82.抑えられない時もあります。
アビーさんはバチン!っと両手で頬をたたくと力強く顔を上げた。力強い眼差しは私の気も引き締めた。
「早くロザンナを見つけよう。 バルも連れて帰ってやりたい」
「そうですね、急ぎましょう」
私たちは凪の背に乗り、洞窟の奥へと急いだ。進むほど瘴気は濃くなり、身体中にねっとりとまとわりついてくる。感覚だけじゃなく、煙のような黒い靄が見える。その煙も最初は灰色っぽかったが、今はもう黒に近い。この黒い靄はどうやら私と凪にしか見えていないようだ。
「ところでどうしてロザンナと喧嘩になったんですか?」
「……武器を作ろうとしてたから、いい加減にしろって言ったらロザンナいつも以上に怒っちゃってさ……」
いつもはどうにか収めている感情だけど、今日はきっと聞き流せなかったんだ。
「どうして武器作りに反対するんですか? 才能がないからですか?」
「違う! いや、違くはないんだけど、そうじゃないんだけどさ……」
「……ロザンナはアビーさんとドルフさんが才能のない自分の事を恥ずかしいと思ってるのかもしれないって言ってました」
「馬鹿な事言わないで!! そんな風に思ったことなんて一度だってないよ! 私だけじゃない! 父さんだってそうさ!!」
私の言葉に凄い剣幕になるアビーさん。アビーさんの言葉に嘘は感じられなかった。
ロザンナもアビーさんも家族のことを想ってる。それなのにすれ違ってみんな傷ついて……ちゃんと話し合えてればみんな苦しむ必要なかった。だけど、想い合ってるからこそ相手のことを考えすぎて言えなくなってしまうこともある。そして大切な人から嫌われてしまうかもと思うと、言葉を忘れてしまったかのように口から何も出てこなくなってしまう。
”「ロザンナだ!!」”
”「え!? どこ!?」”
ロイの視線の先には真っ黒な大きな靄がある。その靄のせいで私にはロザンナが見えない。
”「黒い靄の中にロザンナがいるようだ」”
”「ッ__瘴気の元にロザンナがいるってこと!?」”
”「そのようだ」”
凪の言葉に血の気が引いていく。
「ロザンナ!!! あたしだよ!!! 家に帰ろう!!!」
「危ない!!」
アビーの腕を慌てて掴んで後ろに引っ張った。飛びかかってきた魔獣を凪が倒した。
瘴気が濃すぎて上手く近づけない。近づこうとすると押し返されるような感覚で足が重く進まない。
「ロザンナ!!!!!」
「ああぁあぁぁああぁあああぁぁぁぁぁぁああぁあッ!!!!!!」
ロザンナの苦しそうな唸るような声が洞窟中に響いた。その声は泣いているような、怒っているような、悲しんでいるような…いろんな感情が入り混じっているようだった。




