表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第12章:「メイド、ざわつく」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

172/535

第170話:「ルーシェ、抵抗する」

第170話:「ルーシェ、抵抗する」


 その膠着こうちゃく状態を終わらせたのは、シャルロッテだった。


「まったく、やはりでしたか……。


 しかたのないコですね」


 バン、とあえて勢いよく扉を開いて入室してくることでエドゥアルドとルーシェの口論を制止したシャルロッテは、驚いて彼女のことを見つめているルーシェにつかつかと足早に近づいていった。

 どうやら、ルーシェが休みをもらうことに反発して駄々をこねるだろうということを予測し、シャルロッテは密かに部屋の外で待機していたようだった。


「ルーシェ。

 あなたにだって、公爵殿下が気づかってお休みを下さっていることは、わかっているのでしょう? 」


 そしてルーシェの前で立ち止まったシャルロッテは、いつもの彼女らしい落ち着いた口調で、そうルーシェに言う。


「そ、それはっ!

 ルーにも、わかってもます!


 ……けれどっ! 」

「けれど、では、ありません」

「ひっ!? 」


 ルーシェは、シャルロッテに自分の気持ちを伝えようとしたが、冷ややかな視線でシャルロッテから射すくめられて、小さく悲鳴をあげてたじろいだ。


「いいですか、ルーシェ。

 あなたは時々、メイドとしての立場を忘れている時があります」


 そんなルーシェに、シャルロッテは、有無を言わせぬ口調で言い含める。


「周囲によく馴染んで、余計な気づかいをさせることがないのは、あなたの長所です。


 ですが、ルーシェ。

 メイドとしての立場を忘れてしまっては、それは、公爵家のメイドとしては失格です。


 公爵殿下があなたのことを気づかってくださっているのだから、ありがたくお休みを頂戴して、また元気にお仕事に戻ってくるのが、メイドとしての在り方でしょう。


 わ・か・り・ま・す・ね・? 」


 シャルロッテは最後の言葉に力を込めて、「これ以上の反抗は許しません」と暗にルーシェに命令した。


 ルーシェは、口元をわなわなと震わせながら、「ぅーっ」っと小さなうなり声をあげ、シャルロッテのことを「シャーリーお姉さま」と慕い、半ば神格化しているようなところさえある彼女にしてはめずらしく、シャルロッテのことをにらみ返す。

 そんなルーシェのことを、シャルロッテは静かに、だが、断固とした視線で、見つめ返していた。


 いつものルーシェなら、シャルロッテにここまでされたのなら、絶対にあきらめるはずだった。

 ルーシェはエドゥアルドと並ぶ命の恩人であるシャルロッテのことを尊敬していたし、メイドの先輩として、先生として、慕っている。


「わかりませんっ! 」


 だが、ルーシェは、反抗した。


「いくら、シャーリーお姉さまのおっしゃることでも!

 ルーシェにだって、受け入れられないことはあります!


 エドゥアルドさまにお側でお仕えするメイドは、ルーがいれば、十分なんですっ! 」

「本当に、しかたのないコですね」


 そのルーシェの精一杯の反抗に、シャルロッテは少し呆れたように、残念そうな顔で双眸そうぼうを閉じ、嘆息する。


 そして再び双眸そうぼうを開いてルーシェを見つめ返したシャルロッテの表情は、怜悧れいりなものだった。


「あなたにもゆずれないものがあるというのなら、それでもいいでしょう、ルーシェ。


 それをどうしても通りたいというのなら、このわたくしを倒してみせなさい」

「……ふへっ!?

 シャーリー、お姉さまを……、倒すっ!? 」


 凄んだシャルロッテに、ルーシェはたじろいでいた。


 アンネはきょとんとした不思議そうな顔をしていたが、エドゥアルドは思わず緊張して、ゴクリ、と唾を飲み込んでいる。


 なぜなら、シャルロッテはただのメイドではないのだ。

 マスケット銃の操作と射撃はもちろん、ナイフなどの刃物の扱いもできる上に体術も会得していて、1人で並みのごろつきなら何人でも相手にしてしまえるような、高い戦闘力を誇るメイドなのだ。


 エドゥアルドもルーシェも、シャルロッテのその実力を知っている。

 かつて公爵位を巡る陰謀が進められていたころ、エドゥアルドの身辺を1人で警護し、守っていたのが、シャルロッテだからだ。


 自分の望みを通したいというのなら、私を倒していけ。

 そうシャルロッテに言われたルーシェは、圧倒的な実力差を知っているだけに、たじろいでいた。


「たっ……!

 たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」


 しかしルーシェは、両目をつむると、突如そんな気合の声をあげ、拳を固めて、シャルロッテに向かっていった。


「ちょっ、センパイっ!? 」

「挑んでいっただとっ!? 」


 そのルーシェの捨て身の攻撃に、アンネもエドゥアルドも思わず驚きの声をらしていた。


 ルーシェの、全身全霊の反抗。


 もちろん、瞬殺だった。


 目をつむっているのだからそもそもシャルロッテにルーシェのパンチがうまく命中するはずもなかったのだが、シャルロッテは無駄のない、流麗りゅうれいささえ感じさせる動きでルーシェの攻撃をかわし、彼女の身体を絡め取る。


「ひゃぅっ、いたい!?

いたいいたい、いたいですぅっ! ?


 降参、降参しますから! 許してシャーリーお姉さまぁっ! 」


 そしてシャルロッテに後ろ手にひねりあげられたルーシェは、たまらず、そう悲鳴をあげながら降伏するしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ