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聖女の冒険  作者: 雨宮 未亜
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05.初耳です。

 屋根に十字架をのせた建物を見つけ、駆け足で向かった。


 元々白だったであろう壁は薄っすら汚れ、所々ひび割れている。そして思っていたよりもこじんまりとしている。教会なんて行ったことないけど、結婚式の時に使われるような建物を勝手に想像していた。


 傷の目立つ木製のドアの取手を掴み、焦る気持ちを抑えながら静かに開けた。


 中に足を踏み入れ息を飲んだ。


 外の光を通したステンドグラスがキラキラと光り、教会の中を照らしている。派手さはないし、お世辞にも綺麗とは言えないけど、光を浴びる像は美しかった。


 像と言えばマリア像やダビデ像しか思い浮かばない私は、目の前の像がなんなのか分からない。そもそも神様自体も日本とこの世界では全く違うかもしれないから、元々知らないのかも知れない。


 不思議な像。猫の耳の様なものを頭に付けているのに可愛い雰囲気は全くない。何故なら、胸や腹筋、腕や脚には見事なまでの筋肉がついており、腰に布を巻いただけの姿で大きな剣を地面に突き刺す様に立っているからだ。


 教会の中には誰もいなかったけど、私はなんとなく一番後ろの長椅子の隅っこに腰掛けた。


 お祈りなんてした事ない。でもきっとこうするんだろうと思い、胸の前で手を組み、目を瞑り、オクタヴィアンさんの名前を心の中で呟いた。



「美桜」



 名前を呼ばれ目を開けると、初めてオクタヴィアンさんと会った時にいた場所にいた。


 どことなく申し訳なさそうな表情に見えるのは、私が何故会いに来たのか察しがついているからかもしれない。



「どうぞ、座って」



 椅子に座ると当然のようにコーヒーが出てきた。



「申し訳ない」


「謝る前にちゃんと説明して下さい」


「あぁ、そうだね」



 初めて会った時はずっとにこやかで柔らかい雰囲気だったのに、今は別人みたい。真剣な面持ちで、緊張してしまう。

 綺麗な顔をしているからか、幼く見えても迫力を感じる。



「僕たちもまだハッキリとしたことは分かっていないんだけど、何者かの妨害を受けたようだ」


「妨害? 何でですか? だって聖女は必要だから呼ばれたんですよね?」


「今聖女にアルファード王国にいられては困る誰かがいるのだろう」


「だから私はよく知らない場所に飛ばされたってことですか?」


「そう……あの家に住むはずの異世界人はアルファード王国王家に姿を現し、その王家に現れる筈だった美桜はその子が住む筈だった家に姿を現した」


「じゃあその王家に行って、もう一人の子と入れ替わればいいって事ですよね?」



 妨害されたとはいえ、私はこっちの世界に居るわけだし、そんな難しい顔をしなくてもいいんじゃないの?



「それが何故かもう一人の子が聖女という事になっている」


「ん? よく分からないんですけど……」


「召喚後、王家の者に聖女かと尋ねられた時に彼女は何故か『はい、そうです』と答えた」



 私は一般人としてさっさと結婚したいと思ってる人だけど、実はもう一人の子はそんなんじゃなくて聖女になりたかったってこと?

 でも力の相性を考えたら彼女を聖女にするわけにはいかなかった訳で……どうしよ……頭がこんがらがってきた。



「こんな事いうのもなんですけど、説明不足でちゃんと理解できてなかったんじゃないですか?」


「そんなはずは無いよ。 美桜と話しながら僕も彼女たちの会話も聞いていたが、彼女には聖女の話は一切していないし、死ぬまで不自由しない生活を望みあの家を与えたんだ。 異世界人だとバレないように髪の毛と瞳の色も変えたよ。 勿論彼女の望んだ色にね」



 今聞き流してはいけない内容があった気がする。いや、あったよね。



「あの……髪の毛と目の色で異世界人かどうか判断できるんですか?」


「ごく稀に違う色をした者もいたが、異世界人は基本的に黒い髪の毛と瞳をしていると、こちらの世界の文献に残されているんだ。 って……あれ? 言わなかった?」


「えぇ……聞いてませんね」



 どうりで合う人会う人に驚かれる訳だ。誰も口を聞いてくれない訳だ。


 そんな大事な話をなんで教えておいてくれないかな!?まぁでも……本当なら最初から王家に行くことになってたから、そんな説明は不要だったのか……と勝手に解釈しておいた。


 そして思い出した。バッグの中に入ってた謎のウィッグ。あれって異世界人ってバレたくない時用の変装グッズだったってこと?瞳の色は伊達眼鏡で誤魔化せ的な?どうせなら黒目が大きく見える交換不要のカラコンでも用意しといてほしかったわ。



「ごく稀にいたとはいえ、違う髪色と瞳の色ですんなり異世界人って信じてもらえたんですか?」


「見慣れない服装、そして人間とは思えないほどの桁違いの魔力を持っていることから聖女と判断された」


「はい、ちょっと待って。 待ってください。 魔力ってなんのお話ですか?」



 わざとらしく手を上げ質問した。



「え……説明書読んでないの?」


「起きたら王族が住んでるとは思えない場所にいて!! 読むって考えも余裕もなかったんです!!」






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