打ち倒されるだけの存在であるということではなかった。

 旧式には旧式なりの、異文化の軍隊には異文化の、戦い方があって、それによってエドゥアルドたちは無視しえない損害を被った。


 確かに、エドゥアルドたちは戦いに勝利し、ヴェーゼンシュタットへの補給も成功させた。

 だが、アリツィア王女が言うように、エドゥアルドたちだけで抜け駆けをしてサーベト帝国軍に勝利できるとは、考えられない。


 ノルトハーフェン公国軍とオストヴィーゼ公国軍を合わせて、3000名以上もの将兵が死傷した。

 エドゥアルドが新設した軽野戦砲部隊に関しては、人員はともかく、装備していた砲のすべてを失っている。


 それだけの損害が、たった数時間の戦いで生じたのだ。


 戸惑い、躊躇ちゅうちょしているエドゥアルドに、アリツィアはささやき続ける。


「ああ、そうだ。

 我々だけで、戦うのさ。


 エドゥアルド公爵、貴方も、軍議の席での諸侯の様子は目にしただろう?

 諸侯は政争に明け暮れ、民衆のことなんか、少しも考えてはいない。

 皇帝、カール11世陛下でさえ、そんな諸侯たちの意向に配慮しなければならない。


 私は、祖国でこれよりもっと酷いものを見てきた。


 エドゥアルド公爵。

 今回の援軍、どうして、我々は2万2千しか軍勢を率いて来られなかったのだと思う?

 しかも、王女である私が来たのは、なぜだと思う?


 どうしても援軍に行くというのなら、王の手勢だけでするがいい。

 オルリック王国の諸侯がそう決めて、父上はそれに逆らえなかったし、手薄になる国内の抑えのために兄上も残らねばならなかったからさ。


 それは、私の祖国の問題だから、今は置いておこう。

 だけど、タウゼント帝国でも同じことが起きていて、しかも、諸侯の都合でもてあそばれているのは、罪もない民衆じゃないか。


 諸侯の思惑を打ち破って民衆を救えるのは、私たちの行動しかない。


 そうだろう? エドゥアルド公爵」


「それは……、アリツィア王女の、言うとおりだと、僕もそう思いますが……」


 このまま諸侯の思い通りにさせていたら、民衆は救われない。

 それは、エドゥアルドも肯定するしかない現実だった。


 だが問題は、その現実を変更すだけの力が、エドゥアルドたちにあるのか、ということだった。


 タウゼント帝国のその全軍が動くのならば、確実に勝てる。

 アントンたち参謀本部が立てた作戦は、エドゥアルドがそう信じることができるほどのものだった。


 だが、たとえその作戦を実行するのだとしても、エドゥアルドたちだけではあまりにも兵力が少な過ぎる。


「できる。

 私は、そう確信している」


 エドゥアルドの疑念を察しているのか、アリツィア王女は力強くうなずいてみせる。


「サーベト帝国軍の包囲陣にある、弱点。

 敵は我々の攻撃から学び、陣地を強化したが、その弱点についてはまだ気づいていないのか、なにも手を加えていない。


 そこを突けば、私たちは一挙に、敵の本営を、サーベト帝国の皇帝のいる場所を攻撃することができる。

 私なら、我が有翼重騎兵フサリアならば、それができる。


 我々が切り開いた突破口を、エドゥアルド公爵とユリウス公爵とが拡張し、押し広げる。

 そして我々が敵の本営を突き、サーベト帝国の皇帝を討ち取るか、逃走させるかすれば、サーベト帝国軍はその全軍が、たちどころに崩壊するだろう。


 たとえこちらの兵力がわずかであろうとも、勝算はある。


 私たちの手で、多くの民衆を救えるんだ」


 民衆を救える。

 その言葉は、エドゥアルドにとって大きな魅力だった。


 できれば、そうしたい。

 そういうことができる存在になりたくて、エドゥアルドはこれまで必死に生き延び、戦ってきたのだ。


 だが、エドゥアルドの脳裏には、失敗するかもしれないという不安がある。

 そしてなにより、「自分の命令で、大勢の兵士たちが傷つき、命を失う」という、自身の決断の重大さへの自覚が、エドゥアルドにアリツィアの誘いを受けることを躊躇ちゅうちょさせていた。


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