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聖女の冒険  作者: 雨宮 未亜
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08.相棒です。

 オクタヴィアンさんは手をあげると、顔のそばで指をクルッと捻った。


 _パチンッ!


 おー凄い。音鳴らすのって結構難しいのに。誰しも一度は憧れて鳴らそうとした事があるんじゃないかな。私は何度か練習したけど全くできなくて諦めた。



「紹介するよ」


「え……うわっ!?」



 大きな犬が目の前にいてビックリした。馬より大きいんじゃないの!?え!?こんなおっきいのに犬なわけない!?


 オクタヴィアンさんの指に注目し過ぎてまったく気がつかなかった。



「この子は真神まかみ。 日本狼が聖獣となりこの姿になったんだ。 今は僕の部下……と言えばいいのかな」


「え!? オオカミ!? しかも部下!?」



 狼って絶滅したんじゃなかった?違ったっけ?



「犬と同じくらいのサイズかと思ってたけど、本物の狼ってこんなにおっきいんですね……」



 椅子に座ったまま身を乗り出した。ちょっと怖くてこれ以上近付く勇気がない。


 それにしても綺麗な毛並み。薄らグレーがかってるけどキラキラしてるからシルバーなのかな?首元からお腹にかけて生えているチャコールグレーの毛がカッコよさを際立たせている。

 瞳も真っ黒じゃなくて、アクセントになっているチャコールグレーの毛並みと同じ色をしている。



「本物の日本狼は大型犬くらいの大きさだよ。 この子は日本狼が神格化しんかくかしてこの大きさになったんだ」


「神格化ってなんですか?」


「神とまではいかないけれど、神の領域に達することだよ。 この真神はね、古来の日本で聖獣として崇められてきたんだ」


「はぁ……」



 そんな日本で大事にされてる聖獣がどうしてオクタヴィアンのところに?そしてなんでわざわざ紹介してくれたの?


 オクタヴィアンさんの部下って……いまいち信じられない。



「真神はけがれを受けづらく、人間の性質を敏感に感じ取る。 その者が悪なのか善なのか、とても敏感なんだ。 そしてこの子は風神の加護を受けているから、風の魔法を扱える。 心強い程の攻撃力だよ」


「あの……オクタヴィアンさんの言いたい事がよく分からないんですけど……」



 何故今、日本の聖獣の話を?



「言っただろう? 美桜は命を奪う攻撃魔法が使えないって」


「そう言われましたけど……」


「この真神を従魔として連れて行くといい。 美桜の助けになるだろう」



 確かにこの聖獣がついてきてくれたらもの凄く頼りになりそう。

 見るからに強そうだし、オクタヴィアンさんが勧めるって事は、それは見掛け倒しじゃないんだろう。


 でも……



「お断りします」



 オクタヴィアンさんにはポカンとした顔をされ、聖獣も信じられないというような目で見てくる。



「理由を聞いても?」


「とぉーーーっても有難いお話なんですけど、その聖獣……真神さん?はオクタヴィアンさんの部下なんですよね?」


「うん」


「私下手したら1000年以上生きるわけで、聖女の仕事は基本死ぬまで終わらないみたいだし、そんなに長い間真神さんを縛るなんてできません。 上司の理不尽な指示で嫌な思いをする辛さを知ってるから余計に「お願いします」とは言えないです」



 崇められていたような聖獣がオクタヴィアンさんの下につくって、それって上司であるオクタヴィアンさんのことを尊敬しているからなんだと思う。それなのに上司の命令だからって、私みたいな人に従うなんて屈辱でしかないでしょ。私は神様でもなんでもないんだから。


 仕事で数え切れないほど上司の理不尽さに振り回されてきた。甘ちゃんかもしれないけど、そんな私は今回の提案をすんなりと受け入れられなかった。

 守りの魔法があればなんとかなるでしょうし……。



「そっか……それじゃあ真神が進んで美桜の従魔になりたいのなら問題ないという事だね?」


「それはそうですけど……真神さんの素直な気持ちが知りたいので、威圧的な態度は取らないでくださいよ! それから、どんな答えだろうと真神さんを怒らないで下さいね」


「分かった。 約束する」



 真神さんは静かに私との距離を縮めてきた。


 思わず背筋が伸びる。スカートをギュッと握る掌が汗ばんでる。


 真神さんはお尻をつけて座った。床に座ってる筈なのに、椅子に座ってる私よりも目線が高い。



「初めまして、美桜」


「は、初めまして」



 ま、まさか真神さんが言葉を話すとは思ってなくてびっくりした。てっきりオクタヴィアンさんと意思疎通なようなことをして、オクタヴィアンさん経由で気持ちを伝えてくれるのかと思ってた。



「お慕いしているオクタヴィアン様からの御用命とはいえ、実を申せば多少なりとも不服ではあった。 だが実際会ってその不服はなくなった」


「えっと…それって……」


「俺自身も美桜の従魔になることを望んでいるということだ」


「え、あ……っと、その……」



 気持ちを聞いておいてどうしていいのか分からず、オクタヴィアンさんの顔を何度も見た。



「真神は美桜のそばに居る事を望んでいる。 美桜もそれを受け入れるのなら、真神に名を与えてあげてくれ」


「え? 名前は真神さんじゃないの?」


「真神は個体名であって、名前ではないんだよ。 名を授けることで主従契約が結ばれる。 って、そんな難しい顔をしないで。 2人の絆が強くなると思ってくれればいい」



 誰かに名前を付けるなんて初めての事で益々緊張する。



「じゃ、じゃあ……あなたの名前は今日からなぎ



 名前を告げると、凪の左目が一瞬光った。



「さっきの光は無事に契約が結ばれた証拠だよ」


「そうなんですね……」


「凪か、良い名だ。 ありがとう」



 そう言って凪の涼しげな目が細められた。


 少し躊躇ったけど、右手で凪の頬っぺたに触れた。見ただけで綺麗な毛並みだと思ったけど、想像以上の触り心地の良さに癖になりそうだ。



「凪には風が止んで海が穏やかになるっていう意味があるの。 きっとこれから凪は風の力を使って私を守ってくれる。 そんな凪が力を使わないときには、穏やかな気持ちでいられますようにって願って付けた名前。 これから宜しくね」



 凪が頭を下げ、私の右手に頬擦りする様な素振りをみせたので安心した。






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