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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第12章:「メイド、ざわつく」

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第192話:「血脈」

第192話:「血脈」


 フェヒターを許し、ノルトハーフェン公国の貴族として復帰させる。

 その決定を本当に行うことになるとは、エドゥアルドはこれまでに1度も想像したことがなかった。


 だが、エドゥアルドには後悔はなかった。

 お互いにあれほど嫌い合っていたエドゥアルドとフェヒターだったが、2人には共通する部分もあり、同じ道を歩めるのだと、そうわかったからだ。


 貴族に生まれた者として、このノルトハーフェン公国をより良い方向へ導き、そこに暮らす人々が豊かで安寧に暮らしていくことのできるようにする。

 その意識を、エドゥアルドもフェヒターも、同じように持っていた。


 2人の間にあった溝は大きかったが、その根本的な原因は、エドゥアルドたちの父の、さらに父の時代に起こった後継者問題であり、エドゥアルドやフェヒターが生まれる前から存在したモノだった。


 エドゥアルドとフェヒターが、貴族、それもノルトハーフェン公爵家の血を引く者でなければ、2人は対立しあうようなこともなかったかもしれない。

 だが、生まれる前に定まった事柄によって、2人は不倶戴天ふぐたいてんの敵となり、互いに殺し合いさえ行った。


 そうして深まった溝は容易には埋められないものではあったが、エドゥアルドとフェヒターは、新しい関係を築き、今度は同じ方向を目指して歩き出そうとしている。


 ノルトハーフェン公爵家の血脈の先頭にいる者として。

 エドゥアルドとフェヒターは、これから、過去の対立を乗り越え、ノルトハーフェン公国をさらに発展させるために働いていくことになる。


 フェヒターを許すという決定には、エドゥアルドとフェヒターの間に実際になにが起こったのかを知っている人々はみな、驚いた。

 だが、同時に、納得してもいた。


 やはりフェヒターも、ノルトハーフェン公爵家の血を引いている者だったからだ。


 エドゥアルドとフェヒターの和解は、ノルトハーフェン公爵家がこれからも安定して継続していく可能性を高めるものだった。

 今までは、エドゥアルドがただ1人の相続人であったが、これからは、フェヒターというもう1人の相続人が増えるのだ。


 もちろん、正当な系譜は、エドゥアルドのものだ。

 エドゥアルドもフェヒターもまだ若く、結婚さえしておらず、後継者となるべき子供は存在していないが、2人にそれぞれ子供が生まれた場合も、エドゥアルドの子供が優先してノルトハーフェン公爵位を継承していくこととなる。


 しかし、まだ2人には子供がいない。

 こういった状況でエドゥアルドになにかが起これば、それは、ノルトハーフェン公爵家の断絶を意味していた。


 ノルトハーフェン公国の人々にとって、エドゥアルドは英明な国家元首だった。

 まだ公爵としての実権を掌握してから1年も経ってはいないが、その手腕は多くの人々から高く評価されつつあり、誰もがエドゥアルドがこれからも公国を統治していくことを望んでいる。


 そして、エドゥアルドは若くて、健康だった。

 だから普通に考えればすぐになにか問題が起きるとは思えないのだが、やはり、突然の不幸、という事態が生じる可能性は無視できない。


 エドゥアルドの父親のこともある。

 いかにエドゥアルドが優れた公爵で、人々からこれからも主君であって欲しいと切実に願われていたとしても、戦場で飛び交う弾丸は区別しないだろう。


 そう言った点でも、フェヒターという存在を公の場に復帰させたことは、意味のあることだった。


────────────────────────────────────────


「アン。

 さぁ、この書類をもって、フェヒターの屋敷に帰るといい。


 すでにエーアリヒ準伯爵に命じて、フェヒターの幽閉を解き、元の屋敷に戻れるように手配してある。

 フェヒターの奴を出迎えて、せいぜい、今回の手柄のご褒美でももらうといい」

「わぁっ、ありがとうございますっ、公爵殿下! 」


 フェヒターの罪を不問として、正式に、ノルトハーフェン公爵家に連なる者として、社会に復帰することを許す。

 そんな内容が明記された、エドゥアルドの直筆のサインがされた書類を、アンネ・シュティは目を輝かせながら受け取った。


「本当に、もう、公爵殿下には、なんてお礼を申し上げたら……」


 そしてアンネは、彼女にとっては文字通りの宝物であるその書類を大切そうに胸に抱きかかえながら、涙でうるんだ瞳でエドゥアルドのことを見つめる。


 そのアンネの感極まっているような姿に、エドゥアルドは少し苦笑して見せた。


「正直なところ、僕も、アイツの扱いには困っていたんだ。

 だから、アン、今回のことは、いいきっかけだったんだ。


 これからは、フェヒター準男爵にもしっかりと働いてもらうつもりだ。

 アンも、フェヒターの奴のことを、支えてやってくれ」

「はいっ、もちろんです!


 公爵殿下のお役に立てるように、アンネ・シュティ、しっかりご主人様の手綱を握っておきますね! 」


 するとアンネは涙をふくと、元気いっぱいにそう言い放ってみせる。


(手綱を、握る……? )


 エドゥアルドはアンネの物言いに少しだけ引っかかりを覚えたものの、(きっと、フェヒターが2度と僕を裏切るようなことがないよう、しっかりと見張るという意味なんだろうな)と解釈することにした。


「それで、アン。

 他になにか欲しいものはないか?


 フェヒターの屋敷はしばらく使われていなかったはずだし、なにかと入用だろう?

 もし望むのであれば、このヴァイスシュネーから、人や物を手配してもかまわないのだが」

「ひぇぇっ、そこまでしていただけるなんてっ!?


 きょっ、恐縮しちゃいますっ! 」


 フェヒターの罪を許しただけではなく、さらに寛大かんだいな申し出を行ったエドゥアルドに、アンネは感謝と恐縮のあまりたじろいだ様子だった。


「……そのー、でしたら、1つだけ、お願いがありまして」


 しかし、少し考えていたアンネは、そう言って、上目遣いでエドゥアルドに言った。


「ルーシェ先輩のこと、なんですけど」


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