燃えよ号外 後編
我々の業界で号外というのは当日配られる追加台本のことで、号外が出ると当然追加撮影が行われることになる。その日出た号外によると、ルイス・リーさんという役者さんとの立ち回りが追加されており、我々主役の4人の忍者が全員殺されることになっていた。まだまだ台本では出番があったはずなのだが、こうもあっさり死んじゃっていいんだろうか。ともかく追加撮影が行われる。身軽なルイスさんがとんぼを切ったり飛び蹴りをし、忍者が一人一人倒されて行った。短時間で撮影は終了。
翌日、ロケの予定時間に集合するとスタッフが何やら騒がしい。「どうかしたんですか?」「みぶさん、大変なんです。昨日の追加撮影部分の映像が消えてるんです」「撮り直しですか?」うんざりしてポケットからA4の紙を取り出すと、印刷されていはずの号外が白紙になっている。「あの号外、誰も書いた覚えがないらしいんです」まるで集団催眠だ。号外も追加撮影もなかったことにされ、元の台本通り撮影がつづいた。今も思うのだが、どこか我々の知らない別の世界で、日本人の忍者を叩きのめすルイス・リーさんの映画が上映されて人気をはくしているのかも知れない。