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第15話 琴音の決意


(むむむ……メイド喫茶ではお姉ちゃんに新太君を完全に取られてしまいました……でもッ!)


 メイド喫茶を後にした新太と詩葉。

 並んで廊下を歩く中、詩葉は決意の光を宿した瞳をチラリと新太の横顔に向ける、と────


 心ここにあらずといった感じで、若干頬が赤らんでいる新太。


 それもそのはずで、専属メイドとなった琴音が恥ずかしがりながらもどこか嬉しそうに新太を甘やかし尽くしたのだ。


 琴音のような美人に奉仕されて喜ばない男子などいない。

 新太は恐らくその幸福感を隠しているつもりなのだろうが、元天才子役である詩葉の目は誤魔化せなかった。


「……えぇい!」


「うわっ!?」


 新太の魂をここに引き戻すため、そして、こうして隣にいる自分を気にしてほしさから、詩葉が新太の左腕に自分の腕を絡めた。


「お、おい詩葉さんや……?」


「人が多いので、はぐれないようにです! こんな中一人にされては、私は死んでしまいますから!」


「そ、それはわからんでもないけど……」


 新太は、自身の腕に微かな弾力のある何かが当たっているのを感じる。もちろん絡められた詩葉の腕──などではない。


(服の上からじゃわからないが……コイツ、意外と胸が──って、何考えてんの俺ッ!? いや、こういう状況に持ってきた詩葉も悪いんだが……)


 新太は横目で詩葉の顔を盗み見て────


「……変なこと考えてませんか?」


 ────思い切り目が合った。


「い、いやいや考えてないから!? ちなみに……本当に考えてないけど、もし考えてても俺悪くないよな……?」


「や、やっぱり考えてるじゃないですか! エッチスケベ変態……っ!」


「くっついてきたの詩葉だぞ!?」


「あー! 今考えてること否定しませんでしたねッ!?」


「考えさせる方が悪いと思います!」


「ひ、開き直った!?」


 スッと澄ました顔をして見せる新太と、目を見開く詩葉。

 二人はしばらく互いの顔を見合って、何だか可笑しくなって小さく笑いを溢す。


「でも、別に良いです」


「ん、何が?」


「新太君が、その……私でそういうことを考えていても……です……」


「──ッ!? う、詩葉……その言い方はちょっとまた別ベクトルと言いますかっ……変な誤解を招きかねない!」


 まるで自分が妄想の中で詩葉にあんなことやこんなことをしているみたいではないかと、新太は焦る。

 しかし、詩葉はそんな慌てる新太の姿が可笑しかったのか、再びクスリと微笑むと、上目遣いで口を開く。


「えへへ……だって、新太君が私を子供扱いしてない何よりの証拠ですからね? 私でそーゆーことを考えるってことは」


「ばっ、バカっ……誰かに聞かれたらどうすんだよ!?」


「どうもしませんよ? 新太君がお友達から変態と罵られるだけですからっ!」


「いや……そんな満面の笑顔で言われても……」


 意外と詩葉にはSっ気があるのではないかと新太が疑い始めたのは、このときからだった────



 □■□■□■



 新太と詩葉がいなくなったあと、メイド喫茶では────


(も、もぉぅ……ほんっとにバカなんだからぁ……!)


 接客係を交代し、現在調理スペースで皿を洗っている琴音は、顔を真っ赤にして高鳴る鼓動に合わせてスポンジを擦るスピードも尋常ではなかった。


(折角、新太のこと忘れようとしてたのに……)


 そう心中の中で呟きながら思い返すのは、あの日──詩葉が熱を出して、帰る新太を見送った日の夜。


(私達が別れたのは間違いじゃなかった……そのお陰で私は声優業に専念出来てるわけで……でも……)


 脳裏にフラッシュバックする、先程の新太の姿。


 身体を触ってきたため抵抗しようとしたら、先輩に「なら他の娘にしてもらおうかな~?」と言われた琴音は動けなくなった。

 自分が抵抗すれば、クラスメイトの女子が今度はセクハラを受けてしまうからだ。そうなるくらいなら、自分が我慢すれば良い。


 そう思い、何も出来なかった自分を助けてくれた元カレ。


(間違いじゃなかったけど……正解でもなかったんじゃ……?)


 そんな考えが過った瞬間、一際大きく心臓が高鳴った。

 そして、皿を洗う琴音の手がふと止まる。


(今まで何とか誤魔化してきたけど……も、もう無理……)


 ゆっくりとその場にしゃがみこんだ琴音。

 瞳には熱が帯びており、顔はみるみる紅潮していく。


(いくら自分に嘘吐いても……言い聞かせても……)


「好きなものは、好きなんだもん……!」


 密かに呟かれたその言葉が誰かの耳に入ることはなかった。

 しかし、確かにこの瞬間、琴音は覚悟を決めたのだ。


 新太は琴音の声優活動を応援するために、琴音は新太に忙しくなる自分以外の人との出逢いを掴んでほしかったがために選んだ“別れ”。


 これは、あの日新太が言ったように、確かに間違いではなかったのかもしれない。

 でも、琴音はどうしても正解とも思えなかった。


 恋も仕事も、両立してみせる────


「ふふっ、私もバカね……」

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