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メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記(完結・続編投稿中) ~戦列歩兵・銃剣・産業革命。小国の少年公爵とメイドの富国強兵物語~  作者: 熊吉(モノカキグマ)
・第11章:「軍制改革」

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第147話:「祝賀会」

第147話:「祝賀会」


 アルエット共和国侵攻作戦。

 それは、エドゥアルドにとって数多くの教訓をもたらす、苦い経験となった。


 エドゥアルドは、自身が公爵となってから再編成したノルトハーフェン公国軍の能力に、自信を持っていた。

 それはようやく新しい編成への転換訓練を終えたばかりの軍隊であって、その編成での実戦経験もなかったが、旧来の編成の部隊との模擬戦でも良い成績を残していたし、実戦でも通用するだろうと、そう思っていた。


 そして、実際のところ、ノルトハーフェン公国軍はよく戦った。

 補給不足に悩まされながらもエドゥアルドの努力もあって最後まで規律を保ち、ラパン・トルチェの会戦で帝国軍が敗北するという状況にあっても、戦意を失わずに最後までエドゥアルドの命令通りによく動いてくれた。


 エドゥアルドの手の届く範囲では、十分に、勝っていたのだ。

 共和国軍はノルトハーフェン公国軍の妨害によって帝国軍に思ったように追撃を加えることができなかったし、ノルトハーフェン公国軍は最小限の損害で任務を達成し、その後も1つの軍隊として十分活動できるだけの余力を残していた。


 エドゥアルドは、自身の手の届かないところで、敗北を味わうこととなった。

 そしてその事実は、公国のことだけを考えていれば良いのだという、それまで持っていた意識を改めさせるきっかけとなった。


 エドゥアルドたちはひとまず公国へと帰還することができたが、やることは山積みだ。

 公国を守るためには帝国全体で物事を考えて進めていく必要があるとわかったものの、まずエドゥアルドが手を出せるのはやはり自分の公国のことだけだったが、その国内のことだけでも、エドゥアルドが考え、決断を下さなければならないことは数多いのだ。


 きっと、目の回るような忙しい日々が続くことになるだろう。


 だが、エドゥアルドがまず手をつけなければならなかったのは、公国において、ささやかな祝賀会を開くということだった。


 帝国は、確かに戦争に敗れはした。

 しかしながら、エドゥアルドたちノルトハーフェン公国軍は立派に戦い、功績と呼べる結果を残している。

 十分な働きを示した軍の帰還を祝うために祝賀会を開き、戦争に参加した将校たちをねぎらうことも、公爵としてのエドゥアルドの仕事だった。


 エドゥアルドにとって幸いだったのは、祝賀会の準備はすべて、宰相であるエーアリヒ準伯爵が万事、整えておいてくれたことだった。

 エドゥアルドが公爵として親政を開始する以前は摂政として公国の実権を掌握していたエーアリヒは、実務能力に長けた優れた行政官であり、ぬかりがなかった。


 おかげで、エドゥアルドは集まった将校たちや来賓らいひんの前でどんなスピーチをすればよいかにだけ、悩めばよかった。


 エーアリヒが整えていたのは、祝賀会の準備だけではなかった。

 彼は、戦地から帰還して来た兵士たちに対し、休暇と一時金を支給する用意も整えていた。


 そのおかげで、ノルトハーフェン公国の首都であるポリティークシュタットは、祝賀会が行われるその日、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

 休暇を利用して故郷に一時的に帰る兵士たちも多かったが、支給された一時金を使ってパーっと騒ぐ兵士たちも多かったからだ。


 飲んで食べて、楽しそうにはしゃぐ兵士たちの姿には、敗北を経験した軍隊という悲壮感は少しも感じられなかった。

 なぜなら、兵士たちの間でも、大きな損害を出さずに功績をあげた今回の戦争は、ノルトハーフェン公国に限って言えば勝利と言って差し支えないという意識が広く存在していたからだ。


 そしてその兵士たちの意識は、エドゥアルドに対する信頼にもつながっている。 


 最初、その若さから、エドゥアルドの統治を不安視する人々は多かった。

 しかし、エドゥアルドが公国で親政を開始し、様々な改革を実行に移すと、徐々に人々の意識は変化し、エドゥアルドを新しい統治者として、肯定的に認めるようになっていった。


 それが、今回の戦争の結果、エドゥアルドに対する信頼と、期待へと進んだようだった。


 酒に酔った兵士たちは、口々に、エドゥアルドのことを古の名君にたとえて称賛した。


 エドゥアルドは、単に、新しいものが好きなだけの君主ではない。

 人々がまだ気づかない、想像もしたことのないよりよい世界へと導いてくれる、英明な君主であると、人々はそう考え始めているようだった。


────────────────────────────────────────


「いやはや、まったく、うらやましい限りじゃのぅ。


 その年でこれだけ、臣民に慕われることになるとはのぅ。

 君主としては、これ以上のことはあるまいて」


 祝賀会が行われている、ヴァイスシュネーの大広間。


 その大広間に隣接している大きなバルコニーから、ポリティークシュタットの下町にくり出して騒いでいる兵士たちの喧騒を見おろしていたクラウスは、赤ワインのそそがれたグラスを片手に、少しからかうような口調でエドゥアルドにそう言った。


「そんな風に、からかうのはおやめください、クラウス殿。


 僕としては、クラウス殿にも、ユリウス殿にも助けていただいたからこそ、今の結果があるのだと思っているのですから」


 エドゥアルドをうらやましいと言いつつも機嫌良さそうにワインの味を楽しんでいるクラウスのグラスに、自身の手に持ったボトルからワインをつぎ足しながら、エドゥアルドはまんざらでもなさそうにそう言った。


 近くには、クラウスの跡継ぎであり、次期オストヴィーゼ公爵のユリウスの姿もあって、彼はバルコニーの手すりに身体をあずけながら、静かに街の喧騒けんそうを眺めながらワインを楽しんでいるところだ。


 クラウスとユリウスの2人がこの祝賀会に参加しているのは、ノルトハーフェン公国軍とオストヴィーゼ公国軍は、互いに盟約を結んだ間柄として、帝国軍の野営地を引き払ってから共に帰還して来たからだった。

 そして、せっかく祝賀会を開くのだから、改めて親交を深めておきたいと考えたエドゥアルドが、2人を誘ったのだ。


 それは、エドゥアルドから2人への、感謝を示すためでもあった。


 ノルトハーフェン公国とオストヴィーゼ公国は、盟友関係にある。

 そしてその盟友関係は、戦場でも示されることとなった。


 グロースフルスに作られた、渡河点。

 その浮橋を守るために、オストヴィーゼ公国軍も被害を受けていたのに、「ノルトハーフェン公国軍が戻って来るまでは」とその場にとどまり、そして、クラウスとユリウスは、エドゥアルドが共和国軍の追っ手によって行く手をさえぎられた時に、エドゥアルドたちを救援してくれたのだ。


 ここまでは一緒に帰って来たが、ここで別れれば、また、顔を合わせるのはいつになるのか分からない。

 エドゥアルドはこの場で、クラウスとユリウスに自分なりに感謝を、きちんと示しておきたかった。


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