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第二十五話「春」

快晴の空の下、俺は智美と並んで駅の改札をくぐった。今日は高校に入って初めての遠足。



目的地は、少し離れた場所にある自然公園だ。智美は朝からずっと嬉しそうで、その笑顔を見ているだけで、俺の心は温かくなる。



1回目の人生では、高校時代は智美と接点がなかったことを思うと、少し不思議な気持ちも湧く。



「ね、リョータ!遠足、楽しみだね!」



「ああ。こんなに天気がいいと、最高だな。」



俺は智美と一緒に電車に乗り込んだ。車両には、同じ学校の生徒たちがたくさん乗っていて、あちこちで楽しそうな声が聞こえる。



奏や小林さん、志穂の姿も見えた。まだ、入学して1か月、中学時代からの友人たちと乗り合わせているクラスメートも多いようだ。



付き合ってる生徒は、この時期まだ少ないようだ。




「そういえば、壮馬、遅れるって言ってたよ。大丈夫かな。」




智美が心配そうに言う。そのとき、向かいの車両から、壮馬が慌てた様子でやってきた。




「壮馬!遅刻するんじゃないかと思ってたよ。」



「それがさ、朝、家を出るときに自転車の鍵を探したんだけど、見つからなくて……。さすがに朝から駅までダッシュは超ないわ…。」



壮馬がまだ肩で息をしつつ愚痴ると、隣に立っていた女子が、そっと声をかけた。




「あの…、さっき階段で時計落としてたよ?」



女子が壮馬に声をかけた。



「あれ?時計…?おおっ!全然気が付いてなかった。助かったよ!本当にありがとう!」



壮馬はズボンのポケットを探り、渡された時計を受け取った。



「それじゃ。」


「あっ。」



女子は名前を名乗ることもなく、軽く会釈をして、少し離れた場所に立っていた友達の元へ戻っていく。



智美はその女子の姿を目で追いながら、「確か、奏と同じクラスの…」とつぶやいた。



「ん?誰か知ってるのか?」



「うん。なんか、木島芽衣さんだったような気がするんだよね。違うかな?」



智美は首をかしげた。俺は智美の言葉を聞いて、少し考えた。木島芽衣……。見慣れない顔だ。まだ、クラスメートですら覚えきれていないし当然といえば当然か。



「奏と同じクラスだったら、また見かけることもあるか。」



「壮馬に対してあんなあっさりした女子ってのも久しぶりだな。」



「いや、普通だろ。」



「お前は、女子をひっかえとっかえしなければ本当に、いいイケメンなんだがなぁ…。」



「いやいや、違うよ?勝手に付き合ってることなって、勝手に二股掛けてることにされてたり、俺は被害者ムーブしかしてないんだけど!?」



「はいはい。」



「リョータも壮太君みたいに二股するの?」



「しないしない!俺は智美だけ!」



「お前らな…。」









他愛ない会話で電車に揺られること一時間、俺たちは自然公園に到着した。今日の遠足は、新入生同士の親睦を深めるためのバーベキューだ。



クラスごとにテーブルが割り振られ、俺たちは智美と、一つのテーブルを囲んだ。



「おーし!じゃあ、俺が火起こしを任されたから、頑張ってくっぞ!」



壮馬が声を張り上げ、焚き火台に炭をくべていく。俺や男子数人が手伝い、すぐに火が安定してきた。



女子たちは、野菜を切ったり、肉をタレに漬け込んだりと、手際よく準備を進めている。



智美は、慣れた手つきで玉ねぎをスライスしている。その横顔は真剣で、どこか美しささえ感じた。



「智美、手、怪我しないようにね。」



「うん、大丈夫だよ。」



「はいはい。過保護はそこまで。甘やかすと智美ちゃんが何もできない子になっちゃうよ!」


「だよねー。入学からずっとラブラブで、私のメンタル落ちるいっぽうなんだけど!」



智美といつものようなやり取りをしていると、古田さんと成瀬さんの女子2人から突っ込まれた。



古田さんも成瀬さんも智美と同じで、所謂陽キャと呼ばれる女子生徒だ。



成瀬さんは2日目から早速、髪を染めてきていて、クラスから少し視線を集めたものの、最初の実力テストで、クラス2位の成績を取った才女だ。



キレイ系の子で、女子からも男子からも人気があり、この1か月の間に既に3人を振ったらしい。



そんな彼女の口癖は『メンタル落ちる』だ…。



タイムリーパーな俺はクラス3位だった縁か、気さくに絡んでくる。たまに談笑していると智美にジト目で見られることすらある。




智美は俺に笑顔を向けた。その笑顔を見るだけで、俺は満たされた気持ちになった。



「ねえ、リョータ。前さ、みんなでバーベキュー行ったじゃん。あの時みたいで楽しいね。」



智美が唐突に口を開いた。俺は心臓がドクリと音を立てた。



「バーベキュー…?いつの話?」



「え?覚えてないの?2年の時だったかな、みんなで行ったじゃない。リョータと壮馬と、拓君もいたよ。」



智美は不思議そうに首をかしげる。その言葉に、俺の心臓はドクリと音を立てた。



バーベキュー……。そんなこと…、俺は覚えていない…。



「……そうだったっけ?」



俺はそう言って、智美の手を握りしめた。智美は少し困ったような顔で、俺の手を握り返してきた。




(おかしい……。俺に皆でバーベキューに行った記憶は…ない…。俺をハブってたにしては、俺も居たと智美は言っている。…一体…。)




不安な気持ちを抱えながら、俺はバーベキューを楽しもうと努めた。




バーベキューも終盤に差し掛かった頃、俺が少し離れた場所で飲み物を買っていると、智美が誰かと楽しそうに話しているのが聞こえてきた。



智美の楽しそうな笑い声に、俺はホッとした。


しかし、近寄ると、智美は慌てた様子で俺に背を向けた。



「あ、うん。またね。」



そう言って、智美は慌てて話し相手に告げ、俺の方を振り向いた。



「え?ううん、何でもないよ。ちょっと、忘れ物がないか、確認してただけ。」



智美は笑顔でそう答えたが、その笑顔はどこかぎこちなかった。俺はそれ以上、何も聞くことができなかった。



(……?)






遠足の帰り道、智美は少し上の空で、俺との会話もあまり弾まない。



俺が「どうしたの?」と尋ねても、智美は「大丈夫だよ」と、どこかぎこちない笑顔を見せるだけだった。



遠足が終わり、俺は智美と別れ、家に帰った。



自分の部屋に戻った俺は、遠足で撮った智美とのツーショット写真を見つめる。



(今日の智美は、本当に楽しそうだった。あの笑顔は、嘘じゃないはずだ。)



写真に写る智美は、いつもと変わらない、輝くような笑顔だ。しかし、その笑顔の奥に、俺は隠された闇を感じる。



俺は、ふと、次の写真に目をやった。すると、そこには、走り書きで文字が書かれていた。






『……を止めろ』






俺は、言葉を失った。




俺は、慌てて、写真をもう一度凝視した。



すると…、そんな文字は…なかった。



スマホから目を離して、もう一度見ても、文字はやはり見えなかった。



「気のせい…か?」



スマホのバグなのかも知れない。俺はそっとスマホを置いて、夕食のテーブルに向かった。

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