60.空気と同化します。
「お姉ちゃんがごめんね」
「ううん、ロザンナの事すごく心配してたんだよ。 良いお姉さんだね」
私の家族とは大違い……一瞬そう思ったけど、大学費用と大学生の間は一人暮らしの家賃出してもらってた事を考えれば、そういう面ではすごく良い親だったのかもしれないとは思う。社会人になって全部自分で稼がないといけなくなっ時にもっと生活する大変さを知った。愛情はもらえなかったけど、お金はもらえた。それが良いのか悪いのかは分からないけど、恵まれていたとは少なからず思っている。それに、今は感謝してる。この世界に来てよかったと思うことはいろいろあるけど、その中の一つは日本にいた頃には気付けなかったけど、思い出の中にありがたい事だったと感じるものが増えたこと。
お店の奥から男性が姿を現した。その斜め後ろにはお姉さんがいる。逞しい体つきで、とても立派な髭を持つ男性は、私の中のドワーフのイメージそのものだった。その男性とお姉さんはどことなく似ていて、恐らくお父さんだろうと思った。
「娘を助けてくれたと聞いた。 感謝する」
頭を下げられ、慌ててしまった。
「いえ! ロイが私を呼びに来たんです。 ロイがいなければロザンナを助けられませんでしたので、ロイの事をたくさん褒めてあげてください」
「お父さん、お姉ちゃん、彼女は命の恩人のミオだよ」
「命の恩人だなんて大げさだよ!!」
「大げさじゃないよ!」
一番大変だったのは凪だったからなんだか申し訳ない気持ちになった。
「ミオ、改めて妹を助けてくれて本当にありがとう。 あたしは姉のアビー、よろしくね!」
「わしは父親のドルフだ」
「初めまして、美桜です」
頭を下げて挨拶をすると、ドルフさんから「気楽にしてくれ」と言われた。見た目は気難しそうで少し怖そうに見えるけど、話し方は落ち着いていて怖さは感じない。
「ミオまだ宿が決まってなくて、とりあえず家に泊まってもらおうと思ってるんだけどいいかな?」
「もちろんいいに決まってる! 好きなだけ泊まんなよ!」
「ありがとうございます。 しばらくの間お世話になります」
いきなりのことで忘れてたけど、手土産くらい買ってくるんだった。社会人がこんな初歩的なマナーを忘れるなんて……なんてこった。後で何か買いに行こう。
「それで? いつもなら怪我なんてするへましないのに、いったい何があったの?」
「……素材探しに夢中になってたらいつもより森の奥に入っちゃって、魔獣に追いかけられて逃げてる時足を踏み外して崖から落ちちゃったの」
「崖から!? 噓でしょ!? それって大怪我じゃないのさ!!」
「でも今はもう治ってるし、元気だから心配しないで」
「それに素材探しに夢中って何の素材探してたの!?」
「それは__」
「まさか鉱石じゃないだろうね!? いい加減にしなよ! 何度言えば__」
「なんでいつもそうやって声を荒げるの!? 私に才能がないから!? 才能がないのに頑張ってる妹が恥ずかしい!?」
和やかだった雰囲気がガラッと険悪な雰囲気へと変わった。アビーさんとドルフさんとは初めて会ったからどんな人かわからないし、ロザンナとアビーさんの間で何が起こっていているのかもわからない。それに、家族でもない私が口を出していいような雰囲気でもない。空気と同化するようにただ口を紡いだ。




