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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第12章:「メイド、ざわつく」

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第162話:「ルーシェのいない日」

第162話:「ルーシェのいない日」


 エドゥアルドの視察の結果は、上々だった。

 新型の野砲の開発はオズヴァルトにとっては新しい商売のタネであったのだから、うまくいかない要素などあまりないのだが、さっそく設計図を引いて試作まで進めるとオズヴァルトが前向きに約束してくれたから、エドゥアルドとしても気分が良かった。


 新型の野砲の開発が成功すれば、ノルトハーフェン公国軍は常に砲兵による援護を受けることができるようになる。

 それは公国軍の戦力が向上するのと同時に、味方の兵士たちが受ける被害を相対的に小さくできるかもしれない。


 こうしてエドゥアルドが大砲にこだわっているのは、ラパン・トルチェの会戦でムナール将軍が実施した大放列の威力が、強く印象に残っているからだ。

 大砲の強力な火力を使いこなすことができれば、というよりも、そうすることができなければ、エドゥアルドはまた、ムナール将軍に敗れることとなるかもしれないのだ。


 ムナール将軍が用いていたような機動力のある大砲を装備することによって、エドゥアルドも、ムナール将軍が行ったような大放列を敷くことができるようにもなる。

 その大火力を得ることができれば、少なくとも、エドゥアルドはムナール将軍と対等な土俵に立って戦えるようになる。


 まだ実現には程遠いものの、徴兵制の導入によってノルトハーフェン公国軍が拡充された場合には、エドゥアルドは編成の中で砲兵の割合を増やそうとも考えている。

 大砲は高価な兵器だし、運用するためには砲弾や発射用の火薬を多く用意する必要があって手間もコストもかかるのだが、エドゥアルドが国政を取って以来、順調に経済が発展しつつあるノルトハーフェン公国の力なら、可能であるはずだった。


 後は、アントンに主導してもらって作っている、参謀本部がどこまで威力を発揮してくれるかだ。


「とりあえず、ひと段落、といったところだな」


 まだまだ先は長いのだが、物事は順調に進んでいる。

 そのことに満足感と充足感を覚えながら、ノルトハーフェンからヴァイスシュネーへと戻る馬車の座席にエドゥアルドは深々と腰かけ、その場に誰もいないのをいいことに大きくのびをしてあくびをした。


(帰ったら、少しゆっくりしようか……)


 そしてそんなことを考えながら、扉の方に身体をあずけ、窓から車窓を眺めながら上機嫌に微笑む。


 アルエット共和国への侵攻戦争が敗戦に終わり、エドゥアルドがノルトハーフェン公国に帰還してから、すでに2か月近くも経とうとしている。

 もう夏も終わりだった。


 だが、エドゥアルドはその間、ほとんど休むことなく働き通しだった。

 それだけ、共和国との戦争に敗北したことで危機感を持っていたのだが、戦争に従軍した疲れも取れないままに働き続けて来たから、さすがにエドゥアルドは疲れを感じていた。


 たまには、コーヒーでも飲みながら、なにも考えずにのんびりしよう。

 今日の予定はもうなにもなかったことを思い出したエドゥアルドは、そう考えると、イスに深く腰かけてリラックスして、双眸そうぼうを閉じた。


────────────────────────────────────────


 エドゥアルドを乗せた馬車がヴァイスシュネーへと戻ったのは、ちょうど、午後のお茶の時間だった。

 オズヴァルトが申し出てきた昼食の会食を断り、馬車の車内でマーリアが作ってくれたサンドイッチで軽く食事を済ませたエドゥアルドは、ちょうど、空腹感を覚えていた。


 今日のエドゥアルドおつきのメイドは、シャルロッテだった。

 普段ならルーシェに頼むのだが、ルーシェは今日、月に一度のお休みで、いないのだ。


 だからエドゥアルドは、1人だけで視察に行っていたのだ。

 公爵ほどの身分になると、いつでも使用人を近くにはべらせ、些事さじはすべて使用人にやってもらう、というくらいでないと格好がつかないから、いつもならルーシェを連れて行くのだが、彼女は休みで、シャルロッテやマーリアたちも普段から忙しく働いていて手が空いていなかった。


「それで、ルーシェはどうしてるんだ?

 ちゃんと、休んでいるのか? 」


 自室に帰ってきて外出用の服から部屋着に着替えたエドゥアルドは、なにか用がないかたずねに来たシャルロッテにまずまっさきに、そうたずねていた。


「相変わらず、休ませるのに一苦労ですよ」


 そのエドゥアルドの問いかけに、シャルロッテは半ば呆れ、半ば嬉しそうにそうこたえて、肩をすくめてみせる。


「あの子ったら、自分は大丈夫だ、働けますっ、っていっつも駄々をこねるんですもの。

 さすがに休まないと身体にさわるからって、毎度毎度、言い聞かせなければならないので大変です」


 そのシャルロッテの言葉で、ワーカホリック気味のルーシェがジタバタ暴れながら駄々をこねる姿を想像して、エドゥアルドも微笑んだ。


「別に、もっと休んでくれてもいい……、というか。

 たまには、長期休暇でもとって、アイツの自由に、のんびり過ごしてもらいたいくらいなんだが」


 それから真顔になったエドゥアルドは、本心からそう呟いていた。


 ヴァイスシュネーで雇われている使用人たちには、定期的に休みが与えられる決まりになっている。

 毎日働きっぱなしだとどうしても疲れが抜けないし、使用人にだって仕事以外にやりたいことがあるだろうと、週に1日か2日程度は仕事を休んでよいことになっている。

 使用人たちの仕事がなくなるわけではないが、必要な人数を雇って交代で休めるようにしてもらっているのだ。


 だが、ルーシェはほとんど、休んだことがない。

 今日休んでいるのも、「月に一度の日くらいは、休まないと身体を壊します」と、マーリアやシャルロッテから厳しく言われているからだった。

 ちなみに、どうして[月に一度は]なのかという理由は、エドゥアルドは知らない。


 ルーシェは、いつも一生懸命に働いてくれている。

 それはエドゥアルドにとっては嬉しいことであり、感謝していることなのだが、病気などしてもらっては困るし、心配だった。


「その件についてなのですが、1つ、考えたことがございまして」


 すると、シャルロッテがそんなことを言った。


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