46.聖女とは言っていません。
約束通り来たはいいけど、ノックするのが怖い。
“「入らないのか?」”
“「入るけど……まだ気持ちの整理というか、なんというか……」”
“「そう心配する必要はないと思うがな。 病院でのマルティナの態度も変わらなかっただろう?」”
“「それは…そう、だけど……」”
騙していた訳じゃないけど、聖女なら被害が出る前になんでもっと早くに対処しなかったんだって思われてるんじゃないか…とか、その強さで本当に聖女なのか…とか……そんな事思うような人じゃないとは思ってるけど、怖いものは怖い。
前回よりも悪い点数だったテスト用紙を家に持って帰る時みたいな、胃がキリキリする様な嫌な緊張感。
まぐれで100点取ったって『頑張ったね』の一言も貰えた事なかったけど。中学生になってからは100点なんて取ることなくなった。どんなに勉強したって、報われることなんてなかった。お兄ちゃん、お姉ちゃんの足元にも及ばなかった。
今も自分の爪先を見てる事に気付いた。私はまだあの時のまま、抜け出せていない。
思い出したくもないのに嫌なことばっかり頭の中をグルグルと駆け巡っていく。
_ガチャッ。
パッと顔を上げた。
「迎えに来ちゃった」
「マルティナさん……」
「気配はあるのに全然動かないからどうしたのかと思ったじゃない! さっ! 入って! お腹を空かせたラウルが暴れそうなのよ!」
マルティナさんに手を引かれてお家にお邪魔した。しっかりと握られた手は暖かかった。
リビングのドアが開くと、とってもいい匂いが鼻をかすめた。
_パンッ!パンッ!パンッッッ!!!
「「「「退院おめでとう!!!!」」」」
クラッカーの音にびっくりした。こっちにもあったんだっていう驚きもある。
豪華な食事を囲んで、ラウルさん、シモンさん、テオさんが笑顔で迎え入れてくれた。
「おっせーよ。 俺腹空きすぎて倒れそう」
「つまみ食いしそうなラウルさんを止めるの大変だったんですからねー」
「さぁ! 座って座って! 凪の場所も用意してるわよ!」
「ミオ、飲み物は何がいい?」
変わらないみんなの雰囲気に泣きそうになった。この世界に来て涙腺がゆるゆるになった気がする。
「レモン水下さい!」
凪にはお水を用意してもらって、みんなで乾杯した。
食事はどれも片手でも食べやすいものばかり。
「急だったから作れなかったんだけど、ごめんね」
「いいえ! 用意して下さってありがとうございます。 それにみなさん時間割いて下さって、ありがとうございます」
「硬い、硬い。 硬いんだよ、お前は」
隣に座ってるラウルさんに頬っぺたをムギュッと摘まれた。
「俺たちの仲だろ。 もっと気楽でいいんだよ」
「そうですよ。 僕たち友達じゃないですか」
友達……この世界で初めて言われた。凪は友達というより相棒だし、オクタヴィアンさんは茶飲み友達みたいだけどポジション的には親戚のお兄さんって感じ_見た目は中学生だけど_。だからこの世界ではみんなが私の初めての友達だ。
「うおっ! ちょ、まて! いきなり、おまっ、どうしたんだよ!?」
マルティナさんが頬っぺたにハンカチを当ててくれた。
「あんたのそういうところもダメよねー」
「あはは」
「笑うなよ!」
思わず笑ってしまったらラウルさんに怒られた。そしてまた笑ってしまった。
「この世界でできた初めての友達が皆さんで良かったです」
「やはり、まだ来たばかりだったんだな」
シモンさんの言葉に頷いた。
やはりって事はやっぱり私言動がおかしかったのかもしれない。
「お前が聖女って事はギルマスには報告してねーから、安心しろ」
「本当なら聖女は国で保護される存在なんだけど、ミオは国に頼らず凪と2人で旅をしてる。 何か訳があるんじゃないかって話になってね、報告をするのをやめておいたのよ」
「凪からは何も?」
「凪さんからはミオさんに直接聞いてくれと言われただけです」
「それに俺らはお前の口から『私は聖女です』とも聞かされてねーしな。 俺らが勝手に思ってるだけだ」
確かに言ってはないけど凄い理屈。まぁラウルさんっぽい。
「料理が冷めるぞ」
そう言ってシモンさんがお皿にこれでもかというくらい料理をよそってくれた。
「ありがとうございます!」
2日間何も食べてない分いっぱい食べなきゃね!
腹ぺこラウルさんと競ってるのかってくらい食べた気がする。




