第二十話「2人の時間」
「あれ…、この写真ちょっと変顔?」
「あー、その写真せっかく皆で写ってるって思って買ったけど、私だけ目を瞑ってたの気にしてたのにー。」
「ごめん、ごめん。」
「もぉー。」
冬休みの初日、塾の冬期講習がなかったため、受験勉強をするという名目で智美の家をリョータは訪れていた。
そして、休憩の合間にと、修学旅行の写真を2人で見ていた。
「写真で見ると、えげつないなこの崖。」
「うん。そうだね。でも海がすっごく綺麗だった。」
「そうだね。カヌーも良かったよ。」
「リョータ、海に落ちてたね。海はきれいだったでしょ?」
そういえば、そうだったな。壮馬たちと、つい競争したらバランスを崩した俺と冬田が乗るーはひっくり返って、俺と冬田は少し肌寒い10月の海に投げ出された。藤原先生にも心配されつつも、えらく怒られた。
カヌー体験のほかにも、塩作りやスルメイカ作りなんかもした。
あとは、今見ていた写真のとても広い崖のあるところにも行った。
高校の修学旅行は、北海道でスキーだった。2日間スキーをして、3日目に少し観光があってという感じで、スキー自体は楽しかったが、スキーとスノボしかやることがなく、正直それほど印象がない。
I高の修学旅行先は調べていないから分からないが、スキー以外だと嬉しいと思う。
「へぇー。これが言ってた教会か。」
「きれいでしょ。」
2日目の自由行動の時間、唯たちと一緒に色んな教会を見て回ったと聞いていた。
俺は、奏と壮馬の陰謀により、強引に智美とは別の班にさせられて、一緒に海の方の島を見に行ったり、展望台に行ったりしていた。いや、これはこれで楽しかったんだけど…。
「一緒に回りたかったなぁ。」
「じゃんけんで決めたんだし、しょうがないよ。」
「そうなんだけどさぁ。」
「でもさー。勇人と恵は同じ班だったってずるくない?」
「それはあるかなー。」
そう、班分けはじゃんけんで行われた。
だが、俺以外全員が組んでいるというトンデモじゃんけんである。余りにも分が悪かった。
俺と智美の同じ班を阻止するという謎の団結によって邪魔をされた。
そして、しれっと、勇人と恵は智美と同じ班になったのだが…、
実は付き合い始めたというのを、初日の晩に勇人から聞いた。
俺たちの班分けの様子を見て、言い出せなかったと謝罪されてしまい、羨ましいやら恨めしいやらの気持ちになったが。
しかし、勇人と恵の気持ちは分かる。付き合いだしてすぐだし、一緒に居たいと思うよな。
とはいえ、所詮は中学校の修学旅行だ。この先、一緒に旅行する機会を作ろうと思えば作れるだろう。こういうノリも含めて、中学校の修学旅行なのだろう。
あらためて、智美たちが映った写真を手にとる。
「ん?これは?」
「あ、これ、大きい木でしょ。せっかくだしってことで、皆で撮ったのと、1人ずつでも撮ったんだよ。」
「へー。」
「この辺りにね、洞窟っぽいのがあってね。冬田君が学校の近くでも洞窟を見つけたって言ってた。」
「洞窟?」
「うん。あるらしいよ。」
「そんなものがあるのなら、一度見てみたいな。」
「ね。それよりも…、楽しかったな。また、リョータと旅行に行けたらな。」
「うん。俺も行きたい。」
少し、部屋が静かになり…、
隣に座る、智美が少し俺の方に寄ってくる…。
「智美…。」
リョータはそっと、智美の肩に手を掛ける。
2人は見つめあい、そして、リョータはゆっくりと智美に顔を近づけた。
智美の唇に、リョータは自分の唇を重ねた。
「好きだよ。智美。ずっと…。」
リョータは少し顔を話し、智美に視線を合わせながら、そっと囁く。
「私も…好きだよ。」
2人はもう一度…、キスをする。
「明日は智美の家でクリパだけど…、バレないようにしないとね。」
照れたような笑顔の智美が言う。
今日はクリスマスイブ。
リョータと智美が付きあって、丁度1年の日、この日2人は初めてのキスをした。