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第九話「文化祭の終わり。そして…」

中学生の文化祭の劇。


俺もやってみるまでは分からなかったが、思ったよりも緊張するものだ。正直、中学生レベルの劇を客席から見ると、セリフはたどたどしかったり、効果音のセンスも微妙。


セリフは聞こえないどころか、聞こえていても、何をやっているか分からないなんてのも普通にある。


そして、俺たちのクラスから出演するクラスメートたちも、舞台袖に来て、ようやく緊張してきたようだ。


だが、俺はどうにかなると思っている。違うな…。正確には知っている。


それに、2回目の俺はともかく、他の皆は一生懸命、練習していたし、あの剣太ですら、練習には参加していた。たまにサボっていたが。


緞帳が上がる。いよいよ俺たちのクラスの番だ。






以前はそんなことを考える余裕がなかったが、確かに、こういったイベントは男女の距離を近くさせるものだ。


練習が始まるまでは、この機会に智美と少しは仲良くできたらなんて考えていたが、想像した以上に仲良くなることができた。


俺の中身は30歳だし、未来で付きあった女子のことだ。


何となく喜びそうなポイントや嫌がるポイントが分かっているという、チートがあったわけだが。




「なあ。シナリオにケチをつけるわけじゃないんだけど…、脇役のダンスのところ、踊る人と踊らない人を作るってのはどうかな?」


「それって、剣太に配慮しろってこと…?」


「それもある。が、一番はやっぱり俺たち自身のためだよ。」


「えっと…、どういうこと?」


「皆がやっている劇で、やる気のない奴が居たとして…。客がその劇を見たときにさ、どんな風に感じると思う?」


「それは…。」


「演出上、ダンスが必要なのはOKだと思う。だけど、たったその1つのシーンだけで、俺たち自身のやる気を客に問われてしまう。それは嫌じゃないかな?」


「…じゃあ、どうしたらいいと思う?」


「踊る人と、周りで手拍子する人にするとか、掛け声を出す人にするとか、踊らなくても不自然な役を作ったらどうだろう?」


「うーん…。」


智美も少し頷いて考えた。演劇部であるからこそ、やる気のない劇というものが、どれほど客からの印象が悪く映るかを知っているから。


全体をとおして、剣太のダラ感は出てはいるが、幸いといってはなんだが、ダンスの場面を除けば、問題ないレベル。


だったら、不自然じゃない動作で、ダンスを外してやれば、アイツの嫌々感は出ないだろう。



「うん。分かった。志穂と相談してみるよ。」



そうして、結論を出した智美は志穂と話し合い、翌日にはダンスのシーンが変わり、剣太の嫌々感も無事、減少させることができた。




「…ありがとう。私たちが自分たちで考えたシナリオだから、変えるのは、絶対嫌って、思ってたんだけど…。」


「それはそうだと思うよ。あれだけ剣太がキレても変えなかったんだし。そこを変更してって頼んだのは、本当にごめんって思ってる。でも、あのまま行くと、多分、劇が終わった後に、クラスの雰囲気はきっとまた悪くなる。それに、智美たちだって。」


「うん…。そうだね。そう思うよ。私もそうかもって思ったから、志穂に変えてもらったよ。」




俺なりに1回、劇をやった時に思ったことだ。結局、剣太のやつはダラ感を出したまま舞台に出たため、何となく白けた空気の劇をやってしまった。ダンス自体は必要な演出なのかも知れないけど、全員踊っている必要はないと思った。それよりも、せっかく頑張っている智美を応援したい。そう思った結果だ。


「きっとうまくいくよ。」


「うん!頑張ろ!」


智美は満面の笑顔で、俺の手を取ってきた。


智美の小さな手がヒンヤリする。


俺は思わず、智美の手を握り返してしまったが、智美も握り返してきた。


ちょろいな中学生。などと考えると、未来の智美にぶっ飛ばされそうだが。


だが、初めて付き合う時は、それなりの苦労をしたんだから、今回、少しくらいズルをしても許して欲しい。







「これで、2年3組の劇を終わります。」


「ありがとうございました。」


「「ありがとうございました。」」


緞帳が下りてくる舞台で、俺たちは拍手に包まれながら挨拶をすることができた。


結果は分かってたとは言え、剣太のダンスを止めさせたこと、これがどう影響するかは、ぶっつけ本番だったが、結果的にうまくいったようだ。


ダンスがなくなった剣太は上機嫌で、俺が智美に助言したことが理由と知るといなや、それ以来、俺とよく話すようになっていた。


そして…、俺は智美のことをすっかり好きなってしまっていた。


未来に知り合った智美と同じ位に好きかも知れない。


実際は15歳差はあると言うのに変な気分だ…。


だってそうだろう。


未来でNTRされて絶望した俺が…、過去に戻って、また智美を好きなるなんて…。


俺は失意のどん底で自死したのだから…。









無事、出番が終わった俺たちは自由時間となった。


展示を見に行くもよし、他のクラスの劇を見るもよし。


衣装から制服に着替えて、教室に戻ると、まだ教室に居る生徒たちの方が多いようだ。


男子も女子もやり切った感で、まだ興奮気味の様子がある。


教室に入ると、皆に色々、声を掛けられた。


カンニング騒ぎの1件で、未だに俺と距離を置こうとするクラスメートも居たが、今はそれが払しょくされたかのような雰囲気だ。


前は拓と回ったが、今回も拓と展示を回ろうと思う。


教室で、こうやって過ごすのもいいが、せっかくの機会だ。


2回目とは言え、大人になると教師にでもならない限り、この一体感のようなものを味わうイベントに参加することはできなくなるのだから。




「ねっ、一緒にクラス、回らない?」


奏と唯が、俺と拓に話しかけてくる。


俺は拓の方をちらっと見ると、俺より先に拓が頷いていた。


お前は嬉しいだろうな。2人とも好きになるんだから。調子のいいやつと思いながらも、まあ、いいか。


俺も2つ返事で了承した。


「じゃ、行きますか!」


「食べ物の出し物とかもあれば、もっと面白くなりそうなのになー。」


「食べてるだけなら楽しそうだな。」


「だろっ!」



俺たちは、4人で色んなクラスや部活の展示を回り、奏が行きたいという軽音部のライブを見に行ったり、全力で文化祭を楽しんだ。


充実した気分で教室に戻ってくると、後、15分ほどすれば、体育館に集まって、校長先生の閉会の挨拶を聞く時間のようだった。


これで文化祭は終了だ。


一斉に体育館に行くと、入口で混雑して中々、入れないため、俺たちは、少し早いが体育館に向かうことにした。



「悪い。トイレ行ってから行くわ。先に行ってて。」


「おー。」



用を足して、1人遅れて体育館に向かうと、もう既に行列ができていた。


仕方なく、俺はその行列に並び、校長の挨拶までには体育館に入ることができた。


しかし、校長の挨拶は長い。社長の挨拶もそうだった。挨拶の長短でその人の人となりが決まるわけでもないのにと思うが、格というものを保つためにわざと長くしているという話もきいたことがある。


一方で、短い挨拶ができる人だなんていう内容の自己啓発本も読んだ記憶がある。結局主観でしかないんだろう。


周りの生徒たちも、内容の理解はともかく、ただ聞いているだけという顔をした生徒が散見される。


難しい内容を言いすぎても伝わらないし、生徒向けの挨拶というのにも、色々と校長先生なりの苦労があるんだろう。


そういえば、俺たちが卒業してからにはなるが、体育祭の挨拶で、校長の挨拶が長すぎて、救急車で運ばれる事件が数年後発生していた。校長先生が同じ先生であるかは見ていなかったので分からないが。


トントン と後ろからつつく指に後ろを振り返ると…、


「長い…。何とかしてくれよ。」


「できるわけないだろ…。」


文化祭以降、やたらと親しくなった剣太の愚痴だった。仕方ない奴だ。



その後、10分ほど、校長先生の挨拶が続き、展示の表彰などがされた。


俺たちの中学では、文化祭では順位を付けず、すべてが何らかの表彰をされるという形式だった。


文化的行事には順列を付けたくないということだったんだろうとは、卒業してからは思った。


俺たちの劇は、剣太のやる気のなさが伝わり、散々な感じだったのだが、それでも表彰されていたのだから。



「ねー、役をやったメンバーで、軽く打ち上げしない?」


教室に帰った、俺と拓と剣太に唯が誘ってきた。


「いいんじゃない!」


「みんなが行くなら俺も行くよ。」


「うん。行こうか。」


拓と剣太が賛成したので、俺も合わせるように返事をする。


「じゃ、これで全員ね。5時にマクドでもいいかな?」


「ああ。」


俺たち以外は、既に誘い終えていたようで、それだけ言い残すと、唯は女子の輪に入っていった。







「悪い。」


最後に来た、壮馬を待って、俺たちは店の中に入っていった。


懐かしいな。学生の頃はここの店舗に、よく来た気がする。


みんなはそれぞれの注文を受け取ると、2階に上がっていった。 


14人で座るとさすがにそれなりに場所を取る。


少し混んでいたので、テーブルを引っ付けれるところは引っ付けて、座った。


俺は、智美と秋山の準主役コンビと、脇役仲間の唯、拓、それと剣太と座った。


もう1つのテーブルに主役コンビの壮馬と志穂が座る。川村さんもそっちのテーブルに座った。


「みんな!お疲れ様!」


「「お疲れー!」」


志穂の掛け声で打ち上げが始まる。


始まりの挨拶を求められた志穂は、照れくさそうに、クラスの全員への感謝を口にしていた。


志穂は、白いニットに黒のスカート。智美はピンクのカーディガンっぽいのに、黒のスカート。唯は水色のパーカーっぽいのに、チェックのスカート。


女子の私服を見る機会は少ないが、やっぱりこの子たち可愛いな。


俺はもちろん智美推しだが。


今日の話だったり、いつもの話だったり、クラスの話だったり、話題は尽きない。


そんな中、俺はずっと気になっていたことがあったので、思い切って唯に聞いてみることにした。。



「なあ、あれから、勇人とどんな感じなん?」


「あー、その話?」


「まあ、気になっててさ。」


「あー、そうだな。俺も気になってはいたよ。まだちょっと壁がある感じするわ。」


「秋山君もそうなんだ。」


「ってことは、まだ?」


「そうだねー。私よりも奏は完全に避けられてる感じ。」


「恵は?」


「女子同士では、わりかしもう普通だよ。勇人とも普通な感じかな。」


「そうなんか。」


「男子はどうなの?」


「無視はされてないけど、でも、なあ?」


「ああ、まだちょっと気を遣うな。もう2か月以上経ってるけど。」




「あ、勇人が怒っちゃった話?」


志穂が私も混ぜて、と言わんばかりのタイミングで入ってきた。


そういえば、志穂はあの時居なかったんだった。とはいえ、やはり女子の中では話が回っているのか。


唯の目を見ると、軽く頷いた。やはりそのようだ。


変なことを言ったりしたりすると、すぐ回されるから、女子は怖い…。


「うん。その話。やっぱりまだ無視な感じなんだ。」


「そのうち、また元に戻るって。それで距離できちゃうようなら、そこまでだよ。」


「志穂って、結構言うね。」


「そう?男女なんてそんなもんでしょ。」


「おー。志穂さんが大人っぽい。」


確かにそうなんだろう。勇人は、他の人間に騙されたような思いを抱いた結果、それが許せないと思っているんだろうし、俺たちも共犯だしな。


志穂の〆に、何となくその話は終わり、違う話に移っていった。


それから、また、しばらく時間を過ごし、そして解散となった。




ところで、全くの余談ではあるが…、俺はマック派ではなく、マクド派だ。





期末テストが終わり、後は冬休みを待つだけという、ある日の部活の終わりの時間。


3年生が引退して以来、後片付けは当番制でやっていて、今日は俺の番だった。


といっても、バスケットボールを集めて籠に入れて、倉庫に入れるだけだ。これがバレー部になると、ネットの片づけとかが増える。部活自体は緩いらしいが、正直面倒そうだなとは思う。


やり直しの人生で、俺は日々、個人で走り込みや筋トレなどの軽いトレーニングを日常的にするようになっていたが、記憶とは違って、身体能力にチートな部分はないようだ。


身体能力の上乗せができたら、さぞかしスーパーマンになれたことだろう。


だが、俺にバスケの才能はなさそうだ。別に落ち込んではいない。おまけで拾った、この2回目の人生。楽しめたらそれでいいと俺は思っている。


前回の人生の記憶、今のところ、俺の人生を豊かにしてくれていて、この先もきっと使えるだろうという確信が俺にはあった。


さて、あとは倉庫の鍵を閉めるだけっと、…あれ。鍵がない。ああ、入口のところに置きっぱなしだった。


俺は入口付近に吊るしたままだった、体育館の鍵の束を取りに行き、鍵を閉めて、体育館を出ようとすると


「あ、そっちも今、部活終わり?」


「うん。演劇部はもう終わった?」


「うん。」


同じく部活の帰りらしき、智美がこっちに寄ってきた。そして


「へー。誰も居ない体育館って、めちゃ広く感じるねー。」


まだ、開いていた扉から体育館に入ってきた。


「わーー。」


「何してんの?」


「んー。青春?」


誰も居ない体育館に智美の声が響く。


前の人生では、こんな風に女子とふざけあう瞬間って、もっと少なかったような気がする。


「わーー。」


「うわっ、びっくりした。真似?」


「うん。青春。」


「あー、パクったー。」


俺が過去に戻って、そろそろ半年が経とうとしている。前の人生は最後の最後でどん底に落ちたが、この人生を歩むための人生なのだったとしたら、悪いものではなかったかもしれない。


「そろそろ、閉めたいんだけど?」


「ケチー。」


近づいてきた智美が上目遣いに俺を見る。


…、この子って、こんな表情したっけな。というか…、近っ!


「もう少し女子には優しくした方がモテると思うと、私は思うなー。」


「既に優しくしてますが何か。」


「えー。どこがさー。」


こんな風に、智美とふざけあえる時が来るなんて思いもよらなかった。それに前の人生では中学時代の智美をここまで知ることはなかった。


仕方ないと、髪をかき上げながら諦めた感じで智美が体育館から出ようとする。


つい見惚れてしまい、思わず目が合う。


何となく、そのまま2人とも見つめあってしまった。気恥ずかしい。智美もそう思ったのか、スッと視線を外して、後ろ姿となった。


その後ろ姿を見て、俺も帰ろうかと思ったその時、何となく俺は智美に声を掛けていた。


「なぁ、智美。」


「ん?」


智美が俺の方へ振り返る。


振り返った智美と目が合った俺はとんでもないことを口走っていた。


「あのさ。俺と付き合ってくれない?」

感想、誤字報告ありがとうございます。大変嬉しく思います。

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