75.妄想が広がります。
ジェドさんが教えてくれたおかげである程度見てくれは良くなったと思うけど、上達したのかと言われたら全然自信ない。でも気を付けないといけないポイントは分かった気がする。それにジェドさんが教えてくれてる内容を凪も聞きながら覚えたようで、できていないところがあれば念話でアドバイスしてくれる。
「今日はここまでにしたほうがいい。 初めてと言っていたし、いきなり無理をすると辛くて続かない」
確かに体が辛い。矢も少しは飛ぶようになったけど、やっぱりまだ定まらなくてこのまま続けても心が折れるだけかもしれない。ただ矢を放つだけでこんなに大変なんだから、神聖力をまとえるようになるのは一体いつになることやら……。
「ジェドさん、教えてくださってありがとうございました」
頭を深く下げると「気にしなくていい。 微力ながら力になれたのなら嬉しい」と言われた。
「微力じゃないです! ものすごく助かりました! ジェドさんは剣と弓を使うんですか?」
今更ながら疑問に思った。見た感じ武器は腰に下げてる剣しかない。剣をメインで使ってるのに弓をあれだけ使えてるなら凄い。何度かお手本を見せてもらったけど、矢はほとんど同じ場所に刺さった。
「武器は一通り使えるが、剣が一番得意な武器だ。 君は弓だけ?」
「今のところ弓だけです。 といっても先ほど見ていただいた通り、その弓もまともにまだ扱えないんですけど……」
自分で言ってて情けなくて恥ずかしい。
「接近戦はどうしてるんだ」
「まだまともに戦闘したことないんです。 いつも凪が戦ってくれるので……」
「そうか、確かに彼からは強者の気配がする。 もし機会があれば一度手合わせ願いたい」
ジェドさんがそんなことを言うなんて意外だった。凪はそんな気全くないのか、プイッと顔を背けた。
「私はそろそろ街に戻ろうと思うんですが、ジェドさんも戻られますか?」
「いや、俺はこのままこの国を出る」
「え!? そうなんですか!? すみません!!」
そうとは知らず厚かましく弓の使い方教えてもらうなんて……悪いことしてしまった。
「謝る必要はない。 俺がそうしたいと思ったから声をかけたんだ」
「……ありがとうございます」
カッコイイ上に良い人すぎる。いや、顔はまともに見てないからかっこいいか分かんないけど、存在がカッコイイからね。
バッグの中から怪我や病気、状態異常に効く中級ポーションを出した。
「よかったらこれもらってください」
「いや、そんなつもりで教えたわけじゃないからもらえない」
「もらって下さい!! ジェドさんはそんなつもりなかったかもしれないですけど、私からしたらとっても助かったんです。 思ってた以上に弓が使えなくて絶望しかけてた時にジェドさんのおかげで救われました。 本当にありがとうございました」
笑ってポーションを差し出すと「ありがとう」と言ってジェドさんは受け取ってくれた。ジェドさんは背も高く体格もいい方だと思う。そしてポーションをとるときの手は逞しいが指はすらっとしていて少し色気のある手だと思った。ダメだ……顔が見えないとこうもいい方向に妄想が広がっていくのか……顔が見たいとも言えないし……どんどん私の好きな顔に出来上がっていく。ここまで勝手に好みの顔に出来上がってしまうと顔を見るのが怖いからもう見ない方がいい気がしてきた。
街から離れる様に背を向けたジェドさんの後姿を見送っていると、急にジェドさんが振り返った。
「君は人族なのか?」
「はい! そうです!!」
「そうか、変わってるな」
「どうい__」
ちゃんと聞こえてなかったのか、言葉の途中で「じゃあ」と言って行ってしまった。
え? どういうこと!? 変わってるとは……いったい? 最期の言葉の意味も気になるし、顔も気になるし……ジェドさんに対してのもやもやが増えてしまった。またいつか会えるだろうか。もしも会えたらどういう意味だったのか聞いてみたい。




