第二十一話「卒業」
澄み切った晴れた空。一昨日までの緊張が何事もなかったのようなそんな気分。
校門を超えると、いつもよりもにぎやかな声が聞こえる。
笑顔だったり、もう泣いていたり。
「おう、3日ぶり。」
「おお。久しぶり。受験どうだった?」
「きっと大丈夫なはずだ。」
俺はあえて、胡散臭そうな顔作って、ジロジロ見る。
すると、少し目が泳いでいた。
おいおい。コイツ本当に大丈夫だったのかよ。
私学落ちてて、後が無いっていうのに…。
こういうところが…、剣太らしいとでも言うのだろうか…。
教室に入ると、既に喧噪状態だった。
それはそうか。
実際、中学卒業後、1度も会ったことないやつなんて、山ほど居た。
智美だって、就職するまで出会わなかったのだから。
「おはよ…。いよいよ今日になっちゃったね。」
「ああ。おはよ。似合ってるなそれ。」
卒業式のために用意したのだろうか、少し大きめのバレッタで髪をとめていた。
智美…。
思わず少し見惚れてしまう。
「はい、バカップルはあとでいいから。写真撮ろうよ、写真。」
「え、卒業証書貰ってからじゃないの?」
「卒業証書貰ってからも、貰う前も撮るの。当たり前でしょ!」
いい中学校生活だった…。
俺は心からそう思った。
公立高入試の結果は、来週分かる。その前に、俺たちは今日卒業式を迎える。
まさか、もう一度、中学校の卒業式を迎えることになろうとは…。
少し目頭が熱くなる。
「あれ?リョータ泣いてる?」
「それは泣くだろ。だって、俺たちと高校離れるんだぜ?I高なんて行きやがって。」
「いや、泣いてないし。まだ合否発表されてないし。」
「へー。意外と卒業で感動とかするんだ?」
「まだ、式始まってないのに、気が早いなぁ。」
そうだな、言われてみれば、俺は泣いているのかもしれない。
人生が終わったとばかり思っていたのに。
こんな気のいい奴らと、大好きな彼女と…、
こんなに楽しい学生生活を送れたのだから。
駄目だ…。
「ちょ、リョータ。これハンカチ。」
智美が焦って渡してきたハンカチで、俺は目頭を押さえる。
「こんなレアなとこ写真にちゃんと残しておかないと!」
「ちょっ。」
照れくさくなってきたところで、頭を優しく撫でられる。
優しい顔の智美が俺を見つめている。
俺はつい…、
「バカップル反対ー。」
「うっさい。」
「ちょ。。恥ずかしいよ?仕方ないなぁ…。」
教室の中で智美に抱きついてしまった。
少し狼狽えながらも、智美は困ったような顔で俺にされるがままだ。
●
「はい。撮るよー。笑ってー。」
「はい。おっけー。」
式を終えたあと、クラスごとに卒業アルバム用の写真を撮る。
卒業アルバムが届くのが少し恥ずかしい。俺の目はきっと真っ赤だろう。
この後、藤原先生を交えて、焼き肉屋でクラスの打ち上げだ。
「…卒業おめでとう。」
「うん。卒業おめでとう。4月からもよろしく。」
「そうだね。合格してればだけど。」
「皆、きっと大丈夫よ。」
写真を撮り終えたところで、奏がやって来た。
学生生活、楽しく過ごせた理由には、彼女もある。
3年でクラスは分かれてしまったが、皆でよく会う機会があった。
一生の友だちというのは、こういうものかも知れないな。
などと感慨に浸っていると、背中に衝撃が走る。
「おい、そこの浮気者!浮気する前に私たちの写真も撮れよ!」
「痛いんだけど…。」
「はい。カメラ。きれいに撮ってよね。」
「はいはい。」
後ろからいきなり叩くなよな。全く。俺は唯からカメラを受け取り、唯たちの写真を撮る。
「目瞑ってる写真あったら、弁償だからねー。」
「どうやって弁償するんだよ。」
最後までにぎやかな奴だ。
彼女は高校は別になる。そう考えると、この賑やかさが最後かと思うと、少し寂しくなる。
「俺らも撮ろうや。」
拓と壮馬が肩を組んでくる。
「ああ。もちろん。」
彼らにも随分と世話になった。やり直す前よりも、すごく濃い付き合いをさせてもらった。
いかん、また泣きそうだ。
ぐっとこみ上げるものがある。
その後も、話しても話しても話したりないくらい皆と話した。
そして…
「打ち上げ、一緒にいこ?」
「うん。」
俺は、智美と一緒に校門を出る。
こうして、俺の2回目の中学校生活は終わりを迎えた。
俺はすごく幸せだ。