61.謝らないでください。
アビーさんは眉を吊り上げ誰が見ても怒ってるって顔をしている。それに反してロザンナは大きな声を出しながらも怒っているというより今にも泣いてしまいそうな、子供のような顔をしている。
「いい加減にしろ!!!!」
アビーさんが口を開きかけた時、ドルフさんの大きな声が響いた。怒鳴ってるわけではなく、子供を冷静に叱りつけるような低く有無を言わせないような声。
「ロザンナ、客人をいつまで店に立たせておくつもりだ」
「……ごめん。 部屋に案内するね」
「うん……ありがとう」
口角を上げドルフさんとアビーさんに会釈した。笑顔が少しひきつってたかもしれない。ロザンナもアビーさんも納得してないような顔をしていたけど、喧嘩を続けなかった。店の奥にある通路に出ると直ぐに二階に上がる階段があり、ロザンナの後ろについてその階段を上った。話しかけれるような雰囲気じゃなくて、静かに歩いた。案内された部屋はシンプルながらも家具は細部まで拘りを感じる。そして不思議と温かみも感じる。
「この部屋好きに使ってくれていいから」
「ありがとう。 ロザンナ……あの…大丈夫……?」
振り返って見せたロザンナの顔は泣きそうなのに無理やり笑顔を作っているような顔だった。知り合って日は浅いけど、ロザンナの事はもう友達だと思ってる。友達がそんな顔をしていたら声をかけずにはいられなかった。余計なお世話かもしれないけど……。
「恥ずかしいとこ見られちゃった……気まずかったよね。 本当ごめん」
「もう謝らないでよ。 何も悪い事なんてされてないんだから」
「……うちは王族御用達の鍛冶屋で、お父さんは国一番の鍛冶職人って言われてる。 お姉ちゃんはそんな父に負けないくらい鍛冶の才能を持ってる。 亡くなった母は武器を作る才能はなかったけど、家具を作らせれば右に出る人はいないって言われてた」
「じゃあこの部屋の家具もお母さんが?」
「そう。 この家の中の家具の殆どが母が作ったもの。 壊れてしまわないように父が定期的に修理してる。 ずっと大事にしてて、父の母への愛情を今でも感じる」
「素敵なお父さんだね」
「ね! 鍛冶職人としても父親としても男としても、いろんな面を尊敬してる。 父も母も姉も凄い人だけど、私は鍛冶職人にも家具職人にもなれない何の才能もないドワーフ」
とうとうロザンナの瞳から大粒の涙が流れ落ちた。彼女は「はは」と笑いながら手の甲で雑に拭った。自分から事情を聞いたようなものなのに、気の利いた言葉も浮かばず「とりあえず座ろう」なんて言葉しか出てこなかった。




