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第23話 クリスマスパーティー①


「というわけで、クリスマスパーティーの始まりですねっ!」


 そう詩葉が言う通り、今日は十二月二十四日──クリスマスイブの午後六時だ。


「詩葉元気だな……俺はこの状況に気まずさを覚えずにはいられないぞ……」


 と、床に座る新太が、ため息混じりにこの詩葉の部屋を見渡す。

 すると、ベッドに腰掛ける詩葉だけでなく、椅子に姿勢良く腰掛ける琴音の姿もあった。


 そんな琴音は、新太に向いて意地悪く微笑む。


「こういうのを、俗に修羅場って言うのかな?」


「ま、まぁ、和やかな雰囲気だからそうじゃない……と信じたい」


 新太は苦笑いを禁じ得なかった。


 琴音は今日明日仕事をオフにしているらしく、こうしてクリスマスパーティーに参加出来ることとなった。

 何でも「可愛い妹と新太が二人きりで一晩過ごすなんて、詩葉の身が心配よ! 新太だって男なんだから!」とのことだ。


 それで、監視役ということもあって琴音は参加しているのだが、新太にしてみれば、詩葉と二人きりという状況より悪化しているようにしか見えなかった。


「ってか、具体的にクリスマスパーティーって何するんだ?」


 新太がそう尋ねると、詩葉と琴音が顔を見合わせて意味ありげに微笑む。


「えへへ……では、お姉ちゃん!」


「うん。新太をご案内~!」


「え? ちょ、ちょちょちょ……」


 ご機嫌な様子の二人が、それぞれ新太の手を引っ張って部屋を出る。

 そして、一階のダイニングにやってくると────


「ま、マジかよ……ッ!?」


 長いテーブルの上に、ズラリと並んだ様々な料理。

 雰囲気を出すためか、美しい装飾が施された燭台も飾られており、蝋燭(ろうそく)に灯った火の揺らめいている。


「流石に全部とはいきませんが、私とお姉ちゃんで協力して作ったんですよ?」


 詩葉がフフンと誇らしげに腰に手を当てて胸を張る。


「どう? 驚いた?」


「あ、ああ……」


 琴音が横から聞いてくるので、新太は素直な感想を口にする。


「そりゃ驚くだろ……琴音はともかく、詩葉は食べるの専門かと思ってたからな……!?」


「ひ、酷いですっ!」


 詩葉が不満げに頬を膨らませて新太の肩を叩くので、新太は笑いながら謝る。


 そして、三人は長テーブルにつくことになったのだが…………


「こんな広々としたテーブルなのに、狭々しく座らんでも……」


 と、そんな風に唸りながら呟くのは、左側に詩葉、右側に琴音と挟まれた形になっている新太である。


「えへへっ、新太君の傍で食べるご飯は格別ですから」


「なに? 緊張しちゃってるの?」


 そんなわけで、席配置の変更はないらしい。


 新太は「まぁ、仕方ないか」と諦めて、三人で頂きますと手を合わせてから食べ始める。

 そして、こうなるだろうなと予想していた事態が発生した────


「はい、新太。あーん」


「琴音……俺、子供じゃないんだから……」


「そうだね? でも、私の好きな人よ?」


「……ッ!? そ、そういうことをサラッと言いやがって……」


「サラッと言わないと、新太わかんないんだから。この鈍感」


「うぅん……」


 新太は口許に差し出された一口大のグリルチキンを食べる。

 フォークは当然のように琴音のものなので、いわゆる間接キスだが、付き合っていたことはよくやっていたことなので、両者とも特に気にすることはなかった。


「あ、お姉ちゃんズルいです! 私も食べてください新太君!」


「詩葉? 『私も』じゃなくて『私のも』な? それだと、まるで俺がお前を食べるみたいになるぞ……」


「っ……!? あ、新太君のエッチ! 食事中に何てこと考えてるんですかっ!?」


「いや、お前のせいな気がするが……」


「気のせいですね!」


 そんなことは良いんです! と、詩葉が早速自身のフォークでチキンを刺すと、手を添えながら新太の口許まで運ぶ。


「はい、新太君。お口を大きく開けてください」


「台詞が耳鼻科だし、流石に切れがデカ過ぎるな……」


「お、男の子なんですから、一口大はこれくらいですよね!?」


「詩葉の中の男の子像が気になって仕方がないな」


「うぅ……もう少し小さくします……」


「良いよ、食べる」


「え──」


 下げようとしていた詩葉のフォークに刺さったチキンを、新太の口が止める。

 やや切れが大きかったものの、まあ口に入らないほどではない。


 新太はフォークからチキンを引き抜いて、口一杯に咀嚼(そしゃく)する。


 そんな新太をしばらく呆けたように見詰めていた詩葉だが、ぷぷっと小さく笑いを溢す。


 口の中で頑張ってチキンを食べている最中の新太は喋れないが、視線を細めて「何だよ?」と尋ねる。


「いえ、リスみたいで可愛いなと思ったんです」


「うー……」


 新太は唸りながらもモグモグと口を動かす。

 それを反対側から見ていた琴音も、肩を震わせていたのでよく見てみれば、笑いを頑張って堪えていた。


 そんな食事が続き、最後にはこれも二人の手製だという純白のケーキが出てくる。


「いやぁ、クリスマスと言ったらこれだよな~」


「あと、誕生日とかですね?」


「結婚式もよ?」


 琴音の言葉に思わず咳き込んでしまった新太。


「さ、早く食べましょうっ!」


 と、ノリノリでケーキを切り分けるのは詩葉だが、先程料理を誰よりも食べていたのに、そのお腹にはまだ余裕があるということなのだろうか。

 だが、詩葉の胃袋がブラックホールであることは今更なので、新太も琴音も指摘したりしない。


 そして、八つにカットされたケーキの一切れずつを新太と琴音が、詩葉は三切れ食べてしまったのだった────



 □■□■□■



 ────夕食は良かった。


 多少詩葉と琴音の悪戯で、新太はドキドキさせられてしまったが、この程度なら何の問題もない。

 理性を崩壊させて二人に襲い掛かる──なんて心配はなさそうだな、と新太が余裕の笑みを浮かべて今、先にお風呂を頂いていた。


(うちの風呂の一.五倍はあるな、この浴槽……)


 チャンポン……と髪の毛から滴る水滴が、浴槽に張られた湯の面を叩く。


 新太はなかなか入ることの出来ない大きな浴槽に足を伸ばし、背を預け、顔の下半分まで浸けて温まっていた。


 のだが…………


 ガラガラガラ────


 浴室の横開きの扉が開けられた。


 新太は錆び付いた機械の様に首を動かし、そちらに振り向き、苦笑を湛えた。


「マジかよ……」

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