第四話「電話」
「あー、これこの頃やってたんだー。」
昼休み、拓と抜け出したコンビニで、水曜日発売の少年誌を取りながら、俺は感慨に浸っていた。
この手触り、質感。そして内容。やはり…、これはリアルとしか思えない…。
「悪い。お待たせ。」
「おお。」
「ああ、それも買ったわ。読んだら授業中に回すわー。」
あー、完全にダメ人間の会話だな。しかし、まあ楽しい。普通の会話が楽しいと感じたのは久しぶりだ。
職場での会話はめっきり減り、会話と言えば、課長からの説教ぐらいだったからな。
一通り、雑誌の表紙を眺め、俺は拓とコンビニを出た。
普通にコンビニで買い物をしているが、実は立派な校則違反だ。
他の学校は知らないが、うちの中学は昼休み、そもそも外出を禁止していた。
当然、見つかると説教と、買ったものが放課後まで取り上げられてしまう。
一度、そんなことは知らず、真正面から戻ったら、見事に取り上げられたという体験がある。
「よし。見張りは居ないな。」
学校の周囲は住宅街に囲まれており、抜け出すときは、さくを乗り越えていくのが基本だ。
拓も俺も何度となく抜け出しており、この辺りは手慣れたものだ。
無事、見つかることなく、さくを越えた。
「あれ?2人とも何してんの?」
「!?」
誰も居ないと思っていたところに声がかかり、俺と拓に緊張が走る。
「あー、コンビニ?悪いなー。」
「ビビったー。」
クラスの女子たちだった。どうも今日はここで昼ご飯を食べていたらしい。
馴れ馴れしく注意してきたのは奏だ。
彼女も唯とキャラが似ている。明るくクラスの人気者という表現が実に合う女子だ。
唯や智美はキレイ系の可愛い系の顔立ちだが、こいつはちょっと幼い感じの可愛い系だ。
そして、来年、拓が告ってフラれる。
「私にもあとで貸してねー。」
「私もー。」
「あいよ。」
奏たちからの注文に拓が答えつつ、教室へと向かう。
奏たちがあそこでお昼を食べてたから、先生たちの見回りも居なかったのかも知れない。そう思うと少し感謝だな。
そんなことを考えながら、俺たちは自分の席に戻って、おもむろにコンビニで買ったパンを取り出す。
「しかしなー。購買ももう少しパンとかおにぎりとか種類を増やしてくれんかなー。」
「確かにな。たまごパンと焼きそばパンの2択は飽きる。」
「パンはまだもう少しあるが、おにぎりは終わってるな。梅と昆布だけって…。」
そう。購買のメニューは少なかった。
大人になってから分かったが、弁当の人間が大勢を占めており、購買は少数派であったため、
売れ残りを少なくするためにも、品数を減らしていたんだろう。
当時は、生徒会選挙で、購買メニューの拡大を訴えたこともあったな。
朝食もそうだったが、このパンも味がする。触感も。これは夢とは考えられない。
そして、この拓の反応。俺の見ている夢だとしたら、相手の動きなんて、こうも細かく再生されるものなのだろうか。
智美も友人たちと昼を食べているようだ。朝と同じように視線を向けてみると、やはり中学時代の智美だ。
余りジロジロ見るのもおかしいので、俺はすぐ視線を戻した。
このお昼時の喧騒感。しかし、色んな奴の雑談が聞こえてくるが、心地がいい。
仕事の昼時は、陰口ばかりを叩かれ、そうでない日も、陰口を叩かれるとおもってしまい、
俺はいつも、1人で近くのファミレスで時間を潰していた。
周りの喧騒が気にならない。これがこんなに素晴らしいものだったとはな。
視線を戻しながら、ふと見ると、唯と目が合った。ただ目が合っただけなのだが、視線をずらすのも気まずいしなどと思うと、
彼女は、スッと、優しそうな目をこちらに向けたかと思うと、視線を外した。
拓がニヤついていた。
「アピールが盛んだな。」
「違うし。」
こんなバカな話をしながら食べる昼飯が…、こんなに美味いとは…。俺はいつからこんな時間を忘れていたのだろう。
「さて、じゃあ行くかー。」
拓がゴミを片付けつつ立ち上がる。
「どこいくん?」
「あれ?お前、今日はサッカー行かんの?」
「ああ、行く行く。」
そいうえばそうだ。俺は中2の頃、昼を食べた後、友人たちと校庭でサッカーをしてることが多かった。
といっても、10人ぐらいだったので、今にして思えば、フットサルの方が近かったのかも知れない。
そうして、昼休みのサッカーを終えた俺は、5時間目の授業を寝て過ごし、放課後を迎えた。
周りのクラスメートへ適当に、別れの挨拶を交わしつつ、俺は教室を出た。
教室を出ると…廊下に智美が立っていた。誰かを待っているかのように。
俺は、特に智美と会話することもなく、俺は下足に向かうと奏がいた。
「今日はありがとねー。」
「ああ。ってか、あれ拓のだし。」
「そうだったんだー。じゃあ、リョウタにはまだ口止め料もらってないんだね。」
「いやいや、あれで2人分っしょ。」
「仕方ないなー。」
軽口を叩きつつ、奏と校門で別れ、俺は家路につく。
そうして、夕食を終え、部屋で改めて現状を整理していると、電話が入った。
「リョウタ。女の子から電話よ。」
母親が電話を持ってきた。
そうか。この時代だと、家の電話でのやり取りが主だったか…。
「もしもし?」
「ごめーん。ご飯食べ終わってる?」
「いや、もう食べ終わった。」
電話は奏からだった。