96.適材適所ですね。
セレーナさんはお家に帰るということだったから、私もいったん宿に戻ろうと席を立った。
「良かったら分かれるところまでご一緒してもいいですか?」
「勿論よ。 少し名残惜しかったから嬉しいわ」
最初こそ敬語だったけど、セレーナさんはため口の方が話しやすいのか自然な雰囲気になった。ため口で話慣れてるってことは敬語で話す相手よりも、ため口で話す相手の方が多かったんだろうと勝手に思う。ってことはたぶん貴族だったときは子爵とか男爵位よりも上だったと思う。まぁ一般庶民な上、現代社会では貴族階級に触れる機会なんてなかったからよくわからないけど。この世界にいるならいろいろ知りたいな。
セレーナさんの歩幅に合わせていつもよりゆっくり歩いた。すると普段は目が向かないような建物のつくりや街全体の雰囲気、周りにいる人たちの表情、様々なことに気付きがあった。いつもどれだけせかせかと歩いていたのかがよく分かった。観光地だから賑わっているけど、都会の人ごみに慣れていた身としては全然余裕な程度だ。すり抜ける様に歩く必要がないのはストレスがなくていい。
「え? ここですか?」
「ミオも?」
「はい」
まさかの同じ宿だった。しかも……。
「隣?」
「あはは、驚きね。 でも隣だなんて嬉しいわ。 良かったら今度一緒にお食事でもいかが?」
「喜んで!」
「また」とお互い手を振ってそれぞれの部屋に入った。
この国の人って言ってたからまさか宿暮らしとは思わなかった。日本でもあえてホテル暮らしの人とかいるからそんな感じかな?
部屋に入って椅子に座って外を眺めた。ここからは大通りの様子がよく見えるから、眺めていて飽きない。
「浄化、どうしようか?」
「まだ急ぐほどの濃さではないのだろう?」
「まーそれはそうだけど、早いに越したことはないよね」
「数日別行動になっても構わないか?」
「え!? なんで!?」
凪から別行動なんて言われたことなかったから動揺してしまった。
「美桜が潜入するのは難しいだろうが、俺が小さくなればはたから見ればただの犬。 小さくなれば人目に付きづらくなるから動きやすい。 だから俺が探ってくる」
「でも……凪にだけそんな危ない事させられないよ」
「なら他に案はあるのか?」
「…………ない」
「なら、決まりだな」
床に膝をついて凪の手を握って目を見た。
「無理はしないこと。 危ないと思ったら潜入はすぐやめて帰ってくること。 約束してくれる?」
「約束する」
「凪、ありがとう」
「気にするな。 お互いできることをやる。 それだけだ」
「凪が調査に行ってる間は私はこの国の事を勉強する。 これからの旅に活かせる情報を収集する」
「あぁ、頼んだ。 だが、美桜も無理はするなよ」
「約束!」
指切りをする代わりに凪の手を握って小さく上下に振った。




