第十一話「クリスマスイブに」
今日は終業式。
世間では、クリスマスイブというものらしい。
俺は学年トップの成績を取ったお祝いとして、クリスマスに去年発売されたゲーム機を買ってもらえることになった。
当時は欲しくて仕方なく、買ってもらった友人たちを恨めしく思ったが、こんな形で対面できる機会が得られたかと思うと、感慨深い。
冬休みはゲーム三昧かな。
そう。あの日の返事をまだ俺は貰っていない。
これは駄目かもな…。
まあ、でも明日は、唯の家で集まってクリスマスパーティなるものに呼ばれている。
もちろん智美もだ。あれ以来、特に変わった様子もなく、普通に接しているので、フラれたからといって友人関係が終わるまではいかない感じなんだろう。
いつからか、一緒に帰るようになった剣太と肩を並べ、いつものように帰宅する。
さてと…。一応、勉強もキッチリしておかないとな。一度目の記憶があると言っても、それなりの記憶なわけで、中学程度だから通用しているが、手を抜くとあっという間に落ちてしまうだろう。
俺は昼食を終えると、机に向かう。
すると
「リョータ、電話ー。」
「ん?何だ?明日のことだろうか。」
「はい。変わりました。もしもし…。」
「…こんにちわ…。」
「!!」
電話は智美からだった。
「や、やあ。」
全く予想しておらず、虚を突かれた俺はとっさに返事をすることも出来ず、間抜けな声が出てしまった。
俺のメンタルは中学生に戻りつつあるのだろうか…情けない。
「どうしたん?明日のこと?」
バレバレだろうが、俺は余裕のある振りを装う。好きな女の前ではカッコつけていたいのだ。
「今って、時間あるかな?」
だが、俺の小細工はスルーして、智美が要件だけを伝えてきた。遂にこの時が来たか。よりによって今日とは…。
「ああ、大丈夫だよ。」
「じゃあさ、リョータの家の下に小さい公園あるよね。あそこに来てくれない?」
「うん。分かった。今すぐ来るの?」
「うん。今から出るから、うーん20分後ぐらいかな。」
「うん。じゃあ、20分後に。」
審判が下される時がきた。きっついな。その場でフラれたほうがよっぽど楽だった。
公園に着くと、まだ智美の姿は見えなかった。さすがに俺の方が圧倒的に近い距離で俺の方が遅いなんて醜態を見せるわけにはいかない。
それに、早く家を出たかった。
少し待つと、白いセーターを着た智美がやって来た。
「ごめん。待った?」
「ううん。全然。」
「あそこ空いてるから、あっちいこ?」
「ごめんね、急に呼び出して。」
「うん、全然いいよ。用事もなかったしね。」
「そっか。」
ふぅ。と智美が深呼吸する。
「この前の話。」
「うん。」
「私さ…、男子と付き合うってしたことないからさ。いまいちよくわかんなくてさ。付き合うってのも意識したことがなくて。」
「うん…。」
「だから、なんて言えばいいのかなって、分かんなくて。あ、言ってくれたことは嬉しかったんだよ?」
「うん。」
「でさ。考えたんだけど…、私はまだ男子が好きって気持ちが分からなくて。」
「そっか…。」
あちゃー、おいおい、フラれたよ俺。どうするよ。これで明日のクリスマスパーティ行くの俺?いくら俺でも、翌日にフラれた女の子とクリスマスとかキツ過ぎるんだけど!
正直に言って欠席するか。いや、それはダサい気がする。
「でね。私考えたんだ。」
ヤバい、吐きそうだ俺…。
「今はまだ男子として好きって気持ちは分かんない。でもさ、リョータのことは一緒に居たいなって思ったんだ。」
「えっ。」
「だから…。」
「私と付き合ってください。」
俺に向かって、ぺこりと頭を下げた。
「ダメかな?」
「喜んで!!」
俺は興奮のあまり、思わず智美の手を取り、上下に揺らす。
「ちょ、ちょっとリョータ~。」
「あ、ごめん。つい嬉しすぎて。」
てっきりフラれる流れだとばかり思っていたのだから、俺のテンションはダダ上がりだ。
こんなに嬉しいことはない。
しばらくの間、二人はいろんな話をして時を過ごした。
「じゃあ、今日はそれだけだから。」
智美が赤くなった顔を俺に見せないようにしているのか、横を向いたまま呟くように言う。
「ああ。ありがとう。むっちゃ嬉しいよ。」
「これからよろしくお願いします。」
「うん。こちらこそ。」
「じゃあ…。またね。」
そう言って、智美は帰っていった。
俺たちは15年振りに
10年も早く付き合うこととなった。
だが、年甲斐もなく、この時の俺は気付いていなかった。
明日のクリスマスパーティで、付き合います報告をさせられ、皆からイジられる運命が待っているということに…。