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第06話 どきどきディナータイム


 新太は家族にリネで「今日は外食して帰る」と、夕食は要らない旨を伝えておく。

 流石に、女の子と二人っきりで料理を作って食べて帰るから夕食は要らない……とは言えない。


「よし……」


 新太は制服のブレザーを脱ぎ、長袖シャツを捲ってキッチンに立っていた。

 そこへ、少し遅れて詩葉がやってくる。


 モフッとした素材の部屋着の上からエプロンを着けた不思議な格好だが、それがどことなく可愛らしい。


「さて、冷蔵庫の中身を拝見っと……」


 大きな冷蔵庫だ。

 新太はそこまで背が高くないが、結構見上げなければ一番上の棚が見れない。


「ど、どうでしょう……?」


「これは……」


 実はそこら辺の主婦並みに料理が出来る新太。

 目の前の食材と脳内のメニューリストを照らし合わせ、献立を考える。


「詩葉、唐揚げとハンバーグどっちが良い?」


「えっと……どっちも?」


「……流石だな」


 新太は苦笑いを浮かべながらも夕食の内容を決定させる。


「よし、今晩のおかずは唐揚げとハンバーグ、サラダ、キノコとその他もろもろの野菜をふんだんに使ったスープだ!」


「わぁ!」


「んじゃ、詩葉はお米を磨いで炊飯器にセットしてくれ──」


 こうして二人並んで調理が始まった。


 詩葉は新太の指示のもと、てきぱきと調理し、新太は手慣れた動きで進めていく。


「何だか……こうしてると新婚さんみたいですね?」


「何か中一がませたこと言ってる~」


「ませてません! 本当にそう思ったんですっ!」


 新太は笑いながらパン粉を付けた鶏肉をオーブンに入れる。

 唐揚げを作るのだが、油で揚げないのは新太のこだわり。そうすることでヘルシーになるからだ。


 唐揚げが出来たあとは、すでに形になっている人参や玉ねぎが入ったハンバーグのタネと交代だ。


「でも、新太君は将来良い主夫になれそうですね?」


「まあな。将来の夢は中二の頃から主夫だしな」


「えっ!? 夢が小さい!」


「酷くねッ!? 家事をこなすの立派な仕事じゃね!?」


「それはそうですけど……」


「ま、俺なんかをもらってくれる奴はそうそういないだろうけどなぁ……」


「……そ、そんなことはないと思いますよ?」


「そうか?」


「はい……」


 何の確証があって……と、新太は不思議に思いながらも手を動かす。

 そんな新太の横顔をチラリと盗み見る詩葉の頬は、微かに赤らんでいるようにも見えた────



 □■□■□■



 新太と詩葉は、出来上がった料理をダイニングで食べていた────


 新太は流石に唐揚げとハンバーグの両方は食べられないので、出来た唐揚げは全て詩葉のお皿の上だ。山になっている。


 しかし、詩葉の掘削作業は驚くべき早さで進んでいった。

 行儀は良いし、きちんと噛んで食べている。だが、満腹という概念を知らないのか、口に食べ物を運び飲み込むペースがまったく落ちない。


 すると、いつの間にか間食していた。

 新太のお皿にはまだ少し料理が残っているというのに。


「ごちそうさまでした! 凄く美味しかったです!」


「そりゃ良かった」


 新太は満足そうな詩葉の笑顔を見て微笑む。

 親子……というほど歳が離れているわけではないが、子供にご飯を作って美味しいと言ってもらえる親の気持ちとはこんな感じなのかなと、新太は考える。


 しかし、そんなことを考えているのが詩葉には伝わったようだ。

 少し不満げに頬を膨らませる。


「何だか、まだ新太君が私を子供扱いしてる気がします」


「いや、否定はしないぞ? 実際子供じゃん。俺は高一、詩葉は中一」


 むむむぅ……と唸る詩葉。

 すると、新太の手元にはまだ料理が残っていることに気が付き、しばらく考え込むようにジッと見る。

 そしえ、何かを思い付いたのか「それなら……」と呟きながら新太の対面の席を立ち、隣の席に移ってくる。


「お箸貸してください?」


「な、何か嫌な予感がする……」


「所詮は()()のすることですよ?」


「うっ……」


 新太は仕方なく手に持っていた箸を詩葉に預ける。


 受け取った詩葉は目蓋を閉じてすぅ……と呼吸と精神を整えるように息を吐き出す。そして、再び栗色の瞳が開かれる。


 すると────


「ほら新太? あーん、して?」


「──ッ!?」


 新太は目を見開き、息を飲んだ。


 果たして目の前にいるのは本当に詩葉なのだろうか。

 表情、口調、視線……何より、纏う空気感がまったくの別人。

 まるで、付き合い始めてまだ少ししか経っていない自分の彼女──そんな存在がいれば、まさしくこんな感じだろうと強制的に思わされる。


 新太の心臓がどんどん鼓動を早めていく。顔に熱を感じ、恥ずかしいのにどうしても詩葉から目が離せない。


 これが、詩葉の力──芸能界で“天才”と称され、『碓氷詩葉』として有名になった理由。


 中学一年生? 馬鹿な。目の前にいるのはどう考えても同年代とも思える少女。


 少し恥ずかしそうに微笑みながらも、それが嬉しくてたまらない……自分を心の底から慕ってくれている、まさに恋人だ。


「う、詩葉……!?」


「ん? 早く食べて?」


「っ……!」


 新太はバクバクとうるさい鼓動に静まれ静まれと念じながら、ゆっくりと詩葉によって差し出された唐揚げを口に入れる。


 そして、すぐに顔を背けて咀嚼し、飲み込む。


「どうでしたか? ()()のイタズラは?」


 いつも通りに戻った詩葉が、クスリと笑いながら尋ねる。

 新太はそんな詩葉にジト目を向けてからため息を吐く。


「悪うございました……詩葉は子供じゃなかったな……」


「わかってくれたようで何よりです! 新太君の好みだと思われるキャラでやってみましたが……次は『ツンデレな彼女』とかもやってみましょうか?」


「か、勘弁してくれ……」


「どうしてですか? 刺激が足りませんでしたか?」


「逆だって……なんか、まだ心臓がドクドクしてるんだわ」


「どれどれ……」


「ちょ──ッ!?」


 詩葉は新太の胸に片耳をつける。


 何の前触れもなかったので、新太は心の準備が出来ていない。

 また一段と心臓が高鳴る。


「さ、流石に恥ずかしいんだが……」


「え? ……あっ!」


 詩葉は咄嗟に新太の胸から耳を離し、ちょこんと椅子に座り直す。


「演技するなら前もって心の準備をさせてくれ……これヤバイから」


 新太は照れを隠すように頭を掻く。

 詩葉の姿をしっかりと見ることが出来ず、視線は斜め上に逸らされている。


「んで、今のはどういう演技だったんだ?」


 そう尋ねられた詩葉はしばらく胸の前で手を握り締めてから、上目遣いで答えた────


「『ある人に密かに想いを寄せる少女が、ふとした瞬間に素を見せてしまった』……っていう“演技”ですよ?」


「なるほど……素人意見で申し訳ないが、完璧だったと思うぞ? マジで演技ってわからんかった……ってか、その少女の想いに気付いてやれよ()()()!」


「そうですね~。私もそう思います」


 詩葉は、思わず笑いを溢してしまうのだった────

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