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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第13章:「啓蒙専制君主」

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第213話:「第1回公国議会」

第213話:「第1回公国議会」


 ノルトハーフェン公国で初めて開かれた常設の国家機関としての議会、その第1回公国議会には、ノルトハーフェン公国内の選挙によって選ばれた議員80名が参加した。


 ただし、第1回公国議会で選ばれた議員は、完全に公平な選挙によって選ばれたわけではなく、公国で貴族の地位にある者10余名らは選挙を経ずして議員になる資格を与えられるという形で実施された。

 というのは、貴族に対してそういう特権を与えなければ、貴族たちは議会の開設を認めようとしなかったからだ。


 しかし、その他の議員たちはみな、選挙によって選ばれた。

 その多くが、公国国内の有力者たちなど、相応の力と知名度を持つ者たちだったが、中には大きな財産などを持たない者も、少数だが選ばれた。


 選挙権については、25歳以上の男性に対して無条件で選挙権を与える制度が取られた一方で、女性に対しては選挙権を認めないという形で行われた。

 エドゥアルドは男女平等な選挙への参加を主張したのだが、まだ政治などの分野は男性のモノという先入観の強い時代でもあり、実現することができなかった。


 第1回公国議会は、専用の議会場がまだどこにも存在しなかったため、エドゥアルドの居館でありノルトハーフェン公国の政庁ともなっているヴァイスシュネーの大広間を利用して開催された。

 国事などで大勢の人々を招いて会食などを行うための場所で、議員たちが座ることができるように机とイスが四角く並べられ、そこに、すべての議員が名目上は対等な立場にあるものとして集められた。

 そして、議会の進行を司る議長にはエーアリヒ準伯爵がつき、国家元首として無条件で議会に参加することとなったエドゥアルドを補佐することとなった。


 そうしてどうにか形式を整えて始まった公国議会は、手探りで進んでいった。

 誰も議会というものに参加した経験などなく、議論をし、国策を決定すると言っても、それをどのように行えばいいのかはまだ誰も知らなかったからだ。


 議会運用のノウハウを持たない状態で始まった公国議会は、なかなかその機能を発揮することができなかった。

 しかしそれでも、最初の議会の開催から3か月の間に断続的に開かれた議会の結果、徴兵制度に関わる新しい制度が決定された。


 それは、兵役についた者が戦死、あるいは負傷した場合について、国家が責任をもって補償をし、兵士たちに対して相応の待遇を行う、という内容の制度だった。


 これまで志願兵制度、実質的には傭兵制度によって国軍を構成して来たノルトハーフェン公国軍だったが、たとえ戦場で戦死、あるいは負傷したとしても、必ずしも十分な補償が行われては来なかった。

 明確な形で、戦死した場合はこれだけ、負傷した場合はこれだけの保証を行う、という決まりがなされておらず、その時々の公爵によって、補償の内容に差異が生じたり、あるいは補償そのものが行われないようなことがあったりした。


 これまで、国家のことは君主の専権事項であったし、兵士たちはみな傭兵たちであったから、こういったやり方がまかり通っていた。

 しかし、ノルトハーフェン公国の国民を徴兵し、国家の都合によって兵士とする以上、そのような旧来のやり方は認められなかった。


 兵士たちに対し、兵役についている間適切な給与を支払うことや、戦死した場合にはその遺族に対して十分な補償を行い、また、負傷した場合にはその治療について国家が責任を持つという内容の制度を施行することが決まった。

 実際にどのような待遇を兵士たちに約束するかは、アルエット共和国への侵攻戦争から帰還して来た際に、戦死者、負傷者に対してエドゥアルドが実施していた補償を基本として決定され、今後ノルトハーフェン公国が責任をもって実施していくこととされた。


 兵士が戦場で戦い、負傷し、時にはその命を失うことは、当然のことだった。

 しかし、自ら志願して兵士となった者はそのことについて納得しているかもしれなかったが、徴兵によって兵士となることを強制された人々はそうではない。

 そもそも、自分が命を失えば、故郷に残してきた家族の生活が成り立たないという状況では、兵士たちが命をかけて戦うことは難しい。


 だから、兵士たちを徴兵して兵士とした国家が、兵士たちに代わって遺族の生活を保障する。

 それは徴兵制を実施するのに当たっては、最低条件だと、平民出身の議員たちは強く主張した。


 議会では、その他にも様々な議題が提出された。

 しかし、議会の運用が手探りで始まったばかりの公国議会では、それらの議題について明確な結論を出すことは困難なことであり、多くの異論も飛び交い、議論をまとめることができなかったため、今回の公国議会での決定は先送りとされた。


 そもそも、徴兵制度の導入に関して兵士たちの待遇を保証する制度が議決され、成立するのに至ったのは、反対意見が少なかったからだった。

 国家のために兵士たちを使うのだから、その対価を支払い、戦死や負傷といった大きなリスクを補償しなければならないということは、平民だけではなく貴族の側にも理解されやすいことであり、だからこそこの制度だけは成立に至ったのだ。


 しかし、それ以外の点では、貴族と平民という身分の違い、価値観の相違から議論が一致せず、議会は決定を下すことができなかった。


 これは、始まったばかりの公国議会では、議案について採決する場合に、どの程度の割合賛成があれば可決されるのかということさえ不明瞭な有様だった。

 全会一致を基本とするか、それとも全議員の半数以上の賛成をもって可決とするか。

 平民と貴族でそれぞれ議決を行い、双方で半数以上の賛成が得られた場合のみ、可決とするか。


 議案の可決のしかたでさえ議論の対象となり、そして、第1回公国議会では結論を出すことができなかった。


 結局、3か月間の間、断続的に開かれた第1回公国議会でまともに決定されたのは、徴兵制の導入にあたって兵士たちの待遇を保証する制度と、本年度中にもう1度議会を開催するという、2点のみであった。


 議会は、今回の議会では決定することのできなかった議案についてはそれぞれの議員が持ち帰って検討することとし、解散された。


 この結果はエドゥアルドにとって、決して満足できるようなものではなかった。

 議案となった内容は数多かったにもかかわらず、議会ではほとんどなにも決めることができなかったのと同じなのだ。


 そういった状態になったことを受けて、元々議会の開催に反対だった勢力からは、「それ見たことか」と、不満も噴出してきている。

 大きく動き出したエドゥアルドの改革は、これからさらに困難なものとなっていくはずだった。


 しかし、エドゥアルドは充足感を覚えていた。

 確かに議会は思ったほどうまくはいかなかったが、しかし、多くの人々と議論を交わしたことで、エドゥアルドは新たな知見も得ることができた。


 決して無意味なものではなかったと、エドゥアルドにはそう思えていた。


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