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第17話 宣戦布告


「ふはぁ……私、新太君の寝込みに何てことをぉ……」


 既に時刻は十時を回っている。

 新太はとっくに帰宅し、現在詩葉はお風呂に浸かりながら、膝枕していたときのことについて深く後悔していた。


「で、でもあれはお休みのキスであって、他意はないというか……って! 誰に言い訳してるの私は~!?」


 バシャリ! と両手で湯をすくい上げ、顔面に掛ける詩葉。

 そして、一人で「うぅ……」と唸りながら頭を抱えていると────


 ガラガラ──と横開きの浴室の扉が開き、いつも下ろしている黒髪をお団子に束ねた琴音が入ってくる。


「お、お姉ちゃん!?」


「あはは、さっきから何をブツブツ言ってるのよ?」


「えっ!? い、いや別に!?」


 可笑しそうに笑う琴音と、慌てて居住まいを正す詩葉。


「というか、帰ってきてたんだ?」


「うん、ちょっと早くにね~。それで、折角だから久し振りに、詩葉と一緒にお風呂入ろうと思って」


 琴音はそう答えながら椅子に座り、桶に湯を溜めてボディータオルに泡を立たせる。

 そこからしばらく会話が生まれることはなく、琴音が身体を洗っている姿を、詩葉が何となく横目で見ているだけ。


(……やっぱり、お姉ちゃんルックス良いな。私ももうちょっと身長と、あと……)


 詩葉は自分のまだ発展途上の身体を見下ろし、胸の膨らみに手を当てる。そして、チラリと琴音のそれと比べてみる。


(うぅん……あと、二年くらいしたら……追い付ける?)


「ちょっと詩葉~? 今、失礼なこと考えてなかった?」


「か、考えてないよ!?」


 ジト目で睨んでくる琴音の視線から逃れるべく、顔を明後日の方向に向ける詩葉。


 そんな詩葉を見て、クスッと小さく笑みを溢した琴音は、髪を下ろし、手にシャンプーを取ってからシャカシャカと頭を洗い始める。


「大丈夫だよ、詩葉。新太はそんなところで人を判断したりしないから」


「ほ、ホントに……?」


「もちろん! 大切なのは大きさじゃなくて形よ!」


「お、お姉ちゃん……それは、自分への言い訳でもあるんじゃ……」


「ち、ちがっ……私別に小さくないですから!? 平均的ですから!」


 そんな琴音の弁解を聞きながらも、一応改めて自分の双丘を見下ろす詩葉。


(形は……悪くないよね……?)


 そんな誰へともない呟きに、詩葉の脳裏で妄想の新太が答える。


 ────い、良いんじゃないか? 俺は……好きだぞ……?


「──ッ!?」


 ボッと、詩葉の顔が真っ赤になり、一気に身体が火照る。そして、そのまま顔の下半分まで湯船に浸ける。


 やがて、洗い終わった琴音が詩葉と向かい合うように湯船に入ってくる。


 二人が入ってもまだ少しばかりスペースに余裕があるのは、流石芸能一家の風呂と言えるだろう。


「……お、お姉ちゃんはさ。その……新太君と、どこまでやった……というか、進んだというか……」


「へぇ、詩葉もやっぱりそういうの気になるんだ?」


 恥ずかしがりながらも、小さくコクリと頷く詩葉。


「そうだなぁ……どこまで、か……どっちが上なんだろ?」


「どどどどっちとはっ……!?」


「えっと……あはは、何だか恥ずかしいな……」


 言おうか言うまいか悩む琴音に、詩葉はゴクリと喉を鳴らす。

 そんな詩葉の真っ直ぐな視線に負けて、琴音は微かに頬を赤らめながら自分の口許に人差し指を持ってくる。

 そして、チロリと舌先を出してみせた。


「うっ……どっちが上かって言ってたけど……もう一つは……?」


 戦々恐々とした面持ちで尋ねる詩葉。


「もう一つは、その……ちょっと、じゃれ合うというか……」


 そう言って視線を斜め下へ逸らし、自身の身体を抱き寄せる琴音。


「お、お姉ちゃん……意外と……意外でした……!」


「だ、大丈夫だよ!? その、行くとこまでは行ってないから!」


「逆に、行ってたら流石の私もビビりますっ!」


 互いに顔を真っ赤にする詩葉と琴音。


 しかし、この琴音の話を聞いて、詩葉は自身の胸がギュッと強く締め付けられるような感覚と、ズキンと心臓が痛む感覚を覚えた。


 両者の間に沈黙が流れる。


 そして、先にその沈黙を破ったのは琴音だった。


「ねぇ、詩葉……私、前に詩葉を応援するって、そう言ったよね?」


「……うん」


「今でも、それは変わらないよ? 私は詩葉が新太を好きって思うことを否定したりしないし、むしろ頑張って欲しいと思ってる」


「お姉ちゃん……?」


「でもね、私──」


 琴音の真剣な瞳が、真っ直ぐ詩葉に向いた。


「──やっぱり新太が好きなこの気持ちに、嘘は吐けない」


「……」


「えっと、驚かないんだね……?」


「……えへへ。だって、知ってたもん」


「そっか……」


 互いに顔を見合わせ、小さく笑い合う。


「……もらって良い?」


「何言ってるの、お姉ちゃん。渡さないよ? 私がもらうんだもん」


 琴音は、詩葉ならそう答えるだろうなとわかっていた風に微笑むと、一度目を閉じる。


「なら、どうする……?」


 穏やかな表情ではあるが、改めて開かれた琴音の瞳には、凛と輝く何かが宿っているようだった。


 そんな琴音の視線と真っ直ぐ向き合った詩葉は、見えない湯の中で拳をギュッと握り締める。


「もちろん、全力で勝負するだけ」


「良いの? 多分、今の私の方が有利だと思うけど……」


(……確かに。お姉ちゃんは新太君と同級生だし、何より、新太君もまだお姉ちゃんのことが好きだと思ってるはず……)


 だから、諦めるのか?


 詩葉の答えは断じて否だった。


 もうこの気持ちは抑えられない。

 不利だから、相手が姉だから……そんな理由で、新太を譲るなど、詩葉はこれっぽっちも思えなかった。


「良いよ、それで」


「自信、あるんだ?」


「……わからないよ。でも、どうしても新太君だけは、譲れないから」


 琴音は、詩葉の表情から覚悟を感じ取った。

 逆もまたしかり。


 今まで何かを争ったりしたことのない二人。

 しかし、今こうして新太に向けて、二人の気持ちが動いた。


「負けないよ、詩葉?」


「私だって!」


 新太の知らぬところで、新太を巡る争奪戦の幕が、堂々と切って落とされたのだった────

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