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第四十七話「もう少し見たくてな」

4月になり…


リョータたちは、2年生に進級した。


そして、新しいクラスでの最初のイベントは…、この高校の伝統行事で、学校から霊験ある山を目指して往復する、夜行登山だった。


リョータは前回の人生では別の高校だったため、この行事は初めての参加だった。


朝9時。校庭に集まった生徒たちを前に、リョータはふと昨日見た、ネットの情報を整理した。



こういった夜行登山について調べていると、全国的にも山まで夜通し歩く行事はそこそこあるようだった…。



そして、その実施校はだいたい、偏差値の高い学校が多かった。



昔は…、勉強が苦手な生徒が根性を鍛えるイベントだと勝手に思っていたが、どうも違うようだ…。



達成感や協調性の育成と目的には書いてあったが…





リョータの隣には、2年では同じクラスとなった奏が居た。歩きやすいようにか、いつもはストレートな髪をややアップにまとめている。



智美を目で追うと、小林さんや、麻衣たち女子の集団の中にいた。2年では智美はクラスは別れた。



壮馬は、友哉、綾乃、永瀬たちと楽しそうに話している。



そして…、引率の教師の合図で、生徒たちは出発した。









ようやく山に差し掛かると、辺りはすっかり夕方を過ぎ、暗くなりつつあった。



「ねえ、リョータ。この行事、女子のハンデがないとか、冗談キツいわよね」



「そうだな…。でも、こういう非日常イベントって、後でバカみたいに語れるんだろ?」



「それはそうかもね…。」



山に差し掛かると、道は暗くなっており、懐中電灯を頼りにする生徒たちもポツポツと現れ、歩き続けた。



「マジで足が重いんだけど。俺の体力、こんなもんだったかよ!」



「綾乃、俺たちもう無理かも。リタイアしない?」



「馬鹿言わないの。ここで諦めたら、来年からの友哉の進路、心配になっちゃうよ?」



「ヒッ、すいません!歩きます!」



綾乃と友哉と歩く壮馬は苦笑いした。



女子の集団からは、疲労の中にも笑い声が漏れる。



「麻衣、大丈夫?私、もう半分寝てるかも…。」



「智美~、寝るなー。死ぬぞー。起きろー。」



「…麻衣、あんたなんでそんなにテンション高いの…。」




道中は、要所要所には保護者やPTAのメンバーが立って見守っており、生徒たちに温かい声援を送っていた。




夜が深まった頃、一行は霊験ある山の麓に到着した…。



辺りは濃い霧に包まれ、静寂の中に神聖な空気が満ちている様相だ…。



山は、厳かな佇まいで生徒たちを迎え入れていた。



神々しい雰囲気だ…。



山に到着し、中間地点での休憩になると、地元の人たちが、温かいうどんを差し入れてくれる。



生徒は皆、待ってましたとばかりにうどんを受け取り、賑やかに食べる。




休憩中…、奏は一人、周囲を見渡していた…。



この山が放つ特別な空気に、惹きつけられたような気がしていた…。



奏は、誰にも声をかけずに少し離れ…、少し歩く。



何か光が見えたような気がして、近寄ると…、



道から外れた先に、苔むした古い祠があった。



奏は、足が吸い寄せられるかのように、祠に近づく。



祠の周りをゆっくりと見回した。



祠を覆う苔…、その奥に置かれた小さな石、



そして…そこから立ち昇る、時が止まったような静寂な空気。



体の中に冷たい水が流れ込むような、不思議な感覚さえ覚える…。



そして、傍まで寄ると…、



肌に触れる空気が一変した気がした…。



…??



…何だろう、この感じ?



体が、静かに馴染んでいくみたいな…?



祠を見ると、苔のほかにうっすらと埃が見える。



ふと思い立ったかのように、手に持っていたタオルで、祠の埃を払う。



…?何故だろう。



分からないけど、何だか…、優しさのような感じを感じる…?



埃を払うと、奏は一歩下がり…、



祠に向かって、無言で頭を下げる。



妙な気分だった。奏は何故かこの祠に親しみの他に敬意を感じている。



訳が分からない気持ちでいると…、



遠くで、奏と一緒に歩いていた芽衣が呼ぶ声がした。



「そろそろ、行かなきゃ…。」



奏は、もう一度祠に向かい、小さく呟いた。



「…ありがとうございました。」



そうして、早足で、芽衣のところに合流する。



「奏っちどこに行ってたん?そろそろ学校に向かって出発みたいよ?」



「ごめんごめん、静かなところだなと思って、ちょっと色々見てた。」



「この暗がりを?危ないよ?」



「そうだね。ごめん。ちょっとウロウロしちゃったよ。」





そうして、一行はまた、学校に向かって歩き出す…。



朝日が昇り、昼に差し掛かる頃…、生徒たちは、学校に帰ってきた。



校門をくぐった生徒たちは、疲労でくたくたの様子だ。



どうやらリタイヤは居ないようだ。



全員が学校にたどり着いだところで、校長が労いの挨拶をして、解散となった。



解散後、リョータ、奏、壮馬、小林さん、智美は、帰りの電車は一緒になったが、疲労でみんな無言だった…。



駅に着くと、みな限界だったようで、バラバラに帰路に着く。



「ようやく終わったか~。」



「リョータ…、おんぶ、おんぶ~。」



「めっちゃ…、周りに人がいるよ?」



「うぅぅ。さすがに…それは恥ずかしい…。」



リョータは、智美を励ましつつ、家まで送り届けるのだった…。













『何となく覚えていたのかも知れんな。殊勝な心掛けだ。』



『あらぁ、えらく、肩を持つのねぇ。』



『少し哀れに思えてな。それにこの程度、この世の理には微塵も影響はない。』



『哀れになったのは誰のせいなのかしらぁ。』



『人の夢、全てを求めるのは人の業のようなものだ。』



『あらあら。わたしは、喜び、怒り、哀しみ、色々な感情が味わえるのは嬉しいわ。彼らが作り出す激しい感情が、私を満たしてくれる。』



『ならば、不満はなかろう。』



『それにしても、手の込んだことをするのねぇ?贔屓じゃなくてぇ?』



『あの者の足掻き。もう少し見たくてな。』

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