第07話 デートの誘い
土曜日────
高校が休みのこの日、新太は久し振りに家族全員で、大型ショッピングモールにやって来ていた。
そのため、今日一日詩葉のお世話係はお休み。
あらかじめやっておく勉強を指示しているので、問題はないだろうが、もし何かあれば新太のリネにメッセージが飛んでくるだろう。
そして、新太は今ショッピングモール三階の一角にあるソファーに腰掛けていた。
目の前の洋服屋で母と父が買い物をしているのだが、新太はその手のことにまったく興味がないので、こうして終わるのを待っている。
「あ……公開日明日だ……」
と、呟く新太の視線の先には一枚のポスターが。
新太の好きなファンタジーアニメで、その映画の公開日が明日──加えて、映画に出てくる重要キャラクターの声を当てているのが、琴音なのだ。
そんな映画を、新太が観ないわけがない。
「予約しとかないとなぁ……」
「琴音ちゃんが声当ててるやつかにゃ~?」
「ああ、そうそう……って姉ちゃんッ!? 買い物は?」
「うぅ~ん……良いのなかったから途中で抜けてきた~!」
座る新太の前に突然現れ、そう答えるのは新太の姉──『一条絵梨』だ。
手を込めて丁寧に染め上げられた長い金髪は緩くカールが掛かっており、ナチュラルメイクが施された美しい顔にはダークブラウンの瞳。
背は新太より僅かに高く、華奢な身体の割には発育の良い胸がしっかりと女であることを主張している。
誰が見ても陽キャの中の陽キャ。普通を極めたような新太の姉とは到底考えられないだろうが、こう見えて絵梨はオタクで、新太にオタク知識を埋め込んだのは誰でもないこの絵梨だ。
陽キャとオタクを兼ね備えた新人類と言っても過言ではない絵梨は、現在受験を控えた高校三年生。
今日はその息抜きでもある。
「で、元カノちゃんの映画、観に行くのかにゃ?」
「言い方ムカつくな……まぁ、もちろん観に行くけど」
「うぅ~、健気ぇ~! クソ……やっぱり新太と琴音ちゃんのラブコメには悶えさせられるぅ~っ!」
「勝手にラブコメにして悶えんな! それに、もう琴音とは終わってんだよ」
「えぇ~、お姉ちゃんはそうは思わないんだけどにゃ……?」
絵梨の妄想癖には付き合っていられないと、新太は首を横に振る。
そんなとき、新太のスマホに着信が入った──詩葉だ。
新太は通知をタップしてリネを開く。
『新太君! 明日はお姉ちゃんが声を当ててる映画の公開日です!』
新太は、流石に妹の詩葉は知ってるかと小さく笑いながら返信する。
『だな。俺も前々から楽しみにしてた』
『やっぱり! あの、予約って……もう取りましたか?』
『いや、まだ』
テンポよくポンポンとメッセージが飛んできていたが、ここで少しの間が出来る。
新太が画面を眺めて少し待っていると────
『じゃあ、明日私と映画デートしませんか?』
「ぶっ……!」
新太はその目を疑うようなメッセージに、思わず手からスマホを落としそうになる。
しかし、すぐにしっかりと持ち直してメッセージを返す。
『別に良いぞ? 詩葉と外へお出掛けするのは初めてだな?』
『そうですね。それに、私にとっては生まれて初めてのデートでもあります』
『まあ、それは置いといて……予約は俺の方でしておこうか?』
『え、良いんですか? 誘ったの私なのに……』
『別に構わんだろ。じゃ、詳しい時間とかはあとで送る』
『はい! 楽しみにしていますね!』
ポチ……と、サムズアップしているアニメキャラのスタンプを送ってからやり取りを終える。
ふうと息を吐いた新太。
すると、いつの間にか存在を忘れていた絵梨が、スマホの画面を覗き込んできていたことに気が付く。
新太が「おい……」と不満げに向けた視線の先で、絵梨は堪えきれないニヤニヤを浮かべていた。
「ふふふ……新太と琴音ちゃんの関係の中に入ってきた新しいヒロイン。ぐへへぇ~、最高かよぉ~!」
「そんなんじゃないから! って、その身体クネクネさせるの止めろ! 普通にキモいわ!」
「にゃはは~! おんもしろくなってきたぁあああ!! ね、ね? どんな娘? 新太がお世話してる……詩葉ちゃんだっけ?」
「絶対教えん! どうせお花畑な妄想の種にされるだけだからな!」
「バカ野郎! オタクは妄想出来なくなったら死ぬんだにゃ!」
突然血走った視線で怒鳴ってきた絵梨に、新太は一瞬怯むが、すぐにその目を呆れたように細める。
「そんな存在は大人しく死んでしまえ」
「ひ、酷いにゃ!?」
絵梨は胸を押さえて仰け反り、大袈裟にリアクションを取るのだった────
□■□■□■
明日新太と映画を観に行くことが決まった詩葉はというと────
「~~ッ!?」
ボフン! とベッドにダイブして、枕に顔を埋めて言葉にもならない声を漏らして悶えていた。
(さ、さささ誘っちゃいました……! それで、オッケー貰っちゃいました……!?)
詩葉は自分のスマホをつけてリネを開くと、改めて先程の新太とのやり取りを見返す。
何度確認しても、見間違いなく明日映画に行くことになっている。
「男の人と二人っきりでお出掛け……これは、デート……で、間違いないですよね……?」
詩葉はベッドに仰向けになり、誰へともなく問い掛ける。
もちろん返事は返ってこないが、これは紛れもなくデートだと自分の中で既に確信があった。
「服、選ばないとですねっ……!」
詩葉はまだ早いことに気付かず、高鳴る鼓動を胸にクローゼットの扉を開けるのだった────
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