第十五話「嘘告」
「リョータのことが好き。だから…、私と付き合って欲しい。」
奏の告白を聞いた俺は、少し黙っていた。
そして、奏の目を見ながらハッキリと返した。
「ありがとう…。でもさ、全然本気じゃないでしょ…。」
「意外と人を見てるのね。正解。全然、本気じゃないよ。」
奏は悪びれた様子もなく、アッサリと言った。
●
時間は、今日の昼休みに戻る。
いつものように拓とサッカーに行くところが、生憎の雨に降られて、俺は教室で雑誌を読んでいたところ、奏が傍に寄ってきた。
「今日って、放課後時間ある?」
「ああ、別に予定はないよ。」
「じゃあ、ちょっと残ってくれない?」
「ああ、いいよ。用事か?」
「うん。そんなとこ。」
そうやって何の用事か全く分からないまま、教室に残され…、
連れてこられた先が、北校舎の理科室裏だった。
3年になって、クラスが分かれたからか、めっきり奏の顔を見る機会も減った。
部活の雑用かと思っていたところ、奏が話し出す。
「ねえ。リョータ。」
「何だ?」
「モテキって聞いたことある?」
「ああ、人生には何度か、モテる期間が来るってやつか?」
話の意図が分からないまま、俺は聞かれるままに答える。
あれ?そういえば、こんな風に奏と2人きりで教室に残ったことがあった気がする…。
あれは何だったか…。
「私ね、思うんだ。良い男って、女子はほっておかない。」
「うん。」
「そう考えた結果、私は結論を出した。」
「うん。」
「良い男には彼女が居る。彼女が居る男は良い男。彼女が居たとしても、良い男にはアタックしていいよね。」
「は?」
「リョータは今、モテキ。だから…。」
「リョータのことが好き。だから…、私と付き合って欲しい。」
●
何だ…、この雑な告白は…。
こんな適当な告白があるのだろうか。
普段、意識することなく接しておいてなんだが、…奏は美人だ。
実は読モをやっている。そんな風に言われてもおかしくないレベルだ。
制服姿ですら存在感があるのだから、私服の奏は結構、ナンパをされることも多いらしいと聞いた。
性格はややきつめではあるが、誰とでも気さくに話すし、人当たりもよく、リア充中のリア充、そう呼んでも差し支えないだろう。
それが奏という女子だ。
そして、俺は完全に思い出した。これは嘘告だ。
一度目は何が何だか分からないまま、告白されて、迷っている間に、即決できない男子はゴミだ屑だとボロクソ言われて、嘘告だとネタばらしされたやつだ。
なんだこれは。嘘告を2回もされるって、俺ってどうなのよ。
「…こんな適当な告白は初めてだ。」
「ちょっと智美と付き合ってるからって、調子に乗ってる罰ね。」
「何で、智美と付き合ってたら罰が下されるんだよ…。」
これは酷い。嘘告自体もかなり適当だ。
罰ゲームなのか何か分からないが、奏がこの役をやることとなり、適当にその役をやった。そんなとこだろう。
何で、世の中のリア充ってやつらは、こうモブのメンタルを削って楽しむのか理解に苦しむ。
しかし…、このやる気のなさで、俺も本気と全く思わず、傷付かなかったことも事実だ。
女子カーストのトップに君臨する奏ですら、断りづらい何かがあったのだろう。
「私さ…。」
「ん?」
「壮馬のことが好きなんだよね。」
一瞬でも奏のことを心配した俺がアホみたいだ…。
すっかり毒気を抜かれた俺は奏に聞く。
「これは女子同士の罰ゲームか何か?」
「当たり。珍しく勘が鋭いね。」
「お前、俺が被害者って忘れてるよね?」
「被害者?私に告白されて何の被害があったの?」
「いや、俺、彼女持ちだからね?」
「あー、暑い暑い。」
そして、彼女はふぅっと息を吐き出すと、満面の笑みをこちらに向けてきた。
「バカップル。」
「なっ!」
そうして、彼女は荷物の置いてある教室の方に歩き出した。