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聖女の冒険  作者: 星野 奏


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47.おまじない……ですか?

 いつの間にかソファーに座ったまま眠ってしまっていた。身体にはタオルケットがかけられていた。窓から見える景色は暗くて、もう夜なんだと直ぐに分かった。


 周りを見るとテオさんは絨毯の上にくるまって、シモンさんはもう一つのソファーに座ったまま寝ていて、寝ているマルティナさんを膝枕している。



“「凪……」”



 みんなを起こしてしまいそうで、凪に念話で話しかけた。



“「足元にいる」”



 ソファーから背中を起こして足元を覗くと、凪がうつ伏せで寝転がっていた。



“「起きてたの?」”


“「半分寝ていた」”



 半分とはいったい……。



“「器用だね」”


“「こんなところで熟睡するわけがないだろう。 いつ何が起こるか分からないからな」”


“「え、なんかごめん……」”


“「謝る必要はない。 人間は睡眠は大事だが、俺はそこまで重要じゃないからな」”



 本当にそうならいいんだけど。いつも凪に無理させてそうで申し訳ない。


 あれ?そういえば……。



“「ラウルなら外にいる」”



 キョロキョロしていたら、誰を探しているのか分かったみたいだ。


 みんなを起こしてしまわない様に、忍足で庭に向かった。窓を開けようとしたら、庭のベンチに座っているラウルさんが振り返った。立ち上がったラウルさんが窓を開けてくれた。



「っ__!?」



 私たちの間に何もなくなると、突然ラウルさんの身体が近付いた。



「外は冷える。 これ使え」



 どうやらそばにあったブランケットを取ってくれたみたいだ。


 あー……ドキッとした。まさかの抱きしめられるかもと……ドキドキと勘違いという恥ずかしさで身体が一気にあったまった。


 3人掛けくらいのベンチにラウルさんは座り直した。直ぐそばに1人掛け様の椅子があったのでそこにすわろうとしたら、目でこっちに座れと言われた気がしたのででラウルさんの隣に座った。隣に座っても嫌そうにされないので、あの視線の解釈は間違ってなかったみたいだ。



「ワイン飲めるか?」


「はい、少しなら」



 いくつか置かれた硝子のグラスに赤ワインを注いでくれた。私のよく知るワイングラスじゃなくて、ウィスキーとかブランデーをロックで飲む様なグラス。



「この世界ではワインはこういうグラスで呑むんですか?」


「気楽な飲みの場とかだとこういうグラスだけど、店とかだと違うな」



 お店とかでワインを飲む時は脚が細いグラスを使ってるそうなので、私が見慣れてるワイングラスみたいだ。



「ラウルさんってお酒強いんですね」


「まぁこの中ではな。 なぁ、ミオ」


「はい?」


「ありがとな」


「……何がですか?」


「お前が来なきゃ俺たちは全滅してた」


「それを言うなら私の方こそお礼を言わないとです。 助けて頂いてありがとうございました」


「はぁ? なんでお前が礼を言うんだよ」



 ラウルさんはワインを飲む手を止めて納得いかないとでも言いたげな顔をした。


 今晩は大きくて丸い月、そして星もたくさんでているから、外でもラウルさんの顔がちゃんと見える。



「私は浄化の後気を失っちゃったので、ラウルさん達が居なかったら凪が傷だらけになってたかもしれません。 意識があったととしても、凪は酷い怪我を負っていたかもしれません。 私が戦えないから……」


「……ミオがいた世界で戦う事はなかったのか?」


「私がいた世界にも勿論戦ってる人はいましたけど、戦いを知らない人が大半です。 私もその大勢の中の1人です。 人を殴った事もなければ殴られた事もありません」


「腕出せ」



 急になに!?


 そうは思いながらも、左腕を差し出した。


 ラウルさんはズボンのポケットから何かを取り出した。



「これ……」


「獣王国に古くから伝わる守り石だ。 危険が及んだ時、きっと助けてくれる」



 左手首に結んでくれたミサンガに一つだけ丸い石が付いている。左手を上げて月明かりを頼りに石を見ると、翡翠ひすいみたいな色をしていた。


 綺麗な色……。



「ラウルさん、ありがとうござ__」



 左手にラウルさんの大きな手、そして長い指が絡み思わず固まった。


 今の状況はいったい……。


 ラウルさんの顔が近づき、咄嗟にギュッと目を瞑ると、おでこに柔らかな感触。次に目を開けるとラウルさんの顔は見えなかった。何故なら抱きしめられてしまったからだ。



「怪我が良くなったら、行くのか?」


「……はい、次のところへ向かいます。 早く浄化終わらせて私も好きな事したいので」


「そっか、無茶すんなよ」


「はい」


「何かあれば連絡しろよ。 その時はすぐ駆け付けてやる」


「はい、ありがとうございます」



 身体が離れ「んじゃ飲むか!」と言ってラウルさんは飲み始めた。私は悪酔いしない様に、たった一杯のワインを少しずつ飲み干した。



「私はそろそろ中に戻ります。 ラウルさんは__」


「俺はもう少しここにいる」


「分かりました。 風邪引かないようにして下さいね」


「おう」



 部屋に入るため窓を開けようとしてやめた。こんな事聞くのもどうかとは思うけど、今聞いておかないと聞けない気がするし、他の人には恥ずかしくて聞けないので勇気を出して聞いてみよう。



「あの……」



 もう一度ラウルさんの方へ身体を向けて、少し離れたまま声をかけた。



「ん?」


「さっきのって…この世界……というか、この国のおまじないみたいなものですか?」


「さっきのって何だよ?」


「え、いや…ほら、私のおデコにその…キ、キス……」



 キョトンとした顔をされた。


 恥ずかしくてどんどん声が小さくなってしまう。中身は32歳だからか余計恥ずかしい。この歳でこんな事聞く日がくるなんて……。



「あははははっ! マジかよ!」


「え!? どういう笑いですか!?」


「お前がまじないだと思うならまじないなんだろうよ」


「それじゃ答えになってないんですけど!?」


「ミオが仕事をやり終えてひと息つける時がきたら、教えてやるよ」


「えぇー……」


「それまで誰にも聞かねーで、自分で意味考えろよ」


「何ですかそれ……まぁ、はい、分かりました」



 不服な私とは裏腹に、ラウルさんはなんだか楽しそうだった。






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