51.感動されました。
朝起きると身体が痛かった。
ソファーって寝る瞬間はいいけど、起きて後悔する。もう少し硬いソファーなら身体痛くならないのかな。
足元で寛いでいる凪の頭を撫でた。
「おはよ」
「おはよう」
「ロザンナとハニードッグは?」
「まだ眠っているようだ」
「そっか。 何か食べる?」
「ミルクが飲みたい」
「了解」
立ち上がって両腕を上げて背伸びした。一緒に欠伸も漏れた。
カーテンを開けると、太陽の日差しが差し込む。昨日の雨が嘘みたいに良い天気。でも地面はぬかるんでるかもしれないから、移動は気をつけよう。
凪にホットミルクを用意して、私は身支度を整えた。
「うわっ!」
化粧を終えてリビングに入るなり、足元にハニードッグがいて驚いた。
“「ロザンナが目を覚ましたの!」”
和室に行くと、ロザンナが布団の上で上半身を起こしていた。
顔色が悪い。
「おはよう」
声を掛けると身体を動かしたロザンナは顔を歪めた。
“「ロザンナ!!」”
ハニードッグが心配そうに駆け寄る。
「私は美桜。 大丈夫、変なことはしないから、傷の具合を診せてもらえないかな?」
私を警戒してる。
ハニードッグはずっと「心配しなくていいよ!」、「大丈夫だよ!」と言っているが、残念ながらロザンナには聞こえていないみたいだ。
「ちょっと待ってて!」
マジックバッグから再生ポーション(上)を取り出し、ロザンナのところへ戻った。
ロザンナにもよく見えるように、親指と人差し指で挟んで瓶を持った。
「全身切り傷だらけだし、足首も凄く腫れてるから昨日の内に使ってあげたかったんだけど、全身に使える量持ってなくて……飲んでくれないかな」
渡そうと手を伸ばすと、ロザンナは後ずさる。身体を震わせ、顔を左右に小さく振った。
どうしたものか……。
“「毒でも入っていると思っているんだろう。 試しに飲んで見せたらどうだ?」”
“「え!? 飲むの!?」”
確かにそれが一番良さそうな案ではある。けど、飲んだときのシモンさんのあの苦しそうな声が頭の中で蘇る。
“「怪我のない者が再生ポーションを飲んだところで痛みが走ることはない__」”
“「…………」”
語尾に「と思う」って小さくついたよね?しっかり聞こえたんですけど。
早く飲めと言わんばかりの目。
はい、はい!分かりましたよ!!
私はロザンナに少しでも安心してもらうように、一度ニコッと笑って見せた。その後意を決して再生ポーションを一口飲んだ。
ん?あれ?
覚悟してたけど、痛くもなんともない。
“「だから言っただろう」”
“「100%大丈夫とは言わなかったじゃん!」”
“「お前の記憶違いだろう」”
凪の新たな一面を見た。
“「なんだ、その目は」”
“「凪もそういう事言うんだなと思って」”
もう一度ロザンナに差し出した。すると瓶と私の顔を2、3度交互に見た。
「怪我してるから飲んだら身体が一瞬痛くなると思うけど、これは再生ポーションで毒じゃないから心配しないで」
躊躇いながらも瓶を受け取ってくれた。その躊躇いが嘘みたいにロザンナは一気に飲み干した。
ホッとするよりも先に驚いた。
「ゔっ、あああぁあぁぁあぁ__ッッ!!!!」
苦痛な叫び声に心臓が飛び跳ねる。
辛そうな声とは裏腹に、傷口がどんどん綺麗になっていく。
痛みが出ない再生ポーション誰か作ってくんないかな!?いつか自分も飲む日が来るかもしれないって思ったら今から怖い。出先での大怪我には気をつけよう。
「あり、がとうございます……」
「身体の具合はどう?」
「痛みがなくなりました」
「そっか、良かった」
“「ロザンナ元気になった! ミオ! ありがとう!!」”
ハニードッグはロザンナにじゃれつきながら何度もお礼を言った。
_グウゥゥ……。
今の音は……。
「ご、ごめんなさい……」
お腹を押さえて俯くロザンナ。耳が赤くなっている。
可愛い。
「好き嫌いない?」
「え、あ、はい」
「今ご飯作るね。 あ! ハニードッグは何食べるの?」
「ロイは甘いものならなんでも食べます」
「了解! ご飯出来上がるまでゆっくりしてて」
ご飯を作ろうとしてその前に…とコップに水を入れて渡した。ハニードッグ_ロイの水は丸いお碗に入れて床に置いてあげた。
ご飯を作るって言ってもパパッと作れるのはサンドウィッチぐらいなんだけどさ。
タマゴサンドとハムチーズサンドを作った。ロイは甘いものなら何でもいいって言ってたので、元のお家から持ち出した苺に練乳をかけた。元のお家にあった食材って、勝手に補充されるようにならないかなー……とか甘ったれた事を考えたりしてる。
ダメ元でオクタヴィアンさんに言ってみよう。無遠慮すぎるかな……。
そんな事を考えながら食事をテーブルに並べた。
“「凪もサンドウィッチ食べる?」”
“「俺はいい」”
凪はそう言うと顔を背けた。また寝るみたい。
「こっちで一緒に食べよう」
ロザンナが椅子に座ると、その足元にロイが座った。ロイの足元に練乳苺を入れた器を置いた。
「いただきます」
手を合わせていると、ロザンナに不思議そうな顔をされた。
「いただきます……って何ですか?」
「食事の前のいただきますっていうのはね、食材の為に働いてくれた人、それから命に感謝の意味を込めて使う言葉だよ」
「へー……初めて聞きました」
驚いた顔をしながら、ロザンナも手を合わせて「いただきます」と言った。
素直な子なんだなと思った。
「うわぁ! ふわふわ! 美味しい!」
「口に合って良かった」
パンで挟んだだけ料理だからあまり感動されても恥ずかしいんだけど……。
「初めて食べました!」
「ドワーフの国はパン食べないの?」
「え!? これパンなんですか!? こんなに柔らかいのに!? 信じられない!」
そういえば食パンみたいに柔らかいパン売ってなかったな。基本フランスパンみたいな硬さで、柔らかいと言ってもフランスパンが少し食べやすくなったかなぁ?程度の柔らかさだった気がする。
食文化は元々いた世界の方が進んでたのかもしれない。いや、お風呂とかトイレの事を考えると、食文化に限らず、か。
「ゴホッ__」
慌てて食べるから!
むせるロザンナのコップに水を注ぐと、ロザンナは胸を叩きながら喉に詰まったパンを水で流し込んだ。
“「この食べ物も美味しいよ!」”
「え!? 苺知らないの!?」
ロイの言葉に思わず突っ込んだ。
“「これ苺って言うの? 初めて見たよ」”
「初めて!? あーマジかぁ……」
やっちまった。
“「凄く美味しいよ! この上にかかってる白くて甘いのも!」”
練乳もこっちでは馴染みがないって事?朝から色々やらかした。まぁ、喜んでくれてるし……ね。
「美味しいならよかったよ」
「あ、あの……」
「ん?」
「今のって…ロイと…話したんですか?」
「え? あ、うん」
「す、凄〜い!! いいな……私もいつか話せたらな……」
眉尻を下げながら微笑むロザンナはロイの頭を優しく撫でた。
みんなが同じスキルを持ってるわけないし、生き物と言葉を交わすスキルはとても珍しいみたいだ。従魔を連れている人はそれなりにいても、話せる人とまだ出会っていない。
「ロイがここまで助けを求めにきたんだよ。 ロザンナを助けてって。 大好きなロザンナのそばを離れようとしなかったよ」
「ロイが……あ! 私、名前っ、ごめんなさい! 自己紹介もしなくて!! ロザンナです!!」
「そう言えば名前聞いてなかった! でもロイが紹介してくれてたから、気にしないで。 それより私もパートナーを紹介してなかったね。 凪っていうの。 愛想悪く見えるけど、良い子だから宜しくね」
凪に尻尾で足を殴られた。殴られたというより感覚的には撫でられた、だけど。




