92.ふわふわします。
海に囲まれた国_ヴェリアスに無事に到着した。船で一泊したけど、大型船だったからかものすごく揺れて気分が悪くなるってことはなかった。地面に降りるとまだ少しふわふわ揺れているような感覚がした。不思議な感覚。
”「大丈夫か?」”
変な感覚が面白くて立ち止まっていると、凪が心配して声をかけてくれた。
”「大丈夫だよ。 凪も平気?」”
”「あぁ、問題ない」”
”「船気持ちよかったね」”
”「あぁ」”
”「とりあえず宿探そうか」”
とりあえず2週間くらいは滞在できる宿を探そうと思う。暖かい国で観光しやすそうだけど、観光する時間がないのが残念だ。
「お嬢さん」
声をかけられて振り返ると船の上で声をかけてくれた男性だった。
「もし宿をお探しでしたら大通り沿いの宿がおすすめですよ」
「そうなんですか? 教えていただいてありがとうございます」
「年中暖かい国で観光客が多いので大通りから離れた場所にも宿はたくさんあるんですが、女性一人でしたら治安がいいとは言えないので、できれば人通りの多い場所の宿がいいかと思います」
「治安が悪い場所もあるんですね。 気を付けます」
「申し遅れました。 私はラフィと申します。 お名前をお伺いしても?」
「あ、失礼しました。 ミオと申します」
「ミオさん……いい名前ですね」
「ありがとうございます」
凪がスカートをくわえて引っ張った。こんなに急かされるのは初めてだ。凪が用心しろというからか、ラフィさんの笑顔を見ているとうさん臭く感じてしまう。相手のことをよく知りもしないで失礼とは思うけど、一度そう思うとなかなかぬぐえない。そしてラフィさんのすぐ後ろにいる男性はやっぱり目つきが悪くて、少し怖い。
「失礼します」と会釈して気持ち急ぎ足で大通りに向かった。
”「ラフィさんってたぶん貴族だよね?」”
”「あの身なりは恐らくそうだろうな」”
ラフィさんのお洋服の生地は見るからにしっかりしていて高級感が漂っていた。ちょっとした装飾品はどれも恐らく宝石だった。靴もピカピカで傷一つ見当たらなかった。髪の毛もサラサラで、風になびいたときにいい香りがしたから香油を使ってるんだと思う。いい香りのする香油はどれもいい値段の物が多く、一般の人は気軽には買えないものばかりだ。
この世界には貴族がいるっていうのは知ってたけど、貴族を見たのも話したのも初めてだ。私の中の貴族はもっと偉そうで、平民のことなんか見下すようなイメージだったから少し驚いた。ただ話しかけてきただけじゃなくて、笑顔でしかも敬語だった。そのうえおすすめの宿がある場所まで教えてくれるなんて親切な人。だけど凪はラフィさんを見ながら用心しろって言った。貴族だからだろうか?
大通りの宿はいい宿が多いんだろうけど、お値段もいいお値段なんだろうな……とは思うけど、おすすめされたしとりあえず何軒か回ってみよう。観光地のメイン通りの宿が開いてるかもわからないけど……。




