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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第12章:「メイド、ざわつく」

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第169話:「ルーシェ、ざわつく:2」

第169話:「ルーシェ、ざわつく:2」


「そういうわけだから、ルーシェ。

 一週間、安心して、休んでくれ」


 ルーシェにアンネのことを紹介し終えると、エドゥアルドは、優しく微笑みながらそうルーシェに言った。


 人は、権力に微笑む。


 多くの人々の上に立つ公爵として生きて行かねばならないエドゥアルドに、皇帝・カール11世が、彼にできるただ1つの教えとして、エドゥアルドに伝えてくれたこと。


 その教えを受けて以来、エドゥアルドはずっと、ルーシェに無理をさせているのではないかと、そう心配していたのだ。


 ルーシェは、エドゥアルドによって救われた。

 もしノルトハーフェンのスラム街でシャルロッテがルーシェのことを発見せず、その後、シャルロッテが連れて帰って来たルーシェを、エドゥアルドがメイドとして雇い入れなかったら。

 ルーシェと2匹の家族は今頃、どうなっていたかわからない。


 だからルーシェは、エドゥアルドのために一生懸命だった。

 それはエドゥアルドが権力者であるからではなく、エドゥアルドであるから、命の恩人だからという、切実で誠実な理由からだった。


 厳密にいえば、ルーシェは、エドゥアルドの権力によって、無理やり働かされているわけではない。

 しかしながら、エドゥアルドへの恩義を果たすために無理をしている、というのなら、それは権力によって無理やり働かせているのと、さほど変わりはない。


 強制にしろ、自発的にしろ、無理に頑張り続けた先にあるのは、過労から来るケガや病気だからだ。


 エドゥアルドはルーシェの働きぶりには満足していたし、感謝さえしていたが、彼女の献身に甘えて、彼女自身の身を危険にさらすのは、絶対にしてはならないことだし、絶対にしたくないことだと、そう思っていた。

 だからエドゥアルドは、ルーシェには安心して、ゆっくりと休んで欲しかったのだ。


 それに、エドゥアルドも少しは休むつもりだった。

 仕事のことは考えずにゆっくりと本を読んだり、なにもせずぼーっと景色を眺め、そこで暮らしている人々の姿を眺めたり、乗馬に出かけたり。

 ルーシェが休みの間は、自分も休んでおこうと、そう思っていた。


 なんなら、仕事抜きでルーシェを誘って、どこかに遊びに出かけてもいい。

 それくらいのご褒美をあげてもいいと思うくらい、エドゥアルドはルーシェの働きぶりに感謝していた。


「……そんなの、ダメです!


 ルーは、そんなの、認めませんっ! 」


 だが、その誘いの言葉をどうやって切り出そうかとエドゥアルドが悩んでいると、今まで沈黙していたルーシェが、唐突にそう叫び声をあげた。


 必死な、鬼気迫る形相だった。


「いくら、アンに代わりをしてもらうって言っても!

 私、一週間もお休みなんて、いただけません!


 だって、私が、エドゥアルドさまのメイドだから!

 私が一番、エドゥアルドさまに上手にお仕えできるんです!


 だから、代わりのメイドなんて、必要ないんですっ! 」


 そのルーシェの叫び声に、エドゥアルドもアンネも、びっくりして目を丸くしてしまっていた。


 ルーシェを休ませるのは、エドゥアルドの配慮であり、彼女の日頃の働きに対する感謝を示すものだ。

 だからルーシェがこんな反応を示して休みを拒否するなんて、エドゥアルドもアンネも、夢にも思っていないことだった。


 お休みをもらうことができる。

 しかも、一時金つき。


 こんなお休みをもらえるとなったら、普通は、誰だって手放しで喜ぶことだろう。

 しかもこれは、日頃の働きぶりを雇い主から認められた、特別な措置なのだ。


 いくら、ルーシェにワーカホリックの気があるのだとしても。

 こんなふうに拒否されるとは、想像などできないことだった。


「えっとー……、センパイ?

 そんなに、あたしって駄目ですか? 」


 ルーシェの反発の強さに驚いて言葉もないエドゥアルドの隣で、アンネが少し困ったような、落ち込んでいるような様子でそうルーシェにたずねる。


 すると、ルーシェは一瞬言葉に詰まってから、ツインテールを激しく揺らして首を左右に振る。


「それは、違いますけど!

 アンは、立派な、すごく優秀なメイドだって、思いますけど!


 だけど、エドゥアルドさまのお世話は、ルーがやらないとダメなんですっ! 」


 そのルーシェの返答に、アンネはなにかを悟ったのか、「あー……、なるほど、そういう……」と小さな声で呟きながら苦笑していた。


 エドゥアルドには、アンネがなにを理解できたのか、さっぱりわからない。

 だが、ルーシェに休みを取らせないわけにもいかない。


 彼女にはこれからも、エドゥアルドの近くで元気に働いてもらわなければならない、そうして欲しいと、そう思うからだ。


「ルーシェ、なんで、そんなに休むのが嫌なんだ?

 いつも頑張っているんだし、たまには、ゆっくり休んだ方が……」

「それは、エドゥアルドさまがそうやって気づかってくださるのは、嬉しいんですけど!


 でも、ダメったら、ダメです! 」

「どうしてそんなに嫌がるんだ?

 どこかに出かけたり、自分の好きなことをしたりして、のんびりしていいんだぞ? 」

「ルーが好きなのは、エドゥアルドさまの近くで働くことなんです!


 だからとにかく、お休みなんて、ダメったら、ダメなんです! 」


 エドゥアルドはルーシェを説得し、ルーシェは自分の気持ちを伝えようとするが、お互いに伝わらない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ははーん(何か悟ったようだ [一言] ルーシェがそれに気づくよりも先にアンネが気づいたか(意味深
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