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第十七話「唯VS剣太」

「2年の時から嫌いだった。」


唯は、聞いたこともないような、冷たい声でそう言った…。


「…」


俺の両手を志穂と恵が掴み、俺に向かって、首を横に振る。


ああ、飛び出すと思われたのか。俺は深呼吸し、2人の目を見て、黙って頷くと、2人は手を離してくれた。










GW最終日。俺は惰眠を貪っていると、まだ朝の8時にも関わらず掛かってきた電話に、叩き起こされることとなった。



「なあ、ちょっと今日、一緒に来て欲しいところがあるんだが。」


「こんな朝早くからか?」


「ああ、昼くらいに行きたいんだ。」


昼って…。まだ8時だろ。どれだけ気が早いんだ、剣太は…。


眠気が覚めないまま、電話口の剣太から返事があった。


「どこに行くってんだ?」


「学校。」


「は?今日は休みだろ?」


「ああ、もちろん休みだ。」


いつもながら話の要領を得ない。なんだって、祝日に学校へ行こうって言い出してるんだ。


行かないと言えば、しつこく電話がかかってくるだろうし、面倒くさいな。しかし…なんだ急に。少しは気になるが…。


「行ってもいいが、何しに行くんだ?さすがに目的くらいは教えてくれよ。」


「ちょっと離れて見てて欲しい。」


…ダメだこいつは。仕方ない。少し丁寧に話を聞くか…。





なんとか、剣太から話を聞き出すと、時計は既に9時を回ろうとしていた。


なんと唯を学校に呼び出して告白するから、見てて欲しいというものだった。告白は1人でしろよ…。


だが、ここまできてようやく思い出した。


剣太が唯にフラれる日のようだ。だが、確か2年の時にフラれたと聞いていたが。少し変化したのかも知れない。部活終わりに体育館裏で告白して手酷くフラれていたと聞いたが、そんな噂も聞いたことがなかったから、今回はまだ告白していなかったということか…。そして、今回は休日に学校へ呼び出して告白するらしい。


もう少しマシな告白を考え付かなかったのかこいつは…。


「…唯は来るって言ってるのか?」


「ああ、昨日、電話した。」


唯も人がいいのか悪いのか…。いや、剣太の印象も違っているのかも知れない。手酷くフラれると決めつけるのは早計だ。


「分かった。で、どうすればいいんだ?」


唯を1時に呼び出しているらしいので、12時半には学校に着きたいとのことだった。


今から朝ごはんを食べても時間的にはお釣りは来る時間だ。


「分かった。じゃあ、12時半に北門のところで待ち合わせでいいか?」


「おお。待ってる。」


「じゃあ、後でな。」


俺は電話を切ると、渋々寝床から這い上がる。


クソ面倒な。相変わらず人の都合を気にしない奴だ。そもそも電話で告白でいいじゃないか…。


「さてと…。唯は本当に来てくれるのかねぇ。それが一番心配だ…。」


俺は一人呟くと、朝食を取りダイニングに向かった。







グランドを見ると、リトルリーグか、小学生ぐらいの子どもたちが野球の試合をしていた。


休日は、今日のように学校開放日として、グランドが解放されていることがある。


バッター席に立つ名も知らない少年を心の中で応援していると…


「悪ぃ。遅れた。」


「お前な。お前の用事だって分かってるよな?」


「悪ぃ。悪ぃ。ちょっと自転車の鍵が見つからなくて」


待ち合わせ時間を過ぎても現れない剣太に少し不安になっていたところ、15分遅れて剣太がやって来た。


こいつ本当に緊張感がないな。俺は少し呆れる。


唯は、南門から通学しているから、こちらでは見なかった。それくらいは考えたのだろうか?


「じゃ、行こう。」


剣太に先導されて、俺も学校に入る。


休みの日に、私服で学校に入る。ちょっと妙な気持ちだ。


もっとも、今から起こることの方がもっと妙ではあるが。


剣太が来たのは体育館の裏だった。


「あそこらへんから離れて見てて欲しい。」


剣太が指さす方向には、用具などが入れられている倉庫があった。


別に構わないんだが、あまりコソコソしてるのも、万一見つかったとき、唯の心証が余計に悪くなるかも知れないんだが…。


剣太の場合は、勢いで行動していることが多い。俺の待機場所も今考えたんだろう。


俺は諦めつつ、倉庫裏に来ると、隠れるように体育館が見える場所を陣取った。



「…何してるの?」


振り返ると、そこには俺と同じく私服の志穂と恵が立って、俺を訝しむように見ていた。


「え?お前たちこそ…、どうしてここに?」


「私たちはちょっと…。」


「うん…。」


2人は歯切れの悪い返事をする。だが、そのことが俺に答えを導かせた。


「唯の付き添い?」


「リョータも?」


「ああ。俺は剣太側だけど…。」


「そっか。男同士の友情ってやつ?」


「違う。朝から無理やり叩き起こされて連れてこられた…。」


「ふふ。それでもついてきたんでしょ。リョータらしい。」


志穂はそういうと優しく微笑んだ。


唯側も立ち合いが居たのか。今更ながら俺はそんなことを考えていた。


1人で見ててもと思ったところだ、丁度いい。


「唯はもう来てるの?」


「うん。時間丁度に行くって、廊下で時間潰してると思う。」


あちゃー。絶対ダメだろうなこれ。志穂に目で尋ねてみる。


志穂には伝わったのか。目を瞑り、首を横に振る。脈はなさそうだ。




「あっ、剣太が来たよ。」


「唯も来た。」


「なんだ2人とも、時間ピッタリじゃないか。」


「先に来て、待っておくとかしたら、少しは好感度上がったかもにねぇ。」


呟くように恵が言う。


智美との待ち合わせにいつも遅れている俺にはグサリと刺さる呟きだ。


だが、俺は時間通りなのだ。むしろ5分前には来ている。それでも智美に勝てないだけで、俺は剣太とは違う。心の中で俺は恵に反論していた。




「やっ。」


「うん…。」




少し遠いが、校舎に誰も居ないからか、小さい声でも2人の声は通っており、俺たちのところにまで聞こえてきた。


俺が告白するわけではないが…、少し緊張してきた。


「元気?」


「うん。」


「GWどっか行った?」


「どこも…。」


うわぁ…。片言で会話がまるで弾む様子がない。


これで告白するって、むしろ尊敬だわ。





「あのさ…。」


「…何?」


「2年の時から、ずっと好きだった。だから、俺と付き合って欲しい。」


「私は…






2年の時から嫌いだった。」








「自分勝手だし…。周りに気は使わないし…。私さ…、自分で言うのもなんだけどさ。あまり嫌いな人っていないんだ。」


「私だって、完璧な人間なんかじゃないし、私のことを嫌っている人も居るって分かってる。」


「けどさ、あんたは違う。」


「すごく自分勝手で。ごめん。アンタだけは無理。大っ嫌いだった。」


「人の気持ちとか考えたことある?私は、どんなにカッコよくても頭が良くても、人に優しくできない、人のことを考えることができない、人として尊敬できない男子と付き合うなんて…、無理。」


「なっ…。」


あんまりな言われように、剣太は絶句する。



うわあ…。これは中々えげつないな。唯ってこんなズバズバ言うタイプだったか。これは怒らせると怖いな。前の告白の時はここまで酷くなかったと思うけど…。


チラッと、恵と志穂を見ると、2人も、少し引いたような顔をしていた。


「唯って、結構ズバズバ言うね…。」


「…うん。多分、本当に嫌いなんだと思う。2度と告ってくるなって思わせたいのかも…。」


「そんなにか…。」


「うん…。文化祭が止めを刺した感じかな。」


「あー…。あれか…。」


小声で2人とやり取りすると、結構前から唯は剣太を嫌っていたことを知っていたらしい。


「あっ、唯が行くみたい。」


「じゃ、私たち、唯の方に行くから。」


「あ、ああ。」


「じゃあね。剣太の方をよろしくね。少しは励ましといてあげて。唯と付き合うとかは絶対無理だろうけど。」


「ああ。また。」


2人は、剣太に見られないように遠回りして、唯の方に向かって行った。そして、俺はまっすぐ剣太の方に向かう。


「どうだった?」


「ダメだったわ。」


「そうか…。」


「また、アタックするわ。」


コイツ…、あのフラれ方で再チャレンジするなんて…。なんて鋼のメンタルしているんだ。俺だったら顔を合わせるのもキツイわ。


「悪ぃな。今日は。」


「ああ、気にするな。」


「ちょっとゲーセンでも行かね?」


「…ああ、たまにはいいか。」




こうして、この日、一つの恋は砕け散った。

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