85.幸せを追加します。
浄化後しばらくは魔獣が大人しくなるから、その間に急いで家に帰った。もちろんバルを連れて。アビーさんだけじゃなく、ロザンナも涙を流した。怪我をしているロザンナは凪の背中に乗り、私とアビーさんはロイを追いかけるように足を進めた。
家に着くなりドルフさんに思いっきり怒られたが、私たちのボロボロな姿を見てそれ以上に泣かれてしまった。そんなドルフさんの姿に慌てるロザンナとアビーさん。普段きっと子供たちの前で泣くことはないんだろうと思った。とにかく無事に帰ってきてくれてよかったと声を震わせていた。二人が子供のようにドルフさんに抱き着くもんだから、私まで泣きながらドルフさんに抱き着いてしまった。ドルフさんの大きく硬い手が肩に触れると涙は更にドバっと流れた。
その日の夜、ベッドの中で包まっていると凪が飛び乗り私のすぐそばに寝転んだ。
「そんなに見ないでよ。 酷い顔してるんだから」
泣きすぎて目元はパンパンで、涙と鼻水のせいか鼻まわりはかっさかさ。
「何を言っているんだ。 いい顔をしている」
「そう? じゃあもう気にしない」
凪の顔を見ていたら頬が緩んだ。それと同じくらい気持ちも緩んでる。
「ロザンナが瘴気の元になってなかったらたぶん……危なかったよね?」
「確実に生きてるロザンナには会えなかっただろう」
「…………」
ロザンナはあれほどの瘴気に覆われていなかったら、魔獣に襲われていただろう。瘴気のおかげで魔獣はロザンナに近づくことができなかった。今回はいくつかの偶然が重なって上手くいっただけ。ロザンナは瘴気のおかげで魔獣に襲われず、アビーさんがいてくれたおかげで瘴気に飲み込まれそうになっていたロザンナは飲み込まれずに済み、浄化ができた。そして何よりずば抜けた嗅覚をもつロイがいて、魔獣を蹴散らせるだけの力を持った凪がいた。今回も周りの人にたくさん助けられた。
「後ろ向きに考えるなよ。 今回も美桜はよくやった。 あの状況でどうすれば解決できるか最善の道を選んだんだ。 だから今回も自分で自分を褒めてやることを忘れるな。 いいな?」
「うん、ありがとう」
凪のふわっとした手をむぎゅッと掴んだ。ふわふわと肉球の感触に指先から癒されていく。いつ触っても素晴らしい触り心地。
「瘴気は負の感情を好む。 聖女も人間、心がある。 負の感情を抱えていれば瘴気に飲み込まれる恐れがある」
「そうだよね…分かってるけど、負の感情を持たないようにするとか、切り離すとか難しすぎて、実際どうしたらいいんだろうって……」
「負の感情よりも大きな幸せな気持ちと思い出を忘れるな。 それが胸にある限り、大丈夫だ」
「じゃあ今からもう一つ幸せな気持ちを追加する!」
毛布を持ち上げ半ば強引に凪を中に入れて抱き着いた。凪は文句を言うことなくすんなり受け入れてくれて、私はそんな凪にしっかり甘えることにした。




