第十話「告白」
「あのさ。俺と付き合ってくれない?」
静寂に包まれた誰もいない体育館。
振り返った彼女に俺はそう声を掛けていた。
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「へー!そうなんですか!同じ地元ですね。ひょっとして学校も近所だったかもですね!中学はどこでしたか?え??それって、私も同じですよ?ひょっとして?」
今日は、先月入社した2人の女性社員の歓迎会だった。
1人は転職組らしい。俺も入社して3年、まだまだ新入社員気分は抜けていない。
たまたま隣に座った転職組の女性と話している中で、たまたま出身地の話となり、俺の出身を話したところ、同じ市の出身ということが分かった。
さらに地元の話をしだすと、どうも似たような認識の事柄が多く、なんと中学時代のクラスメートだった。
話が盛り上がったところで申し訳ないが、全く記憶にない。
「あっ。分かった。リョータ君だ。唯や奏のことは覚えてる?」
しかし、どうやら事実のようだ。共通のクラスメートの名前が出てきた。
「あっ、全然わすれられてたんだ。ショックだなー。え?私はもちろん覚えてたよっ!」
それが、智美との再会だった。
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「おはよう。昨日はお疲れさまでした!改めて、今日からよろしくね!」
歓迎が終わってから家に帰って、卒業アルバムを見ると、確かにそれっぽい女の子が載っていた。
本当だったのか…。あれだけ話が合ったので嘘を言っているとも思えなかったが、改めて見ると、確かに面影はあるかも知れない。
そう言われてみると、グループ交際ってわけでもないけど、遊園地に行ったりした記憶がある。
唯と奏は今でもSNSを通じてやり取りがある。相変わらずキラキラ女子って感じの2人だ。
ふと、昔を思い出し、懐かしい気持ちになった。だがその程度でしかなかった。
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「「お疲れー!」」
とある少し大きめのプロジェクトを終え、俺たちは2人で打ち上げに来ていた。
一緒のプロジェクトを担当になって以来、こうやって何度か2人で飲みに行ったりする機会や、遊びに行ったりする機会ができた。
「いやあ、キツイ半年だったよ。」
「そうだねー。」
「ってか、一応、新入社員なのに扱い違うよな。」
「ああ、相沢さんは新卒で、私は転職だからね。それに自分で何か言えるって、仕事してるって感じじゃん。」
「あれ、意識高い系だっけ?」
「そうだよ。なんてね。こういう仕事がしたくて転職してきたんだし、自分には合ってるなーって思ってるんだ。」
「へー。そういや、今更だけど前職って、事務って言ってたけど何してたんだっけ?」
「派遣だよ。行ってた会社自体は大きかったし、社員は何もしなくて派遣任せだったからやることはいっぱいあったんだけどね。でも、自分で考えた企画とかそういうのをやってみたいって思って、色々探してたんだ。」
「へー。」
何となく大学に入って、何となく決めたこの会社で、何となく仕事をこなしている俺とはえらく違う。
いや、仕事自体に不満はない。会社に泊まり込むほどの残業をしたこともあるが、それなりに楽しくやれているつもりだ。
この課にいつまで居られるのかは分からないし、本社や地方へ転勤ってのもあるかも知れない。
俺自身はその程度の意識だったから、智美の考えが少し眩しく見えた。
会話が弾み、いつもより酒を多く飲んだからだろうか…。
「あのさ。俺と付き合ってくれない?」
俺はいつしか真剣な表情になって、そう智美に伝えていた。
智美はキョトンとした表情になり…。
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振り返った共には、キョトンとした様子となり、目を丸くしていた。
俺も智美も喋らない。
2人の間に沈黙が流れる。気まずい…。
俺は勢いに任せてとんでもないことを口走っていた。
初めて告白したときも、酒の力を借りて勢いで告白していた気がする。
俺自身の成長のなさを恥じつつも智美を見る。
智美は、驚いた様子ではあったが
「それって、そういう意味で言ってるんだよね?」
「ああ、もちろん。」
「そっかあ。」
智美が確認をしたあと、俺をじっと見てくる。
何となく、つい言ってしまったが、不味ったか…。
「ありがとう…。でも、ごめん。」
ああ、振られたか…。俺はため息をつきながら体育館の天井を見上げる。すると
「返事はちょっとだけ待ってくれないかな?」
フラれたと思ったのだが、予想外の答えが返ってきた。
「保留ってやつ?」
「うーん。っていうわけでもないんだけど。ごめん、ちょっとだけ待って欲しい。」
「ああ…。」
「それじゃ、今日は帰るね。またね。」
何だか狐につままれたような気分の俺をそのままに、智美は下校していった。
「待ってか…。」
俺のつたない経験では、フラれるのはその場が多い。が、待ってという答えの場合もフラれること多いような気がする…。
それにしても…
15も下の女の子相手に、こんなに緊張するとは…。
何歳であっても、女子というのは難しいものだ…。