95.貴族には気をつけろ、です。
「良かったらこれどうぞ。 レモン水なんですけど飲めますか?」
屋台で買ってきたのはいいけど、妊婦さんってレモンオッケーだよね?
「ありがとう。 いただきます」
レモンは問題なかったみたいでホッとした。私はもちろん妊娠した経験ないし、周りで妊娠した人もいなかったから、妊婦さんって私からすると未知の領域。
「予定日までもうすぐですか?」
「えぇ、そうなんです」
「男の子ですか? 女の子ですか?」
女性はきょとんとした顔をすると、おかしそうに笑った。
「あはは、生まれるまで神様以外は分からないわ」
「そ、そうですよね! 変なこと聞いてすみません」
妊娠半年くらいには性別って分かるのが一般的だと思ってたけど、この世界では分からないのか。ひとつ勉強になった。
「性別は気にしていないの。 元気な子が生まれてきてくれたらそれだけで嬉しいわ」
女性は穏やかに頬を上げ、愛おしそうに丸っこいお腹を撫でた。
ブルーがかったグレーの髪色に深いブルー_深い海の色のような瞳が美しい。同性でも見惚れてしまうほど美しい顔立ち。そして彼女もまた色が白かった。日に焼けないようにするためか、長袖でロングスカートのワンピースに大きなツバが付いている帽子をかぶっている。海外の女優さんのように美しい。少し儚いような守ってあげたくなるような雰囲気の女性だ。
「さっきは手を貸してくれて本当にありがとう。 私はセレーナよ」
「私は美桜です」
「この国には旅行で?」
「そうです。 昨日着いたばかりなんです」
「そうなのね。 ようこそヴェリアスへ」
「セレーナさんはこの国の方なんですか?」
「えぇ、そうよ。 この国を愛してるわ」
凄い。自分の住んでる国に対してこうも素直に「愛してる」っていう人は初めて。私も生まれ育った国の事は好きだけど、愛してるかと聞かれれば「はい、愛してます」とはパッとは言えないかもしれない。
「この国は貿易が盛んだから珍しいものもたくさんあるし、食べ物もおいしい物が多いのよ。 私は果物が甘くてとっても好き」
「さっき魚介のスープ食べたんですけど、とっても美味しかったです。 果物もおすすめなら食べてみますね」
「えぇ、是非!」
セレーナさんはこの国で気を付けた方がいいことをいろいろ教えてくれた。一つはラフィさんも言っていた通り人通りが少ない路地は治安があまりよくないから近づかないこと。夜遅い時間に飲み屋がかたまってる場所も酔っ払いが喧嘩していたりするからやめておいた方がいいと言われた。そして貴族には気を付けること。
「貴族のどういうところに気を付けた方がいいんですか?」
「この国の貴族は貴族至上主義だと思ってる人が多いの。 平民が貴族に声をかけようものなら酷い場合切られてしまうわ」
「え!?」
だからラフィさんと一緒にいた人私の事怪訝そうな顔で見てたわけ!?
「怖い事を言ってごめんなさい。 普通に生活していたら貴族と関わることもないから、大丈夫よ」
「セレーナさんも貴族ですよね?」
「そう見える?」
「見えます」
「ありがとう。 でも今は違うわ」
今は違うってことは昔はそうだった?没落貴族ってこと?そういうことをズバッと聞けるわけもなく「そうなんですね」と無難な返事をしておいた。




