90.自分のことも大切にしましょう。
途中小さな村に立ち寄りながら、次の国へと向かった。村がない時には野外に家を出し夜を越した。
「見て! ちゃんと的に当たるようになった!」
少しでも時間があれば弓の練習をした。初心者なので、一番意識したのは姿勢。練習していくうちに、矢が思ってるように飛ばない時は姿勢が崩れていると気付いたから。それが確信に変わったのはそばで練習を見守ってくれていた凪が教えてくれたからだ。
「そろそろ獲物に向かって矢を射る練習をしてみてもいいかもしれないな」
凪の言葉に気が重くなる。動いているものを射止められないと意味がないのは分かってるけど、生き物を殺さなければいけないと思うと気が進まない。その気が進まないことを凪がやってくれているんだから感謝しかない。
「せめて苦しめずに仕留められるようになりたい」
「厳しいことを言うが、最初は無理だろうな」
「……そうだよね」
急所は分かっていても動いている的を狙うとなると確実に急所に当てられる確率はかなり低いと思う。動いてなくたってすごく難しい。それに急所に当てられたとしてもしっかり矢が刺さらないと苦しめてしまう。でもきっとこれは生き物を狩って経験を積まなければ上達しないだろう。ホーリーアローなら相手を傷つけることはないけど、純粋に魔獣と戦うって場面では何の役にも立たない。というか、まだ神聖力を具現化したこともないんだけどさ。弓の扱いにもっと慣れたらイメージしやすくなってできるようになるかな?
「凪は最初の狩りのこと覚えてる?」
「覚えている。 狩りの仕方は両親や兄弟に教わった。 生きていくために狩りをする。 それが当たり前だった。 生き残るために戦い勝つこと、それも当たり前だった。 だから生きるために殺めることに対して罪悪感を覚えたことはない。 これは野生の本能だ。 美桜と俺とでは考え方や生きてきた環境が違うが、これだけは言える。 自分の命を優先しろ。 そして相手が命を懸けて挑んできたら、甘い考えは捨てることだ」
「甘い考え?」
「相手を生かそうとせず、命をとるつもりで挑めということだ。 覚悟を決めた者は強い」
手に持つ弓に力が入る。
この世界でも普通に街で暮らしていれば日本での生活とあまり変わらないかもしれないけど、冒険は常に死と隣り合わせ。凪がいくら強くても絶対じゃないし、私が瘴気を浄化できるからと言って瘴気の元に無事に辿り着けるかどうかも絶対じゃない。
私ももっと覚悟を持たないといけない。生活の為、生きていく為に魔獣を……襲ってくるものを倒す。その為に武器の訓練をしないといけない。
「美桜、命は重いものだ。 たとえ生きるためとはいえ、奪うことに抵抗があるのはあたりまえだ。 お前のその気持ちはおかしくないんだ。 命を奪うことに慣れる必要はない。 命を奪うために戦うのではなく、自分を守るために戦ってほしい」
かがんで両手で凪の頬を包み込むように触れた。
「自分を守るために戦う。 そしてもっと強くなれるなら、私にできるなら……凪のことも大切な人も守れるようになりたい」
「お前は十分周りの者を守ってる。 だから自分のことをもっと大切にしてほしい。 いいな?」
凪の首に腕を回し抱きしめた。
「凪もよ。 私のことを守ってくれるのは嬉しいけど、自分のことも大切にして。 浄化が終わったらもっと気楽にこの世界を楽しむんだからね!」
「あぁ、約束だ」
浄化を終わらせたらこの世界を楽しむんだから、俯いてなんていられない。婚活だってしないといけないんだから!この世界での役割と目的を忘れないで頑張ろう。改めてそう強く思えた。




