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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第12章:「メイド、ざわつく」

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第193話:「ルーシェのこと」

第193話:「ルーシェのこと」


「ルーシェのこと? 」

「はい、ルーシェ先輩のことです」


 てっきり、フェヒターの屋敷を立て直すために必要な人や物をねだられると思っていたエドゥアルドが怪訝けげんそうに首をかしげると、アンネははっきりとした仕草でうなずいてみせる。


「その、あたし、ルーシェ先輩とはちょっと似てるなーって思うところがありまして。


 あたしも、元々は、スラムの貧民の出身だったんです。

 だけど、ヨーゼフ様に拾っていただいて、こうしてなんとかメイドとしてやっていけるようになったんです。


 おうかがいした話だと、ルーシェ先輩も、あたしと同じような経緯で公爵殿下のメイドになったのだとか。


 だから、あたし、ルーシェ先輩の気持ちが、ちょっとわかるような気がするんです。


 それで、その、これだけ公爵殿下によくしていただいたのに厚かましいのですが、公爵殿下には、もっと、ルーシェ先輩のことを気づかって欲しいかなー、って」


 そのアンネの言葉に、エドゥアルドはきょとんとしていた。

 意外な申し出に驚いているというのもあるが、エドゥアルドとしては、きちんとルーシェにも気を使っているつもりだったからだ。


 ルーシェはいつも、エドゥアルドのために懸命けんめいに働いてくれている。

 そのことにエドゥアルドは感謝していたし、その感謝を示すためにこそ、ルーシェに1週間の休暇を与えたのだ。


 もちろん、その程度では、ルーシェが示してくれている献身に対しては、不十分であるかもしれない。


「それは、僕も、1週間の休暇くらいで、アイツの頑張りにこたえてやれているとは思っていないが……」

「いえっ、公爵殿下!

 そういうことではなく! 」


 アンネはエドゥアルドの言葉に被せる勢いでそう言うと、「あ、すみませんっ」と感情的になってしまったことを小声で謝罪し、それからあらためて言葉を続けた。


「多分、ルーシェ先輩ですけど、せっかくお休みをいただいても、少しも休めていないと思うんです」

「ルーシェが、休めていない?

 報告では、初日は屋敷の中をカイと散歩して、それ以降は、部屋で休んでいると聞いているが……」

「そう!

 ルーシェ先輩は、せっかくのお休みなのに、ずっとお部屋に閉じこもっているんですよ! 」


 自分が言いたかったことは、まさにそのことなのだ。

 そう言いたそうな勢いでビシッと指さしポーズを決めるアンネだったが、エドゥアルドはやはり、意味が分からないというような顔をしている。


「えっと、つまりですね……。


 ルーシェ先輩、公爵殿下を、あたしに取られるっ、公爵殿下のお側で働けなくなるって、そう不安になっちゃってるんじゃないかなっていうことなんです」

「僕が、取られる?

 アンに? 」


 エドゥアルドはもちろん、ルーシェの所有物になったつもりなどなかったし、やはり、アンネの言っていることにピンと来ていない様子で首をかしげている。


「ははぁ……。

 これは、ずいぶんと、先のことが思いやられますね……」


 そのエドゥアルドの様子になにかを悟ったアンネは、そう言うと嘆息し、頭を押さえるようなしぐさをして見せる。


「それで、その……、具体的には、僕はなにをすればいいんだ? 」


 話の内容にはついていけないものの、とりあえず、アンネはエドゥアルドにルーシェのためにもっとなにかをするように言っているのだと解釈したエドゥアルドは、そう問いかけていた。


「わかりました、シンプルに言いましょう!


 公爵殿下、すぐにルーシェ先輩に会いに行ってあげてください!

 そして、一緒にお茶をするだけでもいいので、ルーシェ先輩とお話をしてあげてください! 」


 そのエドゥアルドの様子に、回りくどい説明をしても無駄だと思ったのか、アンネは単刀直入に、具体的な要求をした。


(いや、会って、どうするっていうんだ?

 第一、アイツが休みを終えて仕事に復帰して来たら、また、いくらでも顔を合わせられるじゃないか? )


 しかしエドゥアルドは、やはり怪訝けげんそうな顔をしている。

 なんでそんなことをする必要があるのか、合理主義的な考え方をするエドゥアルドにはイマイチ納得できないのだ。


「その件でしたら、わたくしの方からも、お願い申し上げます」


 その時、ヴァイスシュネーを去るアンネの代わりにエドゥアルドの身の回りの世話をするため、近くで静かにたたずんでいたシャルロッテが唐突に口を開いた。


「どういうことなんだ、シャーリー? 」

「今までの会話の内容から考えますに、ここでわたくしがそのことについて言及するのは本末転倒であると存じます。


 ですが、公爵殿下、ぜひ、ルーシェに会ってやってくださいませ。


 実はわたくし、ルーシェの様子を見に行かせていただいたのですが、それはもう、酷い有様でございまして」

「酷い有様? 」

「はい。


 ルーシェは、お休みだというのに、まったく休めておりませんでした。

 それどころか、むしろ、弱り切っております。


 あれはもう、憔悴しょうすいし、衰弱しているとさえ言える様子でした。


 元々、あの子にお休みを、というのはわたくしから申し上げたことでございますが、率直に申し上げて、失敗だったと後悔しております」

「そ、そんなになっているのか……? 」


 シャルロッテから、いつの間にかルーシェが大変なことになっているらしいと聞いたエドゥアルドは、そのことに驚きつつも、どうしてそんなことになっているのかはやはりわからないのか、戸惑ったような顔をしている。


 そんなエドゥアルドに、アンネが、勢いよく身を乗り出しながら迫った。


「さぁ、公爵殿下、今すぐにでも、ルーシェ先輩に会いに行ってあげてください!

 そうですね、すぐにできることと言えば、お茶を一緒に飲むことくらいでしょうから、あたしがすぐに準備しておきます!


 まずは、公爵殿下へのご恩返しの、第一歩です! 」


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