第四十九話「今日も勉強、勉強っと」
夕方。
帰宅ラッシュが始まる前の、柔らかな光が差し込む時間。
私は改札を抜けようとしていた…。
その瞬間…、見たことのある顔がすっと横を通り過ぎる。
思わず、少しダッシュして追いかけて
「奏先輩!」
奏が振り返ると、そこにいたのは、中学時代のバスケ部の後輩である紗矢だった。
「紗矢…。久しぶりね。」
「お久しです!先輩。相変わらずお綺麗で」
私は笑顔で啓礼して見せる。
「お世辞はいいわ。K高に行ったんだっけ?」
「はい!先輩も帰り?」
「うん。」
2人は、駅を出てロータリーに向かって歩きながら会話する。
紗矢は、高校が分かれてからも、こうして先輩である奏と会えるのが嬉しいようだった。
駅を出たロータリーのところで…。
二人の目に、自転車に乗ろうとしている剣太の姿が映った。
剣太は、その隣、女子が後部座席に乗るのを待っているようだった。
私は、満面の笑顔で剣太に駆け寄る。
「剣太、先輩~!」
「お。紗矢。」
剣太は、紗矢の隣にいる奏を見て、軽く手を上げた。
「よっ」
「元気そうね。」
愛莉が、自転車の後ろに乗ろうとスカートを気にしながら、ちらりと紗矢の方を見た。
ややぎこちない笑顔で手を軽く振る愛莉。
剣太は、愛莉が乗り終わると、奏たちに背を向ける。
「じゃ、俺行くわ」
アッサリとした別れだった。
「はーい。またです。愛莉もね」
愛莉は、再びぎこちない笑顔で手を振り、剣太の後ろに座る。
そっと、愛莉に近寄り私は言う。
「また、よろしくね?」
愛莉が無言で頷くのを確認し、笑顔で私は送り出す。
剣太は愛莉を乗せて、すぐにロータリーから去っていった。
奏は、剣太たちを見送ってから、紗矢に尋ねた。
「剣太を知ってるの?」
私は、何でもないことのように笑って答える。
「はい。先輩繋がりです」
「そう。そういえば、秋本と付き合ってるんだっけ?」
「はい!」
私は、満面の笑みで答える。
「秋本とはうまくいってるの?」
「はい。もちろんです!」
紗矢は…自分で自分の性格が悪いことを理解している。
それでも、表面上、奏はそんな素振りも見せることなく、相手をしてくれる。
そんな奏を紗矢は紗矢なりに慕っていた。
1年の女バスで、夏休み明けぐらいから、急にハブられ出した。
私は、何こいつら?ぐらいしか思ってなかったけど、スルーしてたからか、調子に乗ってきて、脚を掛けられたりするようになった。
ある日、何人から呼び出されるので行くと、男バスの先輩に告られたことが気に入らなかったらしい。
知るかっ。
まただ、めんどくさい。
勝手に好きなってきて、告白してきて…
そうしてフルと、悪者扱い。
付き合っても、きっと悪者扱い。
どうしろっての?って感じ。
もう、どうでもいいやって思って、殴ろうかと思った瞬間…
私を攻め立ててた女子の一人が、ビンタされてた。
あいつらも何か言おうとしたけど、奏先輩が無言で睨み続けると、黙りこくった。
その日以降、少し、態度はよそよそしいままだったけど、露骨にハブられるってのはなくなった。
奏先輩もそういう目にあうことや、友人がそういう目にあったことがあるらしく…
そういうことで、ハブしたりすることを嫌う人だと、聞いた…。
私は、その時から、奏先輩の見る目が変わった。
八方美人なやつ…
そう思ってけど、そうじゃなかった…。
そう思うと、この先輩が私は好きになった…。
「さっきの子は剣太の彼女?」
「はい!私と一緒なので、奏先輩の後輩でもありますよ。」
「そうなんだ。」
奏は、少し考える。
あの子…紗矢のグループにしては…、ちょっと下って感じね…。
さっきのぎこちない笑顔の愛莉の様子が、少し気になりつつも、奏は踏み込むのを止める。
「ちょっとあそこで、カフェしていきません?」
私は、会えたことが嬉しくて、ちょっと話して帰りたくなった。
「いいよ。」
私が色んな愚痴を一方的に話す。
奏はそんな紗矢を微笑ましいように見ながら、相槌をうったりしている。
そういえば…、
「そういや、智美先輩も一緒の高校でしたっけ?」
「そうよ。」
「智美先輩の彼氏も同じ高校なんです?」
「同じよ。」
「すごいなーみんな頭良くて。」
私は、少し羨ましそうに言ってみた。
すると…
「I高目指せたくせに、私服がいいってだけでK高をえらんだんじゃないの?」
この先輩は相変わらず鋭い。
思わず一瞬目を見開いてしまった。
すっと一呼吸して笑顔を作り…
「バレた?」
「そんなことぐらいで高校を自由に選択できるあなたが何をいってるんだか…。」
呆れたように言われてしまった…。
「えへ」
上っ面の会話でなく、ちゃんと私を見てくれている。ちょっと嬉しくなった。
「ところで…。」
ん?
「そのネックレス、xxxのでしょ?」
「あっ、分かります?友達と一緒なんです!」
「紗矢は…」
「物は大事にする方?」
「…そうですよ?」
何だろう。急に変なことを聞くな…と紗矢は首を傾げる。
「使いすぎて…、壊してしまわないようにね…?」
!!
「はいっ。」
何…?
奏先輩からの視線が一緒、冷たく見えた…?
背中に嫌な汗が流れる…。
何…?私、奏先輩の地雷踏んだのかな…?
「似合ってるなっと思って。」
さっきの空気が何もなかったように、奏は優しい目をしていた。
…そうして話し込んでいると…、あっという間時間は過ぎ、時計は6時を回ろうとしていた。
「そろそろ帰る?」
「ほんとですね。あっという間でした。」
私は立ち上がり、財布を取り出した。
「今日は私におごらせてください?」
「大丈夫よ。」
「いえいえ。先輩には前におごってもらいましたし。それに、今日はお話しできて嬉しかったので。」
奏は少し仕方ないかという顔になり
「分かったわ」
奏は断るのをやめ、その好意を受け取った。
「じゃあ、またです。」
「ええ、またね。」
私は、笑顔で奏先輩に手を振って別れると、歩き出し…
『今から、行っても大丈夫?』
スマホでメッセージを送った…。
ふぅ。とため息をつく…。
危ない、危ない…
何か変に思われなかったかな…。
奏先輩の前で、知らないフリをする方が不自然かなと思ったけど、失敗だったかな…。
でも…、警告ってわけでもなかったし…
ほんとにネックレスを大事にしろって意味だったのかも
奏先輩は怖い目をする時がある…。
それが何だか分からないけど、次の瞬間には何事もなかったよう。
ちょっと気を付けないとかも…_
その時、スマホが震える…。
『待ってる。今日も見るのか?だったら、飲み物とか買ってきて欲しい。』
『うん、分かった!』
そっとスマホをしまうと…、また歩き出し。
スマホでメッセージを1つ送り、またカバンにしまう。
「さてと…、今日も勉強、勉強っと。」




