87.素敵な家族です。
本格的な冬が訪れる前にこの国を出ようという話しになった。次に行くのは年中温かな気候が続く港町。
「ずっとお世話になってしまって……本当にありがとうございました」
「何言ってんの! ミオがいてくれて楽しかったよ。 もう妹みたいなもんだ!」
「あはは、ありがとうございます。 そう言ってもらえて嬉しいです!」
「ミオ、世話になったのはワシらの方だ。 感謝の印に受け取ってほしい」
「これ……」
「しっくりくるものが見つからなかったと言っていただろう? 良かったら使ってくれ」
受け取った短剣の柄を握ると、驚くほど違和感なく昔から使ってるような感覚がした。カバーを外して短剣の刃を見た。息をのむほど美しくて、まるでアクセサリーを見ているときのような高揚感を感じた。
「凄く有難いんですけど、こんなに良い物……私が持ってていいんでしょうか……使いこなせるかどうか……」
「ミオ、お前さんはいい冒険者になる」
「え?」
「武器を一方的に使おうとせず、相棒としてちゃんと使ってやれるのか向き合い、考え、共に戦う意志がある。 そういう奴は成長する。 自分を信じろ。 今は重く感じるかもしれないが、いつの日か分かり合い、助けになる」
短剣をギュッと握りしめた。涙がこみ上げてくる。閉じた唇が震えて力が入る。
「ありがとう、ございます。 あの……ぎゅってしても、いいですか?」
「あぁ、もちろんだ」
ドルフさんの柔らかい笑顔を見たら涙腺が崩壊してしまい、泣きながら抱き着いた。無口でぶっきらぼうに見えるのに、実はあったかくて愛情あふれる人だ。散々泣いて顔を上げると、アビーさんに思いっきり笑われてしまった。そしてまさかのロザンナも泣いていた。それを見て私は笑ってしまった。
頂いた短剣をさっそくベルトに差した。
「あたしたちからの感謝の印も受け取ってよね!」
まだ瞳を濡らしているロザンナに笑顔で細長い箱を渡された。開けるとシルバーの華奢なチェーンのネックレスが入っていた。トップは馬の蹄のような形で透明な石が付いてた。
「可愛い!! ありがとうございます!!」
「ネックレスをデザインして作ってくれたのはお姉ちゃん。 そして付与魔法を施したのは私」
そう言われて止まってた涙がまた溢れた。嬉し涙が止まらない。自分がこんなに涙もろい人間だったとは……と正直驚いている。
「もう! 泣きすぎよ! ほら、貸して! 着けてあげる」
両手で髪の毛を上げ首元を見せ少しかがんだ。後ろに回ったロザンナが首元にネックレスをかけてくれた。首元にきらりと光る石に触れた。嬉しくて緩んだ頬が自然と上がる。
「アビーさん、ロザンナありがとう。 大切にする」
「ミオ、自分のなりたい髪色と瞳の色を想像して」
「え? どういうこと?」
「いいから!」
ロザンナに言われた通り憧れている髪色と瞳の色を想像した。
「想像したけど……」
「見てみ!」
そう言ってアビーさんは手鏡を持って私の顔を映してくれた。
鏡に映る自分の瞳を見て驚いた。想像していた通りの碧眼……綺麗な青色になっていた。
「ウィッグも外してみて」
「うん…って! え!? なんで!?」
「何で知ってるのかって? 気づかないわけないじゃない。 少し違和感あったし、あの日ボロボロになった時ちょっとずれてておかしなことになってたよ。 それどころじゃなくて気づいてないみたいだったけどね」
嘘…ちゃんと隠せてたと思ってたのに……。アビーさんとドルフさんに目を向けると、二人は呆れたように笑っていた。観念してウィッグを外してバッグにしまった。憧れのブロンドヘアに息をのんだ。
「すご……」
純日本人なので金髪碧眼に憧れてたけど、ここでその憧れのスタイルになれるんて……感動!海外ドラマのような綺麗な女優さんとはかけ離れた姿だけどね。
「ネックレスを外すか、心の中で”解除”って唱えると元の姿に戻るよ。 髪色と瞳の色は想像すればいつでも違う色に変えることができるから」
「本当にありがとう!! 凄く助かる」
「姉妹で作った初めての物をミオに渡せて嬉しい」
「あたしがアクセサリーを作って、そのアクセサリーにロザンナが付与魔法をかける。 姉妹で新しく始めることにしたんだ」
「難しくてまだうまく付与できていないんだけど、ペアのアクセサリーを持てばいつでもお互いの位置が分かるようにしたいんだ。 それを親子で持ってたら安心して子供を外に遊びに行かせられるでしょう? って、今回の姉妹喧嘩のおかげで思いついたんだけどね」
姉妹で笑い合う二人の手を取り握りしめた。
「二人で初めて作り上げたネックレスを身に着けることができて本当に嬉しい。 二人の未来を応援してます」
「私もミオの冒険を応援してる」
「何かあったらいつでも戻っといで」
「何もなくても自分の家だと思っていつでも帰ってくるといい」
「はい! 皆さん、本当にお世話になりました。 どうか、また会う日までお元気で」
深く頭を下げ、私は凪と一緒に家を出た。




