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第十三話「バレンタインデーにて」

正月。いつもであれば、お年玉ぐらいしか楽しみのないリョータであったが、今年は違う。


何といっても…、彼女ができたからである。


もちろん、元旦はお互いの家族を優先することとなったため、実際に会えたのは3日だったのだが、些細なことだった。


リョータの中身は30歳を超えているが、当然のことながら今は中学生であるため、それ相応の交際であることを理解していた。


さすがに年越しを一緒にだったりはできなかった。




「明けましておめでとう。智美。今年もよろしくお願いします。」


「うん。明けましておめでとう。こちらこそ、よろしくね。リョータ!」




年末のデートから、まだ1週間も経っていないのだが、久しぶりに会ったかのようなテンションで新年の挨拶を2人はかわす。


今日は、近所の神社に2人で初詣に来ていた。


とはいえ……




「なあ、お前らさ。2人の空気作りすぎじゃね?」


「そうそう。ちょっとバカップルすぎかなー。」


「少しリア充になったかと、調子に乗りすぎね。」


周りから辛辣な言葉が飛び交う。


俺たちはハッとしたように見つめあい、赤くなりながら皆に向き合う。


「全く、しょうがないなー。1バカップルに付き、みんなに何かおごってよね。」


そう。今日は2人でのデートではなく、クラスメートたちと来ていたのだが、俺たちはバカップルぶりを発揮してしまい、拓、唯、奏からダメ出しをされていた。


「今日はイチャイチャ禁止!」


「イチャイチャって、そんなことないよな?智美?」


「うん。普通だよー。」


「ちょっと智美は事情聴取だね!」


唯が智美を女子集団に加えたところで、俺たちは神社に入っていく。


「あー、俺も彼女欲しいわ。」


「だよなー。いいよなー、幸せって分け合うものだと思うんだけどなー。」


俺は男子集団に交じり、早速洗礼を浴びる。



前の人生では、中学の時に誰かと付き合うなんて、考えたこともなかった。


この人生に繋がるためだったのだとしたら、最後はクソみたいな終わり方をした、前の人生についても少し感慨深くなる。


2回目の中学生になって、半年。今のところ、この人生が実は夢だったなんて、感じはない。


もっとも、では前の人生が今の人生の俺が見た、夢だったのではないかというのも否定できるものではない。


過ぎていく毎日。この当たり前が、俺にとっては当たり前のものではない。


ひょっとしたら、寝て起きたら、自死し損ねた俺に戻っているのではないか。そう思い眠れない夜もあった。


だが、俺はここに居る。


いつか覚める夢なのかも知れない。でも、夢だとしても、俺は精一杯、日々を楽しみたいと思う。




「おい。そんなに、りんご飴が食べたいのか?」


「いや、ああ。リンゴの他にも色々あるんだなと思って。」


「本当か?智美と食べたい!とか考えてたんじゃね?」


「これだからリア充は…。」


「いやいや、そんなこと考えてなかったから!」


少し、ぼーっと考えながら歩いていると、皆から少し遅れたようだ。俺は急ぎ足で追いつく。


クリスマスに正月…、俺は友人たちと、そして智美と有意義に過ごすことができた。


そして、冬休みが明けた、ある日の昼休み。




「はい。これ、皆からだよ。」


俺と拓が昼食を取っていると、智美たちが寄ってきて、小さい手提げを出してきた。


智美、奏、唯、志穂、4人の連名のようだ。


今日は13日の金曜日。


もう少し言うと、バレンタインデーの前日だ。


バレンタインデー。


言わずと知れた、女子からチョコレートが貰える日である。


もちろん、好きな男子にというパターンはごく一部で、一定以上仲がいいと、学校の規則の目をかいくぐって、女子から貰える、ある種のステータスのようなものだ。


チョコを貰えることで好意を持ってもらえているなんて自意識過剰な男子は居ないが、普段、仲良く話しているようで、アイツは貰ってて俺は貰えなかったという事実は、中学生男子にはグサグサ来るのである。今年は幸いといっていいのか、土曜日であるため、貰えなくても、土曜日だったから貰えないという言い訳ができる一方で、前日に貰える又は、土曜日に貰えるという特別な年でもあった。


大抵の男子は、意識していない風を装ってはいるが、人間性を試されるときでもあり、内心は全く穏やかではない日だ。


「「ありがとう。」」


俺と拓は、無事にチョコを貰えない男子から脱却することができた。


可愛らしいラッピングがしてある。


ちょっとテンションが上がりそうになったところで


「今日、一緒に帰ろ?」


と智美が声を掛けてくる。答えはもちろんイエスだ。


「あー、暑い暑い。」


「そうね。今日もバカップル指数が健在よね。」


「えっ、一緒に帰るって話しかしてないでしょ?」


智美が少し赤くなりつつ、2人に反論するも、唯はニヤニヤして智美を見つめるばかりだった。





「しかし、唯と奏って、なんで彼氏作らないの?」


少し肌寒い帰り道、リョータは気になって、智美に尋ねてみた。


「うーん。なんでだろ。良くは知らないけど…。」


「奏って、壮馬が好きなんだよね?」


「えっ!何で知ってるの?」


「そんな雰囲気だしてるじゃん。」


「そ、そうかな。」


あれ?そういや、壮馬が好きって、中3の嘘告の時に聞き出した気がする。失敗したか…?


「まあ、でも、2人で話してる時って、ちょっと空気違うなって感じるかな?私は直接、奏から聞いたことはないんだけど。」


「女子から見てもそう見えるでしょ?」


「そうだね。実は付き合ってるって言われても、違和感ないかなって時はたまにあるよね。」


「って、智美から聞いたと、奏に突っ込んでみようかな。」


「リョータ!それ、ぜーったいダメだからね!女子の友情終わるやつ!」


「冗談だって。」


「もうっ!」


「唯はどうなんだろう?」


来年、拓が告るが、その時も彼氏は居なかった気がする。唯も奏とはタイプが違うが、かなり男子に人気がある女子だ。


何人か告ったなんて話もたまに聞く。


「うーん。唯は分からないなぁ。人の恋バナとかは好きなんだけど、唯が誰をってのは聞いたことがないかも。」


「そうなんだ。」


俺は少し意外に思ったが、特にそれ以上言えることもなかったので、奏と唯の話はここで終わった。





「はい。上がって。」


「お邪魔します。」


「あら、リョータ君、こんにちわ。」


「こんにちわ。お邪魔します。」


「ちょっとだけ、ここで待っててね。」


俺は智美の家に入ると、出迎えてくれたお母さんに挨拶し、智美の部屋の前で待つ。


「お待たせー。入って。」


扉を開けて、私服の智美が部屋に入るように促す。


年末のデートの時に来て、今日は2度目の訪問になる。


「はい、これ使って。」


「ありがとう。」


俺はクッションを渡され、智美の横に座る。


「じゃーん。はいっ!」


「あ、別にもあったんだ。」


「うん。さっきのは皆で買ったの。これは…、私から。」


「ありがとう。てっきりあれだけだと思ってた。」


「ふふん。ちょっと頑張ったんだよ、私。」


「頑張ったって…、手作り?」


「うん!」


「へー、すごいなー。そんなのできるんだ。」


「手作りっていっても、買ってきたチョコを湯煎して、形を変えただけだけどね。」


「いや、湯煎とか結構手間でしょ。」


「え。リョータもおかし作ったりするの?」


「いや、お菓子は作ったことはないけど、簡単な料理ぐらいならするよ。」


「えー。意外。そういうのできないって思ってた。」


「まあ、軽食とかだよ。ちょっと包丁使うくらいだから、そんな凝ったものじゃないし。」


ヤバッ。一人暮らししてた時の話をしてしまった。つい、口に出てしまう。


「今、食べてもいい?」


「うん!もちろん」


ラッピングされた箱を開けると、中には1つずつ、透明な袋に包まれたチョコが入っていた。


智美が緊張したような顔で見つめる中、俺は1つ取り出して、口に入れる。


「美味しいよ。」


「ほんと?良かったー。」


俺の言葉に安堵したのか、智美がふぅっと息を吐きだした。


「彼女からのチョコが美味しくないわけないでしょ。」


「うん?それって美味しくなくても美味しいってこと?」


智美が少しむっとしたような目で俺を見る。


「違うって。これは本当に美味しいよ。そこに彼女の気持ちが入ってるからより美味しいってこと。」


「あー、ごまかしたー。」


「本当だって。」


「私も1つ食べてみよっと。」


俺の答えに納得がいかなかったのか、智美もチョコを食べた。


すると


「美味しいじゃない。」


「だから美味しいって言ったのに…。」


俺たちはなんだかおかしくなって、2人して笑った。


そして、笑い終えた後、智美の顔を見ていると、何だか智美が愛おしく感じる。


俺はそっと智美の肩を優しく抱き寄せて、顔を近づけた…。







「今日は来てくれてありがとね。」


「こっちこそありがとう。」


「じゃあ、また月曜、学校でね。」


「うん。またね。ありがとう。お邪魔しました。」





俺は夕食後、唇に残った感触を惜しみつつも、4人から貰ったチョコを食べながら机に向かった。


そして…、机に向かってから、2,3時間ぐらい経った頃だろうか…。


それは急にやって来た。


「ん?」


「…なんだ、腹が痛い…?。」


「帰り道で冷えたかな…。」


「やばい。痛い!」


俺はトイレに駆け込んだ。


急な腹痛に襲われ、この夜、俺はトイレと部屋を何度も往復する羽目になるのだった…。

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