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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第12章:「メイド、ざわつく」

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第195話:「お茶会:1」

第195話:「お茶会:1」


 幸いなことに、ルーシェが目を回したのは、一時的なことであるようだった。


「も、申し訳ありません、エドゥアルドさま……」


 エドゥアルドに心配そうに助け起こされたルーシェは、しゅん、と沈み込んだようになりながらそう言って謝罪した。


(まさか、こんなになっているとは……。

 これじゃ、いつも通りに働いてもらっていた方が、ずっとマシだったじゃないか)


 そんなルーシェの様子を心配そうに見つめながら、エドゥアルドは自分の決断を後悔していた。


 良かれと思って、ルーシェに休みを与えたのだ。

 しかし、ルーシェはかえって衰弱し、こんなに弱り切ってしまっている。


 うまく休めていないどころか、睡眠も、食事も十分にとれていない。

 そんな状態にあるとシャルロッテから教えられていたが、まさか本当にそんな状態になっているとは、エドゥアルドは信じていなかった。

 エドゥアルドをせっつくために、少し強調して、大げさに言っているだけだと思っていたのだ。


 しかし、どうやらシャルロッテは、少しも誇張などしていなかったらしい。


(このまま、部屋で休ませていた方がいいのでは? )


 エドゥアルドがルーシェを迎えに来たのは、どういうわけか、ルーシェを誘ってお茶を飲むことになっているからだ。

 そのお茶会の準備は、シャルロッテとアンネが今この時も着々と進めているのだが、ルーシェがこんな状態で誘うのは良くないのではないかと、エドゥアルドはそんな風に心配になって黙り込んでしまう。


「あの……、エドゥアルドさま?

 いったい、どうして私の部屋に……? 」


 まだいつもの元気は微塵みじんも感じられないしおれた花のようになっているルーシェだったが、エドゥアルドが黙り込んでしまったので、少し不安そうな顔でそうたずねて来る。


 その時、エドゥアルドは、シャルロッテの言葉を思い出していた。


「ルーシェは弱り切っていますが、無理をさせずに寝かせておこうなどとはお考えにならず、無理やりにでも部屋から連れ出して下さい。


 それが、今のあの子には、一番よく効く薬となるはずですから」


 ルーシェの様子を実際に目にしてしまうと、そんな無茶な、と思いたくなる。

 しかし、シャルロッテは自信ありげな様子だったし、実際、ルーシェがどうしてこんなふうになっているのかと言えば、エドゥアルドが良かれと思って休ませたせいだ。


 このまま休んでいろと言っても、状態をさらに悪化させるだけになるかもしれなかった。


「ルーシェ、疲れていそうなところ悪いが、少し、僕とつきあってくれないか?


 シャーリーとアンネが、今、お茶の準備をしている。

 そこに僕と一緒に来て、一緒にお茶を飲んで、ちょっと話につき合って欲しい」


 エドゥアルドはすでに、シャルロッテやアンネから、なにをしなければならないのか、なにをするべきなのか、いろいろと言い含められている。

 そうしなければならない理由についてはイマイチピンと来てはいないものの、本当に弱り切っているルーシェをこのままにしておくことなどできず、エドゥアルドは、少し躊躇ためらいはしたものの、そう言ってルーシェのことをお茶会に誘っていた。


 そのエドゥアルドからの誘いの言葉に、ルーシェは小さく、きょとんとした顔で首をかしげていた。


「えっと……、エドゥアルドさまと、お茶……?

 ルーが、エドゥアルドさまと、お茶を飲むのですか……?


 ルーが、いれるのでは、なく? 」

「ああ、そうだ。

 ルーシェが、僕と一緒にお茶会をするんだ」


 そんなルーシェに、エドゥアルドは気づかうような優しい笑みを浮かべると、そう、柔らかい声でうなずいてみせる。


 だが、ルーシェはまだ状況がのみ込めていない様子で、目をぱちくりとさせている。

 メイドとして仕えているのだという意識が強すぎて、自分がもてなされる側になるということを、うまく想像できない様子だった。


「悪いけれど、ルーシェ。

 絶対に連れて来いと、シャーリーからうるさく言われているんだ」


 このままでは、時間がかかる。

 そう判断したエドゥアルドは、そう言うとルーシェの手を取って立ち上がらせていた。


 シャルロッテからは、無理やりにでもルーシェを部屋から連れ出せと厳命されている。

 それだけではない。

 アンネからは、「お茶が冷めないうちに、早く来てくださいね! 」とも言われている。


 普通、メイドの身分で、公爵に向かってそんな要望や命令を出せるはずはない。

 しかしエドゥアルドは、その状況を新鮮なものに思い、少しだけ楽しく思ってもいた。


 なぜなら、エドゥアルドは生まれてから一度も、他人から命令されたり、指示をされたりといったことがなかったのだ。


 それに、指示されている内容も、大したことではない。

 ただ、ルーシェをお茶会に誘うという行為に過ぎない。


 いわば、ちょっとしたお遊びのようなものだった。

 命令する側と、される側。

 そんないつもの立場を変えてみるというのは、なんだかおかしなことをしているような気分になってくる。


「ほら、ルーシェ、立てるか?

 うまく歩けないなら、こうして、僕が手を引いて支えてあげるから」

「あ、ありがとうございます……って、えええっ!?


 と、というか、そのっ、ルー、お着替えとかしないと、お外には……っ! 」

「大丈夫だ、屋敷の外に出るようなことはないから。


 お茶が冷めないうちにお前を連れて来いって、アンから言われているんだ。

 アンのいれてくれるコーヒーは、なかなか、うまいんだぞ?

 だから僕も、冷めないうちに、一番おいしいコーヒーをお前に飲んで欲しいんだ」

「そ、それは、とっても、嬉しいんですけどっ!


ふへっ、えっ? ぇえええええっ!? 」


 すっかりこの状況を楽しむモードに入っているエドゥアルドは、ぐいぐいと力強くルーシェを引っ張っていく。

 ルーシェは激しく戸惑い、慌てふためきながらも、エドゥアルドに手を引かれていった。


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