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ヲタッキーズ58 妄想葉シンジケート

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

彼女が率いる"ヲタッキーズ"がヲタクの平和を護り抜く。


ヲトナのジュブナイル第58話"妄想葉シンジケート"。さて、今回は秋葉原で大脳にある妄想葉を摘出された異次元人少女の死体が見つかりますw


背後に妄想葉を売買するシンジケートの存在が浮上し、さらにヒロインの過去を知る異次元少女の妹がシンジケートに拉致され頭脳摘出の恐怖に…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 戦慄の地下病院


シンポジウム会場。


「こうして、秋葉原にお集まりのヲタクの皆さんを見回すと、ニュートンのスピーチが思い出されます。万有引力を発見し、微積分を発明し、光をスペクトル分析した、かのニュートン曰く。数学とは、巨人の視座にて未来を見渡す術ナリ。なお、当時の男性は10cmヒールの靴を履いていたそうです」


マバらな笑い声が上がる。基調公演はややウケだ。

禿げたオッサンは下がり女子アナにバトンタッチ。


「では、シンポジウムの最後は"神田明神グランプリ"の発表です。プレゼンターは、かつてグランプリを受賞した"国民的ヲタク作家"のこの方です…テリィたんに拍手を」


MCに促され壇上に上がる僕に小声の囁き声。


「え。テリィたんって受賞してたっけ?」

「YES。"電気街口の奇跡"の時ょ」

「マジ?アレ、テリィたんがやったの?」


僕は、会場を一瞥して話し出す。


「ご指名をいただき、とても光栄です。しかも、今年の受賞者は僕の親しい人だ。僕にとって、友人を超えた大切な存在で、様々な難題を共に力を合わせて解決してきた戦友です。前置きはコレくらいにして、今年の"神田明神グランプリ"の受賞者は…"ムーンライトセレナーダー"!」


賞状を高々と掲げると、大拍手が沸き口笛と歓声。


「ミユリさん。君だょ」


僕の背後のスクリーンいっぱいに"ムーンライトセレナーダー"の文字が明滅スル。

黒のセパレートにヘソ出しコスプレのミユリさんが壇上に上がり僕達はワンキッスw


「ありがと、テリィ様!夢のようです」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


事件は、その前夜に発生←


「おいおい。若いのに何か予定とかなかったのか?金曜の夜に匿名のタレコミ対応なんてアリかょ」

「地下室から不気味な音がスルとの通報があったそーです。ソレもよりによって首相官邸にw」

「何だょソレ?あのホテルの地下には古いアーケードがあるンだ。きっとテナントを追い出す嫌がらせだろ」


色々とボヤきながらも"松永町ホテル"に出向いたのは、万世橋警察署の刑事コンビ。ベテランと若手w


「いらっしゃいませ。当ホテルのナイトマネージャーです。スーツケースをお探しですか?」

「うんにゃ。地下アーケードでお宝を発見に来た」

「え。当ホテルのお客様では…」


ベテランの捜査員が警察手帳を示す。


「ヲタク…じゃなかった、お宅の地下から怪しい声がスルと言う(迷惑なw)通報があってな」

「怪しいってナンです?どーゆーコト?」

「とにかく、案内を頼む」

「はぁまぁ。コチラへどうぞ。床が凸凹なので、気をつけてください」


フロントの後ろに、地下へと降りる古ぼけた階段がアリ、コレまた古ぼけた鉄格子のドアが閉まっている。


「地下は?」

「かつてアーケードがあり、店舗もいくつかありました。でも、今は何にも使ってません」

「鍵を開けてくれ」


鉄格子のドアを開けて、打放しコンクリートの階段を借りたライトを片手に地下へと降りる刑事コンビ。


「保健所の検査で閉鎖されたとか?」

「そうは見えンな」

「ソコは?」


おっかなびっくり、自分もライトを片手に地下へと降りて来たナイトマネージャーが応える。


「多分倉庫だと思いますが…私は入ったコトはありません」

「鍵を開けてくれ」

「え。ココも?マジすか」


ナイトマネージャーは、持参したレトロな鍵束から、ジャラジャラと何本か試した後、重い鉄扉を開ける。


「うっ。生臭いw」

「ライトで照らせ!」

「何じゃコリャ?」


暗闇の中で、ライトに照らし出されたのは、車のバッテリー?汚れて丸めたシャツ?…何だ?まさか血糊?


「電灯のスイッチは?」

「コ、ココです」

「つけろ。早く!」


点灯。


何だ?四方の壁面、天井、フロア。全ての面にビニールが張られている。

隅に氷の山が盛られ、アチコチに血のついた布やシャツが捨てられてるw


そして…床一面に血の海←


「お前!両手を後ろだ!」


素早く拳銃を抜いた若手刑事がナイトマネージャーの頭にピタリと銃口をつける。

すると、ナイトマネージャーは怪人に変身…しないで腰を抜かしヘタリ込んでるw


「部屋中が血の海だ。おい。万世橋(アキバポリス)に至急応援を要請しろ」

「寒いし…バッテリー?一体何が?悪い夢を見ているよーだ」

「しっ!聞こえるか?」


奥から機械音がスル。


壁面のビニールを破り捨てると、奥へと通じる木製のドアがある。

ココはダイアル錠だが、ナイトマネージャーはガクブル首を振る。


モチロン、ダイヤル錠の番号はワカラナイw


「物音は、この中です」

万世橋警察署(アキバP.D.)です!中に誰かいますか?いるならドアを叩いて!」

「離れて!蹴破ります!」


瞬間、ブービートラップが脳裏を過るが、呆気なくドアは吹っ飛び、3つのライトが地下室を照らし出す。


「な、何だ?」


床に置かれた檻の中に…女性がいるw

怯えた目でライトに照らされている。


万世橋警察署(アキバP.D.)だ。君は…」

「…」

「もう大丈夫だょ。安心してくれ」


若手刑事がスマホを抜く。


神田消防(アキバファイア)?救急車を"松永町ホテル"の地下へ。大至急!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「blood type"BLUE"。彼女は異次元人だ」


深夜の万世橋(アキバポリス)に連行?された彼女は、取調室に収容されて、茫然としている。

汚れた黒髪にインディアな顔つき。怯えてはいるが黙秘に強い意志を感じる。


「あのバッテリーが気になりますね。何に使うンでしょう?」

「アレは…凶器だ。恐らく彼女は拷問されていたと思う」

「え。拷問道具?先輩、まさか軍隊の経験とかおアリ?」

「おぅハイチで傭兵やってた。酷いモンさ」

「拷問の道具なの?ソレで筋が通るわね」


刑事の話に割り込むのは、万世橋警察署の敏腕警部でラギィ。刑事コンビが威儀を正す。


「あ、警部。深夜にお呼びたてしてスミマセン。彼女は?」

「トラウマ級の急性ストレス障害で完黙(完全黙秘)ょ。ピタリと心を閉ざしているわ。でも、彼女は何かを知っている」

「そのタメに拷問に合ったンでしょうね」

「首相官邸から桜田門(けいしちょう)経由で徹底的に捜査しろとの御命令が出たわ。全くアンタ達と来たらロクなモンを拾って来ないンだから。あ、ソレから本件、ジャドーとの合同捜査になったから。仲良くヤルのょ」


ジャドーは、アキバに開いた"リアルの裂け目"から降臨スル脅威と戦う首相官邸直轄の秘密防衛組織だ。


"邪道"じゃナイょw


「お?またジャドーのパツキン姐さん(ルイナ)と仕事が出来そうだ。楽しみですね」

「だから、頭を使うのは彼女に任せて、頭の悪いアンタ達は足で稼いでね。あのホテルで目撃者を探して来て頂戴」


僕とミユリさんが捜査本部に入って来たのは、どうやらこのタイミングだったようだ。


「時間は取らせない。きっとラギィや万世橋(アキバポリス)のみんなも喜ぶからさ!」


場違いにハシャいでる僕は、ムーンライトセレナーダーに変身してるミユリさんと一緒。


その時…


「Å♫☆「←?◉⇔‰Å♫☆「←?◉⇔‰!」


完黙中だった女が、急に口角泡を飛ばしムーンライトセレナーダーに何ゴトかを訴える!

しかし、ムーンライトセレナーダーはキョトンとした顔でドン引き。僕を振り向くけど…


肩をスボめ掌を上に向けるフランス人のポーズ←


「ムーンライトセレナーダーにテリィたん。早速来てくれたのね!」

「え。コレから、24時間営業を再開したばかりの神田明神下のファミレスでお祝いナンだけど」

「あら。何かお祝いゴト?」

「ムーンライトセレナーダーが"神田明神グランプリ"を受賞した。ヲタクにとってタイヘン名誉な賞で、豪華な鹿児島温泉旅行付きナンだ」

「何で鹿児島?」

「テリィ様の推しがおられるので…」


ココだけ間髪入れズ割り込むムーンライトセレナーダー…いや、ココはミユリさんに違いないw


「スゴい!推しのオゴリでアフター?テリィたん、ヲタク冥利に尽きるわね…にしても、ミユリ。おめでとう!」

「ありがと!ラギィ、ソレに万世橋(アキバポリス)のみなさん!…で、事件?未だヲタッキーズは何もリクエストされてナイけど」


ミユリさん率いるスーパーヒロイン集団ヲタッキーズはジャドー傘下の民間軍事会社(PMC)だ。


「ソレが、またまた色々わからないコトばかりなのょ。とりあえず…お手上げだわw」

「OK。ルイナに手伝わせる?ヲタッキーズの科学顧問だけど」

「え。こんな真夜中に…頼める?でも、天才って早寝早起きじゃナイの?」

「今、私達"オンライン呑み"の最中ょ。アプリの向こうにいるわ…ルイナ、どう?」

「OK。とりあえず、その氷の山?謎ナンだけど、写真2枚あれば色々わかるわ。刑事さん達、何とかなりますか?」

「合点だっ!ありがたい。捜査の第一歩になる」

「そのビニール、恐らく水を吸わないから溜まった水のインターバル解析で流速がわかるわ。ソコから逆算すれば、いつ氷が解け始めたかがわかるけど」

「すげぇ。何言ってンだか皆目わかンねぇけど頼むょジャドーのパツキン姐さん!」


あ、ルイナは刑事さん達から金髪と思われてるが実はウィッグなんだ。因みに、いつもメイド服を着てるw


「その部屋で水が溶ける速度さえわかれば、水たまりの形成に要した時間がわかるわ。あとは…表面張力を考慮しないとね」

「表面張力?」

「水の表面の分子は凝集性が強いの。だから水面を虫は走れるし、雨粒は丸くなるわ」

「風船と同じだ!」

「YES。さすがは刑事さん。風船の表面も水たまりも中身を閉じ込めてる。空気を入れると風船は膨らむわ。膨らむ速度は、空気が入る速度と風船の表面張力で決まるの。水たまりも同様ょ。水が増えれば大きくなる。でも、表面張力はソレを抑制するわ」

「わかった(ホントは全然わかってナイけどw)!で、計算に必要なのは、どんな写真かな?鑑識から取り寄せる」

「現場で最初に撮った1枚と最後に撮った1枚。時間軸を最大に取りたいの」

了解(ROG)!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィはムーンライトセレナーダーを取調室へと連れて逝くンだけど、僕は追い払われるw何で?女子会?


「彼女、さっき貴女に何か話しかけたょね?」

「う、うん」

「助けを求めてた?アレ、津軽弁?」

「…いいえ。アレは"風の星"の言語ょ。私には"風の星"の血が流れている。その血が私に何かを共鳴させるの」


デスクと手錠で繋がれている女は、ラギィとムーンライトセレナーダーのコトを交互に見上げている。


「彼女、貴女に何か訴えてるみたいだけど」

「"風の星"の言葉は、遥か昔に私じゃナイ誰かが使っていただけで…でも、恐らく彼女は妹さんのコトを話してたと思う…ねぇラギィ。私、も少しココにいても良い?」

「モチロンょ。私は捜査本部に戻るから」


ラギィが取調室を出るのを見計らい…女は口を開く。


「Å♫☆「←⇔‰ Å♫☆「←?◉⇔‰♂⇔!」

「☆ ←?◉⇔ミユリ」

「…お久しぶりです。第3皇女」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び"地下病院"。


鑑識の誰かが、今回のホテルの現場をそう呼ぶようになって、何となく関係者も全員そう呼ぶようになるw


ホテルのナイトマネージャーまで←


「あ、刑事さん。私ですか?ズッとフロントにいましたが"地下病院"からは、普段と同じで特にヘンな音はしませんでした」

「ナイトマネージャーだからって眠たいコト言うな。こりゃショッカーの人間改造工場だったに決まってる。物音とか悲鳴を聞かなかったか?」

「何も」

「(警部に尻を叩かれてw)目撃者を探しに戻って来たンだ。手ぶらじゃ署に帰れねぇ。ショッカーの怪人とか見なかったか?キィーと言う叫び声とか…」

「"お面ライダー"なら見ました!」

「え。マジ?」

「シフトに入ってからズッとです。サブスクで第1話から」

「…ホテルの製氷機は何処にある?」

「宿泊者用のが3階に1台です」

「じゃあコレは外から運んだ氷かな」

「恐らくYES。ウチの製氷機の氷とは形が違いますから」

「この部屋の用途は?まさか人体改造…」

「洗濯室です!でも、今は宿泊客から預かる洗濯モノは全部外注に出してるので使っていません」

「ホテルでは、他にどんなモノを外注してルンだ?」

「従業員の制服の洗濯も外注です。あと、朝食用のパンとかケーキとかも、実は外注なのに"ホテルメイド"と銘打って…あわわ」

「業者の配達スケジュールを見せてくれ」

「喜んで」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の"潜り酒場(スピークイージー)"。


元は御屋敷(メイドバー)のバックヤードだったが、改装したらヤタラ居心地が良くて常連の溜り場にw

メイド長である僕の推しミユリさんの流儀で女子は全員がメイド服を着用するが今宵は…


「湿度も現場に合わせたわ。他には?」

「熱境界層で決まる熱交換の速度を実測値と比較測定したいの」

「氷が溶ける速さを調べてるって言ってくれる?さぁ"地下病院"の条件を再現出来たわょ。氷の置かれた場所、純度、湿度、空気の流れ、室温。全て GO だわ」


メイド女子が何やら実験?をしている。

一応オーナーだけど僕には説明ナシだw


「ミユリさん、何ゴト?ヤタラ寒いンだけど」

「あ。おかえりなさいませ、テリィ様。ルイナが氷の溶ける実験をしてます。データを採るとかで…」

「テリィたん!"潜り酒場(スピークイージー)"の室温を"地下病院"に合わせてみたの。あ!氷が溶けてきたわ!」


何やらタブレットに打ち込むルイナ。

全く天才のやるコトは理解に苦しむw


「恐らく"地下病院"で"何か"が行われたのは、午前5時15分〜30分の間ょ。大方の時刻は特定出来たけど…どーしても実測値で誤差修正が必要なの」

「え。いや、ルイナ。多分ソレで十分大きな手がかりだと思うけど…とにかく、朝飯までには片付けてくれ」←


第2章 "妄想葉"を追え


ところが、その朝飯さえ食べズに働く人もw

ホテル出入りのパン業者に聞き込みの刑事←


「オハヨー。万世橋から来た。焼きたて?」

「え。あ、どうぞ。でも、警官はドーナツでは?」

「ソンなの海外ドラマだけさ。なぁ昨日もこの時間に納入か?」


湯気の立ちそうな焼きたてパンを忙しげに運ぶパン屋は、陽気で屈託ない。

警察手帳を見せ声をかけた刑事達に、それぞれデニッシュを投げて寄越す。


「いつもこの時間に納入です。一昨日もその前もね」

「昨日だけど、何か変わったコトなかったか?」

「変わったコト?酔っ払いがケンカしてたかな。宣言が明けたらスッカリ…」

「なぁ大量の氷が運ばれるのを見なかったか?」

「氷?私はパン屋ですょ?そんなの見たら覚えてるハズです」

「うーん他に誰かいなかったかな」

「だから、いつも朝は…あ。昨日は救急車が来てました」

「救急車?!」


コンビで異口同音に叫ぶベテラン&若手刑事。


「えぇ。ソレがヘンな救急車で…」

「ゴーストバスターズが乗っ来たとか?」

「"2"は最悪でしたねぇ…いや、軽のワンボックスだったンですが、確かに救急車だったなぁ。駐車場に止まってました」

「助かった!しかし、このパンはホントにウマいな。店は何処?湯島?」


感心しながらも、現場へと駆け出す刑事めがけて、ナイスコントロールでデニッシュがふたつ飛んで逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


そのママ捜査本部に駆け込む刑事コンビ。


「事件の翌朝に"地下病院"へ救急車が来てた?ホント?」

「はい…ってか翌朝って警部、犯行時刻が割れたンですか?」

「えぇ。さっきルイナから連絡があって、午前3時21分だって…でも、どーやって分まで割り出したのかしら」


早朝の聞き込みから戻った刑事から報告を受けたラギィ警部も一緒になって頭をヒネってるw


「…まぁ彼女がそう言うならそーナンでしょ」

「しかし、パツキン姐さんマジすげぇな。彼女に限ってアラサーでもメイド服、許す!」

「え。私はダメなの?!」

「あ、あわわ…神田消防(アキバファイア)に救急車の出動記録を問い合わせたけど、該当はナイそうです。そもそも"軽"のワンボックス救急車自体が激レアで神田消防(アキバファイア)には配備されてナイらしい」

「どーなってンの?いずれにせよ、救急車ナンだから、何処かに病人か何かを搬送したンじゃないかしら」

「救急病院を当たります」

「お願い」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ところが、警察が動き出す前に救急病院の方から通報が入る。

"外神田ER"は、裏アキバにあった老舗医院のリニューアル。


"地域ERビジネス"は大当たりで朝から慌ただしいw


「万世橋警察署のラギィ警部です。昨夜搬入されたインド人の件でお話しを伺いに上がりました」

「インド人?あ、脳部損傷ね。担当はジンロ医師です…センセー!Dr.ジンロー!」


大陸系かと思ったら日本人の女医だ。


「ラギィ警部です。警察に通報しましたね?」

「警察に?私は通報してナイけど…こーゆー時はキマリだから多分保安が連絡したンだわ」


早足で歩くジンロ医師は喋りも早口だ。


「身元不明の遺体。10代後半から20代前半。アジア系で大量出血。blood type"BLUE"」

「異次元人?搬入の記録は?」

「そーゆーのは受付で聞いてくれる?」

「…どういう傷だったの?」

「え。何も知らないの?」

「何を…かしら?」

「知ってるから来たのかと思ったわ」


彼女の早足の先にアルのは死体安置所w

壁面に格納された死体を引き出す女医。


「出血とショック状態で手遅れだった。素人が手術したのでなければ、コレは重大な医療ミスだわ」

「手術?どういう手術なの?」

「脳の摘出」


第2章 頭脳泥棒を追え


再び万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「頭脳泥棒?都市伝説かょw」

「"リアルの裂け目"の向こう側では、異次元人キッズが次元パスポートを手に姿を消しては手術の痕をつけて帰って来ると言う話だ」

「本人の意思で?」

「まさか。生きていくためだ。異次元人に特有の大脳にある"妄想葉"を売れば、死ぬまで一族を養える」

「"妄想葉"?」

「妄想を生んで膨らませる機能を司るのが"妄想葉"だ。スーパーパワーの発現にも深く関わっているそうだが、詳しいコトは良くワカラナイ」

「え。では、その"妄想葉"を移植すれば、誰でもスーパーパワーをゲット出来るのか?」

「現段階ではギャンブルだ。移植してスーパーヒロインになれる確率は、未だ五分五分らしい」

「…松永町ホテルの地下で行われた手術は、失敗だったのかな」

「検視官の確認に拠れば、妄想葉を摘出スル際に頸動脈を切断して大惨事に至ったのでは、とのコトだ。地下病院の血痕が異次元人の死体と一致した」

「で、妄想葉を移植した相手についての情報は?」

「皆無。誰であれ名乗り出るハズがナイ」

「妄想葉の入手先を知ってれば、殺人の共犯にもなりかねナイからな」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同じ捜査本部の、コチラは取調室。


「私で力になれるのかしら」

「ムーンライトセレナーダー。貴女が彼女の心を開いてくれた。お陰で、彼女が"風の星"の言語を話すコトもわかったわ。ところで、ソレ何語なの?何処かの方言?」

「彼女から話しかけて来ただけょ」


鉄格子の自動ドアがユックリ開く。

デスクに手錠で繋がれた女がいる。


「逮捕してるの?」

「違うけど…姿を消されては困るの。仕方ないわ。この方法しかナイ」

「…サンサ。ミユリょ。このラギィ警部を信用して話を聞いてあげて頂戴」

「サンサ?彼女の名前なの?ねぇサンサ。貴女の妹さんのコトだけど…」


その瞬間、女は手錠を引き摺りガバっと立ち上がる。


「見つかったの?」

「に、日本語を話せるの?実は…昨晩発見したンだけど」

「写真を見せて!」


言われるまでもなく、ラギィは死体安置所で撮影した大判引き伸ばし画像をサンサに見せる。

サンサは、もし視線に力があるなら、たちまちデスクを凸凹にしただろう勢いで画像を見て…


ワッと泣き出す。


「可哀想に。お気の毒だわ」

「…でも、ミユーリ。コレは私の妹ではありません。これはソナナです」

「え。貴女達は全部で3人なの?」

「いいえ4人です。4人で"リアルの裂け目"を渡りました。妹のプリヤと私、ジャドとソナナ」

「4人共、妄想脳を売るためにアキバに来たの?ねぇサンサ。妹さんを探すためなの。ラギィ警部に知ってるコトを話すのょ」

「ある日"リアルの裂け目"を通って秋葉原のヲタクが来て、1人1000ヲタク払うからって…」

「そのヲタクの名前は?」

「わかりません、ミユーリ。でも、秋葉原から来たと話してた」

「貴女達がリアル秋葉原に来たのは?」

「5日前です、ミユーリ」

「滞在先は?」

「"松永町ホテル"」

「え。いきなりステーキ、じゃなかった、イキナリあのホテル?」

「YES。208号室にいた。ソレから、地下に連れて行かれ…」

「泣かないで。大丈夫ょ」

「次が私の番だった。でも、何かが起きたみたいで、みんなが騒ぎ出したから、気づかれない内に逃げたの」

「逃げたのにナゼまた地下へ戻ったの?」

「走るのをやめて気がついたら… 1人ポチだたw」

「ソレで引き返した?」

「YES」

「バカ。いつだってヲタクはお一人様ょ!」

「ミユーリ、妹を残しては行けなかった」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部は騒然となるw


「ホテルには4人の異次元人少女がいた。1人保護、1人死亡。残り2人は行方不明」

「くそ。あのナイトマネージャーにダマされた!あのウソつき野郎!しょっぴいて来い!」

「警部!"外神田ER"から通報!今度は強度の脳波障害の急患だそうです。脳移植に失敗した患者の可能性アリ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"には先客がいる。


「ビンズ教授?あの国際的に有名な脳外科医の?」

「そして、私は国立頭脳病院の顧問弁護士でレンケと申します。教授は捜査に全面協力します」

「弁護士の同席の下で?」

「この御時世、特に珍しいコトでは…で、ご用件は?」

「この御時世、特に教授の患者さんが異次元人の脳を違法に入手したらしくて」


ココでビンズ教授が初めて口を開く。

何処か苦しげな表情で…あれ?善人?


「私は強く反対したのだ」

「患者の独断で教授ご自身は関係ナイとおっしゃる?」

「主治医として見捨てるコトは出来ない」

「往々にして、患者は医師に逆らうモノです」


したり顔で割り込む弁護士に食ってかかるラギィ。


「コレステロールの話じゃないの。殺人ょ殺人!人が死んでるの」

「でも、異次元人でしょ?秋葉原デンジ法にも未登録だったと聞いている」

「あーら。センセは公表前の情報もよく御存知だコト」

「先生、もう話さないで」


しかし、教授は弁護士の制止を無視w


「"リアルの裂け目"の先には、通称"妄想村"と呼ばれる村があるそうだ。"彼女達"は、その村の出身だと思う」

「東南アジアの何処かにアル"腎臓村"のパクリ?ソレとも"妄想葉"の売買は日常的だと言うコトを言いたかったの?」

「後者。既に世界で待機患者は8万人を超えると聞いている」

「スーパーパワーを得たい金持ち連中の闇リストがアルのね?最近流行りの宇宙旅行気分?」

「パワー以外にも"妄想葉"の移植で末期ガンが奇跡的に完治した例もある。実際、8万人の待機リスト中から、世界各地で毎日17人が亡くなっている。なぁ私に異次元人の患者と話をさせてくれないか」

「ひどい環境で手術したらしく、重い感染症を起こして、危篤状態です」

「話も出来ない?」

「あくまで例えばの話だが、彼女はソレが違法な手術だと知っている。たとえ元気でも、警察に口を割るハズがない」


自信満々な弁護士。ラギィ警部が食ってかかる。


「彼女?今、彼女って言ったょね?"彼女"が女だとは誰も知らない話なの。アンタ、ココは法廷じゃないンだから、井戸端会議のヒロインみたいに自分に酔ってペチャクチャ喋らないでくれる?」


ハッと口に手を当てる弁護士を切り捨て、ラギィ警部は実直そうなビンズ教授の目を正面から見据え話す。


「移植患者の血液や組織サンプルなど、全て提出していただきます」

「了解した。警部さん」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部に取って返したラギィの下に部下がワッと集まる。


「松永町ホテルのナイトマネージャーが昨日から行方不明です!我々と会った直後に高飛びした模様」

「やはりグルだったのね。神田リバー水上空港に非常線を張って!」

「コレで2人の異次元人少女を探す手がかりが無くなりました」

「記録では、ソナナは救急車で病院に運ばれたンでしょ?神田消防(アキバファイア)の通報記録は調べたンだっけ?」

「モチロンです。該当記録はナシ」

「でも、出入り業者のパン屋は、救急車がホテルに待機してたと言ってました…しまった!運転手もグルだったのか?!」

「最初は、摘出した"妄想葉"だけ運ぶハズが、患者まで運ぶ羽目になったワケね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「ミユリさん、大丈夫?」

「あ、はい。テリィ様。ごめんなさい、ボンヤリしちゃって」

「とりあえず"神田明神グランプリ"のお祝いは延期だね?」

「すみません。今はお祝いスル気持ちになれなくて。延期しても良いですか?」

「モチロンだょ。あの異次元人の女の子が気になるんだね」


カウンターの中でうなずくミユリさんはメイド服だ。

彼女は落ち込んでるようだが…やはりメイド姿絶品←


「実は、今朝も会ってきたのです。ラギィ警部が私の顔を見れば落ち着くだろうって。でも、あんな目に合って落ち着ける人ナンて、いるでしょうか?しかし、会っても私と彼女には共通点もナイし」

「え。"風の星"がどーしたとか話してたょね?"風の星"って何?ナウシカ?」

「テリィ様も御存知のとおり、私は池袋生まれのアキバ育ちです。"風の星"のコトは何も知りません。昔は誰かが良く話をしてくれましたが…耳を閉ざしてました。つながりを全部断ちたくて」

「アキバに溶け込むために?」

「ヲタクになるために」


うなずくミユリさんのメイド姿は絶品…(以下省略w)。


「サンサは、あんな辛い体験を…助けたいのに。どうしたら良いのか、わからないのです。かける言葉すら見つからナイ」

「…エアリに聞けば?地球が冷え固まって以来、アキバにいるンだろ?きっと良い考えを持っているょ」


あ。エアリは、ヲタッキーズの妖精担当だ。

すると…ミユリさんは急に僕にキスをスルw


「…なるほど。テリィ様、thanks」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


蔵前橋通り沿いに出来た民間の救急車センター。 

金持ち相手の豪華救急車サービスがウリらしい。


「責任者は?松永町ホテルで、ココの救急車の目撃情報があったンだけど?」

「あ、警部さん。何号車かわかりますか?」

「わかンない。でも、2日前の朝8時頃、丘の上の大学病院に搬出してる」


令状ナシで押しかけたラギィ警部に実にソツない対応をスルのはセンターのCEO。

大中小の様々な豪華救急車が並ぶ車庫で、ポロシャツ姿で出動データをチェック。


「プロダか、今も松永町方面へ出動中です。あの界隈は、道が狭くて"軽"でナイと辛いので」

「無線で連絡はとれるでしょ?呼び戻して」

「はい…あ。でも、ちょうど帰って来ました」


蔵前橋通りから左折で車庫に戻って来た救急車は"軽"で確かに目新しい。

ラギィ警部の部下が"軽"の前に飛び出し、警察手帳をかざして制止スル。


秋葉原警察署(アキバP.D.)!止まれ!」

「エンジンを切って両手をウィンドウから出スンだ!直ぐ!今すぐ!」

「動けば撃つ!」


そー逝われて止まる車はナイ。刑事達の拳銃に囲まれながら"軽"救急車は堂々Uターン!

カーチェイスシーンお約束の派手なブレーキ音を響かせ、蔵前橋通りに飛び出して全速力w


「ヘイ!止まれ!」

「追え!」

「行くぞ!」


カーチェイスだ。パトカーでサイレンを鳴らし追跡!


「コチラ、ラギィ警部。殺人の容疑者を追跡中。車両は救急車。蔵前橋通り左折、中央通りを南へ。神田明神通りを通過。応援を頼む」

「了解。全車応援(アルファストライク)至急急行(ホットスクランブル)せょ」

「救急隊員もグルだったのね」

「警部、間も無く万世橋!」


警察署ではなく橋だ。ところが、橋の上でハンドルを切り損ねたタクシーに乗り上げた"軽"は空中に飛んでヒネリを効かせて横転、屋根から路面に落ち大破w


「あらあら。ウチの管轄を出ちゃったわ。もう1回転してコッチに戻って来ないかしら」


タクシーからは、運転手がヨロヨロ出て来て橋の上でヘタリ込む。額からダラダラ出血し、負傷している。


「大丈夫?」

「車庫に帰る途中だた。救急車が飛び出して来て…」

「もう喋らないで」


タクシー運転手はラギィ警部に任せ、拳銃を構えたママ救急車を取り囲む刑事達。

構えた拳銃の先に、割れたフロントガラスの向こうで血塗れで失神してる運転手。


本物(モノホン)の救急車、早く来ないとヤバいな」

「貴重な突破口だ。死なれちゃ困る」

「お?コイツ、ドナー登録してるぞ?」笑


第3章 王宮メイドのサンサ


翌日の万世橋(アキバポリス)の面会室。

僕はミユリさんと同伴←


「サンサ。取り調べとかじゃないの。貴女の様子を見に来ただけ。コチラはテリィ様。私の御主人様」


サンサは微笑む。素顔の美しい人だ。


「ソレで…元気にしてたかしら?」

「はい」

「差し入れを持って来たの。洋服とか…」


ココでミユリさんのスマホが鳴動。


「はい…テリィ様ですか?」


僕へ電話らしい。僕はスマホの電話には出ないので…


「サンサ。他にシャンプー、歯ブラシ、歯磨き粉も買って来たのょ…テリィ様、何か?」

「うん。ルイナからでジャドー司令部に来いって…コッチは大丈夫?」

「あ。はい、ルイナの方へ行ってあげてください。彼女もヲタッキーズの一員だし」


ルイナに呼ばれるとロクなコトがナイ。

でもまぁいいや。呼ばれる内がハナだ←


「じゃ…サンサ。みんなが全力で妹さんを探しているからね。きっと見つかるょ」


サンサはうなずき、僕は去ったが、その後で…


「ありがとうございます、第3皇女。コレで髪を洗えます」

「良かったわ。あのね、私はミユリょ」

「はい、ミユーリ」

「サンサ。貴女は…"風の星"の生き残りなの?実は私は"風の星"のコトは良く知らないの」

「第3皇女が"風の星"を御存知ナイ?」

「YES。"風の星"の血は流れてるけど…私は池袋生まれのアキバ育ち。この肉体(ボディ)は、"風の星"には逝ったコトもナイ。私自身は、チャンスはあったけど、逝かなかった」

「秋葉原では何を?」

「メイドょ」

「わぁ!私も"月面王宮"でメイドをしていました!楽しい日々でした」

「だと思った。コレをあげるわ。私のお友達がね、きっと喜んでもらえるからって」


ミユリさんが取り出したのは…ネコミミ?


「おおっ!"黄金の(ゴールデン)ネコミミ"ではナイですか!」

「そーナンだけど…何なの?コレ?」

「頭につけます。祈りを込めて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「民間の救急車?ソンなニッチなビジネスがあるの?で、出動記録は押収した?」

「はい、警部。しかし、公式記録では大雑把な出動先と走行距離しかわかりません」

「ソレだけじゃ行方不明の異次元人少女までたどり着けないわ。また行き止まりじゃナイの!」

「ソコで、テリィたんを呼びました。ジャドーのパツキン姉さん(ルイナ)も力を貸してくれる…いや、頭を貸してくれる」

「その手があったわ!」


このタイミングで、ジャドー司令部にいる僕とルイナが、会議アプリを使って捜査本部の会話に割り込む。


「公式記録って、どんな記録かな?」

「あ、テリィたん?公式の出動記録ナンだけど、大したコトないンだ…にしても、わざわざすまないね」

「どーせ近くにいたンだ。さっきまでミユリさんとサンサの面会に逝ってたから」


ココでナゼかメイド服のルイナからの質問が飛ぶ。

既に(メイド服を着たw)頭の中は超回転中なのだw


「シフト時の走行距離はワカルのかしら?」

「あ、パツキン姉さん(ルイナ)。変な時間にスミマセン。ソレは会社の公式記録に載ってます。でも、ソレだけで細かい行き先とかはわからないンです!」

「行き先は、どのレベルまでわかるの?」

「千代田区とか…あ、怒らないで!」

「素晴らしいわ!」

「えっ?」

「先ず走行距離で行動限界が明らかになるわ。ソレと大雑把な目的地を掛け合わせればルートがわかる。後は"隠れモルコフモデル"と"楕円解析"で記録にはナイ道草とか裏ルートの可能性を絞り込んであげられるけど」

「こんなデータからお宝の地図があぶり出せるのかwパツキン姉さん(ルイナ)、やっぱりスゲェ。今日から家来になります」

「no thank you。とりあえず、その"公式記録"というのを送って。サンサの妹さんの居場所ポイ場所をいくつか提示出来ると思う。悪いけど、後はみなさんが足で1つ1つ潰してくださる?」

「合点だっ!やはり、家来に…」

「推測に過ぎないけど、何か月もの記録があるのでしょ?分析すれば必ずパターンが現れる。恐らくソレだけあれば、ランチに通う店もわかるし、サボリーマン行きつけの喫茶店も割れる。もし、不倫してれば女のマンションまでワカルわ」


僕は横から咳払い←


「サンサの妹さんの居場所だけで良いょ。ソレから、サラリーマンをバカにするなw」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「ただいま。誰かいる?」

「ギャレーにいるわ…あ、レイカ。コーヒーでも飲む?」

「いいえ。お酒の気分ょ」


レイカは、ジャドーの沈着冷静な最高司令官だが…今宵は御屋敷の流儀に従いヴィクトリアンなメイド服。


「ラギィと合同捜査になった頭脳泥棒ナンだけど、未だ捕まらないのょ」

「お疲れね」

「全く、異次元人の娘達は、なぜ秋葉原に来たがるのかしら?」

「例えばサンサは、妄想葉を売るために"リアルの裂け目"を渡ったわ。全てお金のため。家族のためだと逝ってたけど」

「生活のため?」

「YES。彼女の妄想葉は大金で売買される。買うのはお金持ちばかりとは限らない。ほら、ルーラを覚えてる?」

「あ、地下アイドル通りの"メイドリーマー"でメイド長をやってたルーラ?」

「YES。去年、腎不全で亡くなった」

「知らなかったわ」

「御家族は必死だった。でも、御家族の腎臓は適合しなかったの。姉妹でもダメだった」

「姉妹でも?」

「適合の確率は4分の1ナンだって。実は…私も検査したの」

「結果は?」


ミユリさんは、悲しげに首を振る。


「そして、ドナーを待ったけど、ルーラの前には待機患者が何百人もいた。もし、移植さえ出来れば…」

「言いたいコトはわかるけど"リアルの裂け目"を渡って、異次元から連れて来られてヤブ医者の手にかかるのょ?」

「良いコトとは思わナイけど、死ぬか生きるかなら、人は何にでもすがる。そして、一方で大金のためならカラダを切り刻んでも構わない人がいる。リアルにも、異次元にもね。ソレが現実」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ジャドー司令部は、パーツ通りの、とあるゲーセンの地下深く秘密裡に創られ…てるのは良いが窓がないw

 

「4時57分?アレ?朝だっけ?夕方?」

「OK!テリィたん、次ょ!あぁ出動記録は残りわずかだわ。残念…ポイント7。南北に2キロ。東西には3キロょ」

「子供の頃は、内臓を奪われる夢を見て怯えたモンだょ。中学に上がるまで周期的に出て来たな、あの悪夢」


僕とルイナは、ジャドーのラボで"公式記録"からのデータを入力中…に徹夜だw

気のせいか、ルイナはデータが入力される度に元気になるが僕は…そうでもない←


「次は…ポイントY12を中心にして北に1キロ。東西に1キロ。テリィたんの悪夢って、モンスターに襲われる的な?」

「給食のオバサンだょ。残飯を食べさせようと追っかけて来るンだ」

「ソレは…次が最後の座標ょ。D16。1キロと1.5キロだわ。あーあ終わっちゃった。楽しかったのにぃ」←

「13度目の正直だな。あの病院?」

「YES。また、あの病院だわ」

「つまり、最も可能性が高い目的地は丘の上の大学病院ってコトだね」

「YES。救急車だから病院に行っても目立たないし」

「だけど、正式な出動じゃないから"公式記録"には残らない」

「つまり…丘の上の大学病院に頭脳泥棒(妄想葉シンジケート)の手下がいるワケね」


第4章 妄想葉シンジケートを叩け


丘の上の大学病院の地下にある霊安室。

拳銃を構えた刑事達が続々と飛び込む。


万世橋警察署(アキバP.D.)!全員、手を上げろ!」

「撃つな!死体だ!もう死んでる!」

「アンタが責任者か?」

「夜は俺1人だ」

「救急隊員のプロダを知ってるか?」

「知ってると言うほどには…」

「知ってルンだな?」

「概ねYES。マイケに会いに来てる」

「マイケ?」

「日勤の当直だ。俺は夜の宿直で…あぁ!コイツです。コイツがマイケですぅ」


刑事がスマホに示す画像に大きくうなずく。


「くそ。松永町ホテルのナイトマネージャーだw」

「今どこに?」

「さぁ見てないな。なぁ上司に連絡して良いか?」

「モチロンだ。大急ぎで相談すべきだ」

「え。何か?」

「ココにある書類上は、死体は4体のハズだ」

「だから?」

「5体ある」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


約15分後。霊安室にラギィ警部が到着。


「遺体を隠すには、まさに絶好の場所だわ!」

「警部!死体は、サンサの妹さんではありませんでした。しかも、妄想葉の他に腎臓も両方取られている。肝臓、角膜、骨組織まで」

「妄想葉だけのハズが他の臓器や命まで…何かあったのね。以前は妄想葉ドナーが殺されるようなコトはなかったのに」

「今回は、医療ミスで死んだ1人目の目撃者だから消されたのでしょう。どーせ殺すなら臓器一式も売り飛ばせば億円単位で売れるし」

「臓器一式が?捕鯨母船での鯨解体作業みたいね」

「ソレも待機患者と適合すれば、ですが…皮膚、骨、脂肪、組織だってバイオ系のスタートアップに高く売れます。ましてや、異次元人なら」←

「"リアルの裂け目"を一緒に渡った4人の内2人が死んだ。次はサンサの妹の番ょ。適合する患者が見つかり次第"解体"されるわ。その前に見つけなきゃ。あぁでも、どーやって探せば良いの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「例えば、血液型のように変数が1つなら、2つを適合させるのは比較的容易だわ。でも、免疫システム全体の適合となると、多くの変数を考慮しなければならない。つまり、交差適合や色んな免疫タンパクなどね。だから、最適化アルゴリズムで移植する患者を選ぶ必要があるわ。恐らく、シャーンズ&ポップキッス大学で開発された最適化理論が、ドナーと待機患者の適合テストに使われていると思うの。ねぇ刑事のみなさんはどう思う?」


ルイナは絶好調だ。何しろ聞き手が誘導尋問のプロ、百戦錬磨の刑事達なのだ。

恐らく話の中身は何一つわかって無いハズなのに、我慢強く共感し、うなずく(フリだけど)w


「で、パツキン姉さん(ルイナ)。どうやって捜査したモンだろう?」

「血液を採られたってサンサさんが言ってたわょね。臓器配分ネットワークには、待機患者の血液型や交差適合、白血球の抗原の情報などがあるわ」

「なるほど。ネットワークのデータベースを振り出しに適合者を探すワケか。ヤッパ姉さんスゲェ。俺を家来…」

「アルゴリズムを少し整理してサクサク探せるようにすれば、ネットワークより先に適合者を見つけ出せるカモしれないわ」


ココで僕が挙手!


「待った!問題発生だ。僕達には、サンサの妹さんの血液データがナイ」

「じゃサンサの血液で調べるわ。姉妹ナンでしょ?」

「姉妹でも適合スル確率は 4分の1だぜ?」

「ゼロより期待出来るわ」

「何だかアバウトだな」


率直な感想を述べた僕に、約1ダースの刑事が無言で飛びかかり、羽交い締めにし、口を塞ぎ、床に転がす。

文字通り、上から目線のルイナが、文字通り、僕を見下げ果てた目つきで見下ろしコトもなげに逝い放つ。


「テリィたん。ソレ、確率論の問題だから」


だから何だ?パンツ丸見えだぞw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

数時間後、捜査本部は沈痛な空気に包まれる。


「サンサの血液データの適合者はナシだったわ。残念だけど」

「アルゴリズムは?」

「もう確かめたわ。方程式の問題じゃない。待機患者のデータが不完全ナンだと思う」

「そもそも妄想葉シンジケート自体が、闇取引の世界で稼ぐ存在。患者は、通常のルートでは臓器を入手出来ないけど金だけはあるセレブ。逆にドナーは、金はナイけど妄想葉だけはアル"妄想村"の貧しい"村民"だ。ソンな連中のデータが臓器ネットワークなんかでヒットするハズないだろ?」

「つまり、リストに当たるだけムダだと?」

「当たり前だ」

 

僕は、ココで慌てて…でも、おっかなびっくり身構えたけど、今度は誰も襲いかかって来ない。危ねぇw


「でも、あきらめないわ。成功を証明出来ないのと、失敗は違うから」


振り向くとラギィだ。小脇に見慣れないタブレット。


「丘の上の大学病院の霊安室にあったタブレットにリストが入ってた」

「え。見せて!」

「顧客名簿か?」

「恐らくね」

「闇商人の取引情報だな?金と欲に塗れた待機者リストだ」

「このリストの中の誰かが大金を払う前に、サンサの妹さんを見つけないと!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


丘の上の大学病院のセレブ病棟。

お茶の水駅前タワマンの最上階←


「パパ!警察の方が話を聞きたいって…」

「何だと?」

「手短に済ませましょう。異次元人の妄想葉を買うのは違法です。ダメ絶対」


豪華な病室にズカズカと入り込むラギィ警部御一行w


「何の話かワカラン。意味不(明)」

「既に異次元人の女性が2人殺されています。さらに、貴方と適合(ポジティブマッチ)の女性1名が行方不明になっており、万世橋警察は目下、全力を挙げて捜査中です」

「女性?異次元人?何の話?」

「お嬢さん。貴女のお父様のために、今この瞬間にも秋葉原の何処かで異次元人の少女が頭脳を摘出され、殺されているカモしれない」

「ワシは、何も知らないと言っているだろう」

「父は具合が悪いのです!私も仕事がありますので。どーぞお引き取りください!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「警部!明らかに容疑者は嘘をついている。ナゼ一気に攻め落とさないンですか?」

「いくら攻めても何も話さないわ。移植手術を受けるためなら完黙でしょwソレに対して、娘は何も知らなかった臭いわ」

「はい。明らかにショックを受けてましたね。しかも、妄想葉の出生を知って動揺してる。彼女を攻めますか?」

「テリィたんを呼んで」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィから聞いた通り、女が銀行から出て来る。


「こんにちは…自衛隊に入りませんか?」

「えっ?あ!貴方は"国民的ヲタク作家"のテリィたん?!」

「いつも"地下鉄戦隊メトロんX"を応援してくれてありがと!さぁ末広町で僕と握手だ!」

「キャー!抱いて!」

「実は、悪の女幹部役の女優が不倫にハマってバックれました。現場が止まり、次作が作れなくて困ってますが、貴女、やってみませんか?全国の良い子のタメにも」

「え。私が?素敵すぐるwでも、いきなりステーキ…じゃなかった、イキナリ大役だわ。先ずは女戦闘員あたりから…」

「OK!では、質問です。お父様は、何処で手術を?」

「え。サスガは"国民的ヲタク作家"だわ。何でも知ってるのね」

「でも、ホントは、お父様のコトより、女戦闘員としての君のコトをもっと知りたいンだ。レオタードだょ?」

「タイツ、好きなの…父は、血液疾患があって異次元人の頭脳移植をしないと死ぬと医者に言われて…毎日弱って行く父の姿を見守るのが辛かった。財産目当ての再婚相手は、見舞いナンか来るハズもナイ。私と父は、父子家庭でずっと2人きりだったの。私が異次元人なら良かったのに」

「助けたい気持ちはわかるけど、既に2人死んでルンだ」

「知らなかったわ」

「でも、今は知ってる。もう1人も切り刻まれようとしてルンだ。コレが、君達父娘にとって、最良の方法なのか?シンジケートの手で移植された患者は、先日、感染症で亡くなったし」

「…実は、私が父を迎えに行き、病院に連れて行く計画なのです」

「いつ?何処へ?」

「明日。松永町ホテルです」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「たった1度のミスだけだ」


舞台は、再び"松永町ホテル"へと戻る。

でも、地下ではなく3Fだ。しかもトイレ。


「平壌でNo.1外科医として"ブラックシャック(リ)"のモデルにもなった俺も、流れ流れて秋葉原のトイレで手術の準備とはな。でも、3Fは製氷機がアルから何かと便利だ」


ムーンライトセレナーダーを先頭に、音波銃を構えて階段を小走りに駆け上がるのはジャドーの特殊部隊。


「どうせ何を移植しても半年後に死ぬ患者だ。俺は、明日で引退スル。君は今回の分け前で何をするつもりだ?」


元喜び組で、超美人の看護婦から冷たい一瞥が飛ぶ。


「ま、いっか」


"ブラックシャック(リ)"がストレッチャーの上の女にメスを近づけた瞬間、落雷した?ドアが吹っ飛ぶ!


「"雷キネシス"!」

「秘密防衛組織ジャドーだ!メスを放せ!手を後ろに!」

「プリヤ!プリヤ!大丈夫?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


秋が深まる昭和通り口の秋葉原公園。


サンサは"黄金のネコミミ"を頭に載せて、忙しなく行き交う街の人々を、目で追っている。

信号が変わったのか、神田明神通りの方から人の波が押し寄せ…その中に微笑むミユリさん。


「あ、ミユーリ」

「ごめんネ。待った?」

「姉さん!」


微笑むミユリさんの背後から、もっと笑顔な女子が飛び出してサンサに駆け寄る。抱き合う異次元人姉妹。


「プリヤ!無事だったのね」

「ムーンライトセレナーダーが助けてくれたの!」

「え。ソレ何?美味しいの?」


公園の四方には、さりげなく刑事達が立っている。


「秋葉原のみんなが助けてくれたわ」

「私は、姉さんを信じてた。必ず会えるって。姉さんは?」

「そう?私は…祈ってた」


サンサは"黄金の(ゴールデン)ネコミミ"をミユリさんに手渡す。


「第3皇女。今度は貴女がお祈りください。貴女ご自身のために」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「わ!美味しそうな匂い!」

「異次元人の料理ってドンナンだか、サンサとプリヤに聞いてつくってみたょ」

「え。テリィたんのダッジオーブンディナー、今回は異次元料理なの?」


僕は、ギャレーからタンシチュー的な何かをサーヴ。


「ミユーリのおかげで、私達姉妹は釈放されました」

「あれ?ミユリさんは?」

「メイド長なら、さっきお出掛けになりました。でも直ぐ戻るって」


ダッジオーブンディナーの日に欠席は許されない!サンサ&プリヤ姉妹、ラギィ警部、ルイナ、レイカ司令官、ヘルプのつぼみん…全員がメイド服で大集合だ。


「サンサにプリヤ。コレからどーするの?」

「ソレはさ。ミユリさんが"神田明神グランプリ"をね…やっぱり本人から話してもらおう」

「賞金を私達の学費に。私達、医学生として妄想葉の研究に人生を捧げます」

「素晴らしいわ!ジャドーにも援助させて」


ソコへミユリさんが帰って来る。僕の大好きなフレンチなメイド服…しかし、メイド服で外出してたのかw


「ゴメンね。"外神田ER"に逝ってたの。ドナーカードをもらいに」

「え。ミユリさん、ドナー登録スルの?スーパーヒロインから移植されたら強くなれそー。心臓とか毛が生えてるの?」

「残念ですが、スーパーヒロインはドナーにはなれないそうです。この中で、何方か御希望の方がいたらと思って。因みに、私の心臓に毛は生えてませんから」


気のせいかビリっと来たけどマサカ"雷キネシス"?


「ドナー登録スル人が増えれば、ずいぶん変わるだろうね。そもそも、供給数が少ないから闇市場(ブラックマーケット)が成立するワケだし。供給が増えれば闇市場(ブラックマーケット)は消えるハズさ」

「では、テリィ様。申込書をどうぞ」

「いやいや。天才ルイナを差し置いてはちょっち」

「私?私は内臓を取られると思うと…」

「死んでからの話だょ?」

「知ってるわ」

「じゃあ心配しなくても良いンじゃナイ?」

「わ。何なの?このワケのわかんない包囲網wホントは、未だ生きてるのに死んだと誤解されて摘出されちゃう恐怖」

「アリがちな悪夢ね」

「え。大丈夫さ。生きてる内には、決して他人に渡したりはしないから。任せとけ」

「もし、良ければルイナの心臓は、毛が生えてナイ私に…」

「脳は僕がもらおう。ルイナの脳、ネットオークションで高値がつきそう」


ミユリさんは、カウンターの中でニッコリと微笑む。


「ダメです、テリィ様。ルイナの脳は、博物館(スミソニアン)逝きですから」



おしまい

今回は、海外ドラマでよくテーマとなる"頭脳摘出"を軸に、異次元人の妄想葉を売買するシンジケート、その手下、妄想葉を売る少女達、妄想葉を買う待機者リストの面々、シンジケートを追う敏腕警部と勇敢な刑事達、彼等を助ける天才や秘密防衛組織の司令官などが登場しました。


さらに、ヒロインの過去や、実は人間の肉体に宿るプラズマ生命である事の示唆、臓器売買に似た異次元人とリアル秋葉原の関係などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、コロナ宣言解除後も感染者激減が続く秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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