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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第13章:「啓蒙専制君主」

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第199話:「狩りはじめ:2」

第199話:「狩りはじめ:2」


 酒と料理の味に客人たちがみな大満足し、また、政治的な意味でも狩りはじめの儀式の酒宴が成功裏に進みつつある、その一方で。


 ルーシェたちエドゥアルドの使用人たちは、文字通り、目が回るほどの忙しさだった。


 昨年の狩りはじめの儀式のときも、ルーシェたちは大忙しだった。

 当時はエドゥアルドを支える使用人は、マーリア、シャルロッテ、ゲオルク、ルーシェと、たったそれだけの少人数だったのだ。


 今年は、ヴァイスシュネーで働いている使用人たちの増援もあるし、日雇いで雇った者もいるし、フェヒターのおつきとしてやって来たアンネ・シュティも加わってくれている。

 だが、そうやって使用人たちの戦力が増強されたのと同じかそれ以上に、狩りはじめの儀式でやって来た客人たちの数も大勢になっているのだ。


 身分の高い客人というものは、ただ1人だけでぶらりとやってくるわけではない。

 身の回りのことを手伝う使用人や護衛など、多くの人々を引き連れてやってくる。


 ルーシェたちは、そうしてやって来た大勢の人々にも、公爵家としての相応のもてなしというものをしなければならないのだ。


 もちろん、すべての人々に酒宴で出されているような豪華で趣向を凝らした料理や、各地から集めてきた銘酒を出すことはできない。

 しかし、酒宴が終わるまでの間待ち続けている使用人や護衛達のためにまかないの料理を出したり、ちょっと1杯、身体を暖められる程度にお酒を振る舞ったりといった程度のことはやらなければならない。


 さすが、公爵家だ。

 そこまでしてようやく、人々からそんな風に言ってもらえるようになるのだ。

 そしてそう言ってもらうことができれば、ルーシェたちは自身の主であるエドゥアルドの立場をより良いものにしていくことができるのだ。


 普段、エドゥアルドのおつきのメイドとして働いているルーシェは、この日はあちこちから引っ張りだこになっていた。

 メイドや使用人には普通、それぞれの専門分野というものが決まっていて、それぞれの職分というものが存在しているのだが、エドゥアルドのおつきのメイドであるルーシェは、この日はその職分が一時的に失われた状態にあった。


 つまり、どこの部署でも、忙しいところに手伝いに行くのが、今日のルーシェの仕事だった。

 そして、教育係のシャルロッテなどから厳しく仕事を仕込まれて来たルーシェは、大抵、なんでもできてしまう。


 そういうわけで、ルーシェはあちこちの部署に呼ばれては手伝いに入り、休む間もないほど忙しく働くこととなってしまった。


 もっとも、ルーシェはむしろ、その忙しさを喜んでいた。

 あちこちで自分のことを必要としてもらえるのが、嬉しくてたまらなかったからだ。


 自分はもう、エドゥアルドのメイドではいられなくなるのではないか。

 そんなふうに思って落ち込んだ時もあったが、それが自分の杞憂に過ぎず、エドゥアルドからちゃんと必要だと言ってもらえるのだと知って以来、ルーシェのメイドとしての働きにはさらに磨きがかかっていた。


 今まで以上に、頑張る。

 その宣言通りにルーシェは頑張って見せ、今では、シャルロッテからも「もうほとんど1人前と言ってよいですね」と感心してもらえるほどになっていた。


 そうしてルーシェたちは忙しく、懸命に働き続け、そして、狩りはじめの儀式は無事に終わりを迎えることとなった。


────────────────────────────────────────


 狩りはじめの儀式が終わると、来賓たちは馬車に乗り込み、帰り始めた。

 ノルトハーフェン公国の貴族たちはシュペルリング・ヴィラからほど近いポリティークシュタットに普段使いの屋敷を持っており、酒宴の後でも簡単に帰り着くことができるからだ。

 また、ノルトハーフェンの港町や、ポリティークシュタットに暮らしている有力者たちなども、馬車を連ねて帰って行った。


 その一方で、ノルトハーフェン公国の近隣諸侯など、気軽には帰ることのできない来賓たちは、今晩はシュペルリング・ヴィラで1泊することとなっている。

 シュペルリング・ヴィラはこういった用途にも使えるように考慮されて作られた建物だったから、十分な部屋の数があった。


 ルーシェたち使用人は、客人たちの見送りや、1泊する人々のための案内などで、酒宴が終わっても忙しいままだった。

 酒宴の後片づけなども、すぐに行う必要のないモノは明日に回してはいるものの、客人たちの目に留まらない程度には片づけたり隠したりする必要があり、そのことも忙しかった。


 だが、それらにもようやく目途がつくと、やっとルーシェたちも一息つくことができた。


 そしてそれは、ルーシェたち使用人にとっても、楽しい時間の始まりだった。

 というのは、エドゥアルドの好意で、一通りのことが終わったら使用人たちももうその日は仕事を忘れて、料理やお酒を楽しく食べて飲んでいいことになっていたからだ。


 いわゆる、慰労会のようなものだった。

 このために使用人たちは酒宴の材料の残りなどを使って料理を用意し、エドゥアルドの許可を得て酒蔵を開き、食事と酒を楽しみながら、狩りはじめの儀式のための下準備や、今日1日の働きをねぎらい合った。


 客人たちに出したような豪華さなどはなかったが、慰労会で出される食事も酒も、どれも素晴らしいものだった。

 それも、当然だ。

 料理は酒宴に出された材料のあまりで、酒宴の料理を作ったのと同じ料理人たちが作ったものだったし、酒も、まだ若いエドゥアルドが「自分はまだ飲めないから」と、使用人たちに酒蔵から自由に飲んでいいと言われているからだ。


 忙しく働いた使用人たちは、その忙しさを「乗り切った」という満足感に満たされながら慰労会を楽しんだ。

 シュペルリング・ヴィラに宿泊する客人たちがいるので騒げるわけではなかったが、それでも慰労会に加わった人々はみんな幸せそうな様子だった。


 その暖かな雰囲気の中にいるだけでもルーシェも幸福な気持ちだったが、しかし、ルーシェはすぐにその慰労会から抜け出していた。

 というのは、エドゥアルドが個人的に開いている、特に親しい者たちだけで行う酒宴の[二次会]の方に、ルーシェは誘われていたからだ。


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