第十四話「春休みのひと時」
春休みに入ったある日のこと。
リョータと拓、そして冬田の3人は近所のファミレスで、昼食を取っていた。
「俺、最近、彼女って良いなって思っててさ」
リョータは、ドリンクバーでさっき入れて来たばかりのジュースを飲みながら言う。
「具体的に何がいいんだ?やることはやったのか?」
「そうだな。そこは友人として、今後の勉強のためにぜひ教えておいて欲しいことだな。」
軽く惚気ただけのつもりが、拓と冬田からタッグでカウンターを喰らった形になった。
「俺たちはまだ健全な中学生だからな。」
「それでもキスくらいはしただろう。」
拓はそう言いながら、席を立つと、ドリンクバーにジュースを取りに行った。
そして、席に残る冬田も言う。
「健全な中学生男子ならそれくらいは普通だろう?」
そんな拓とと冬田に対して、リョータはランチメニューのパスタを食べながら言う。
「否定も肯定もさ、智美の耳に入ると嫌なことは俺は言わないよ。」
冬田がジト目を向ける。
「彼女持ちはすぐこれだ。持たざるものへの配慮がない。彼女欲しいわー。どうよ拓。」
「全くだ。俺たちは友人として、リョータの健全度合を図ろうとしていたのにな。」
「てかさ、お前らも告ればいいじゃん。好きな子ぐらい居るんだろ?」
「「!!」」
「拓はさ、ずっと好きな子がいるよな?」
「なっ!」
「冬田もさ、今は偶々居ないけど、1年の時は居たって聞いてるし、今も3組の子といい感じって、聞いてるよ?」
「おまっ!」
今日は別に俺の事情聴取というわけではない。お前たちの話を聞かせろと、リョータは暗にそう提案する。
「さて、拓さ。さっさと唯に告ったらいいじゃん。」
「いや、上手くいく気が全くしない。」
「どうなんだろうな。周りから見てるだけだと、そんな悪い感じもしないけど。」
フラれる未来を知っているだけに、焚きつけるのも悪趣味な気がするが、かといって後押ししないのも不自然だ。
しかし、唯は別に拓が嫌って感じで振ったわけでもなさそうだったし、恋愛に興味がないだけなのかもしれない。もしそうなら十分、拓が付きあえる余地はあるとおもうんだがな。
「で、冬田はどうなの?」
「ああ、3組の小林さんだっけ?確かバト部の子だよね。あの子も可愛いって結構言われてるよね。」
「どっから聞いた?」
「結構、女子の中では噂になってるらしいぞ?」
「マジか…。」
「へー。そうなん?」
「実は、もう付き合ってる…。」
「聞き捨てならないな。確か彼女は居ないし、彼女が欲しいんだよな。俺、ちょっと小林さんに言ってくるわ。」
「待て待て待て待て…、俺が悪かった。」
「じゃあ、教えて貰おうじゃないか。」
「何を?」
「どこまでいった?」
「すまん。俺が悪かった…。」
冬田はあっさりとリョータに白旗をあげた。
「あーあ、彼女なしは俺だけか。どこに居るのかね、俺の彼女さん…。」
「しかし、春休み終わると、3年かー。リョータはどこ受けるん?」
「俺は、I高を受けようかと思ってる。」
「すげえな。さすが学年トップ。でも、学年トップがそこを受けてくれないと、うちの中学はヤバいってなるから、それでいいのかもな。」
「そういう冬田は?」
「俺はK高にしようと思ってる。駅前だし、私服なのがな。」
「ああ、私服はいいな。だが、俺もI高なのは理由がある。」
「というと?」
「もちろん、大学受験を見据えた学校であることはもちろんだが、女子の制服が可愛い。」
「彼女はどこ受けるの?」
「一緒にI高を目指して今頑張ってる。」
「なんてことだ、彼女にコスプレさせたいのが理由だなんて、とんでもない屑だな。」
「なんでやねん。女子高生になるから制服は普通だろ。コスプレとは違う。」
「いや、彼女に来て欲しい服があるってことだろ?コスプレじゃなければ、イメクラ?」
「それは絶対違う。なんで人の進路をエロ路線で考えてる扱いされなくちゃいけないんだ。彼女と一緒の高校に行きたいって思うのは普通だろ?」
「バカップルめ。拓はどこ受けんの?」
「俺?俺は、R高を考えてる。」
「R高?ちょっと遠くね?なんでまた。」
「分かった!」
「ん?リョータ?」
「唯がS高を受けるからだろう。同じ駅だし、目の前に立ってるしな。男子校と女子高で。」
「え!拓、それストーカー的なやつじゃね?発想やばくね?」
冬田が若干引きしながら拓に突っ込む。
「違う違う。スポーツ推薦で行けそうなんだよ。勉強ほぼゼロで。」
「そんな技があるのか。」
「ああ。」
そう。拓は柔道部に入っており、実際スポーツ推薦でR高に合格する。
「あれ?でも、柔道だよな?K高も柔道推薦なかったっけ?」
「俺はR高がいいんだ。」
「ストーカー疑惑は払しょくされないな…。」
入試結果が出て、来年の今頃は、みんな別々の進路が決まっているのか…。
そう思うと少し感慨深くなる。
俺は前は冬田と同じくK高だったが、今回はランクを上げようと思っている。
智美は確か女子高だった気がするが、一緒の高校に行けたらいいなと思っている。
もちろん、無理なら仕方ないが、これはどうなるか分からない。
冬田は、K高に合格するし、拓もR高に合格する。
自分たちのレベルを勘案した結果でもあるが、思った進路に行けるのは幸せなことだ。
唯は、女子高のS高に行った。結構なお嬢様学校で校則が超厳しいと愚痴ってた記憶がある。奏は、I高だった。大学もそのまま国立に現役合格していた。本人はお金がないので公立しか行けないからだなんて言っていたが、それでいけるような高校でも大学でもない。
秋本も冬田と同じくK高だった。
剣太は…、勉強する気がないと、かなり偏差値を落として、A高に行っていた。
「そういえば、小林さんはどこ受けるの?」
「まだ、進路の話はしてないから、知らないな。」
「今更だけど、いつから付き合ってるの?」
「実は昨日からだ…。」
「何だよ。超うらやましいなお前!」
そんな話をしつつ、ランチを食べ終わると、リョータ達は店を出て行った。
そして…、
「お会計ですね。ご注文はランチですので、525円となります。」
「はい。525円丁度お預かりします。ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております。」
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「うわっ、なんだこれ!怖っ。」
「どうしたの?」
「見てくださいよ、これ。」
「忘れ物…?だったらレジで預かれば…。えっ、なにこれ。今のお客さん?」
「多分…。」
机の上にはノートが2冊、忘れ物のように置かれていた。
どのページにもびっしりと…
【死ね】と書かれたノートが…。