45.必死にもなりますよ。
病院を出て、マルティナさんとは一旦お別れした。
“「教会の場所分かる?」”
“「あぁ、問題ない」”
私たちは並んで歩いた。三角巾で腕を固定している私に気を遣って、周りの人たちは先に避けてくれる。「ありがとうございます」という言葉を言っていたら間に合わないので、避けてもらう度に軽く頭を下げた。
凪はいつもよりもゆっくり歩いてくれている気がする。いちいち口には出さないけど普段からさり気なく気遣ってくれる。優しくて強い私のパートナー。
凪のおかげですんなり教会にたどり着いた。
いつものように一番後ろの一番隅に座った。今回は手を組めないので、ただ目を瞑った。
「怪我の具合は?」
声がして振り返るとオクタヴィアンさんが後ろに腕を回し立っていた。
「身体中痛いですし、腕も不自由ですしボロボロですけど、わりかし元気ですよ」
私が笑うとオクタヴィアンさんも笑い返してくれた。
「無事に浄化が終わって良かった。 それから、僕の説明不足で怪我を負わせてしまった事申し訳なかった」
頭を下げられギョッとした。
「怪我したのはオクタヴィアンさんのせいじゃないじゃないですか!! 頭を上げてください!!」
「僕にも責任はある」
「と、とにかく! 座ってお茶しましょう!」
ポン!っと現れた椅子に座ってアイスコーヒーをリクエストすると、直ぐ様目の前に現れた。それもストロー付き!気が利きますね〜。
オクタヴィアンさんは珍しく普通のお茶を飲んでるっぽい。けど気になるので聞いてみた。
「これは枇杷茶だよ」
お茶はお茶だけど、やっぱり飲み慣れたものではなかった。オクタヴィアンさんらしい。
「あの…さっき言ってた事ですけど、説明不足ってどういう意味ですか?」
「先日僕から加護を授けたでしょ?」
「え? あ、加護……頂きましたね」
「ちょっと待って、もしかして忘れてたの!?」
「……あはは」
今の今までそんな事スッカリ忘れてたわ〜。だって、ねぇ?それもらったからって見た目なんにも変わってないし、自分で使うものでもないしそりゃ忘れるでしょ。
取り敢えず笑ってみたけど誤魔化しはできてないみたい。
「まぁ、忘れてたって言うならそれで良かったのかもしれない。 加護もらってるのにこんな怪我!って怒ってたりショックを受けてるんじゃないかと思ってたけど、そうじゃないならいいさ」
そういえば加護をもらった時に、魔力の弱い武器とか魔法なら防げるって言ってたっけ?
「今回は防げないくらい魔力が強かったって事ですよね?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。 僕の渡した加護なら、通常のアンガーバードの攻撃ぐらいなら難なく防げるよ」
「……え?」
ガッツリ腕切り裂かれましたけど?その時の事を思い出しただけでもゾッとする。
「僕たち神の加護をもっても防げないものが一つだけあるんだ」
「何ですか?」
「それは瘴気だよ。 瘴気に関しては干渉できないんだ。 瘴気を纏ったアンガーバードの攻撃だったから防ぐ事が出来なかった。 瘴気に侵されている魔物には気を付けてほしいと話していれば良かった……本当に申し訳ない」
オクタヴィアンさんの芸術とも言える綺麗な顔が曇った。いつも気に掛けてもらって、私の方こそ申し訳ない。
「さっきも言いましたけど、加護頂いたことなんて今の今まで忘れてたんです。 なので今回の事はオクタヴィアンさんはなんにも悪くないです。 それに今は怪我して良かったって思ってるんですよ」
「あんなに辛そうだったのに?」
「あの時はほんっとに辛かったです。 人生一最悪だと思いました。 でも凪にも話しましたけど、あの出来事、そしてこの怪我があったからこそ私はやっと地に足がついたんです。 この世界で本気で生きていく覚悟ができたんです。 だからそんなに申し訳なさそうな顔をしないで下さい」
初めて会った時はなんて陽気な神様だ…と思ったけど、あれは私を和ませる為だったんだろうなと思う。オクタヴィアンさんはこんなにも優しい神様だから。
「この世界に美桜が来てしまった時はなんて事をしてくれたんだ……と思ったけど……」
そんな風に思われてたの?てかそれ私に言っちゃうの?
「今なら心から言えるよ。 この世界に来たのが美桜で良かったってね」
眩い笑顔が神々しい。流石は神様。見惚れてしまう。
「私も今はこの世界に来られて良かったって思ってますよ」
「それは嬉しいな」
アイスコーヒーを一口飲んで、椅子の背もたれに思い切り寄り掛かった。
なんかちょっと気が抜けた。
オクタヴィアンさんとは茶飲み友達みたいな感覚で気が緩む。私の中では知り合ってもう10年くらいは経ってる様な感じがする。
「あの、お願いがあるんですけど……聞いてもらえるか分からないお願いなんですけど……」
「なんだい? 言ってみて」
「日本の薬をマジックバッグに入れてもらう事って可能ですか? 鎮痛剤とか胃腸薬とか絆創膏とか……」
そういえば絆創膏みたいに手軽に小さな傷に貼れる物って無かったなと思い、ついでに言ってみた。
「基本美桜だけが使うのなら用意するよ?」
「え!? いいんですか!?」
「この世界には無いものだから、公にしないと約束できるならだよ?」
「約束します!!」
「あはは、そんなに切羽詰まった顔で言わなくても」
「切羽詰まってるんですよ! こっちの世界の薬は苦くて苦くて、もう本当に苦くて__」
「はいはい、分かったって」
必死に訴えれば訴えるほど笑われた。こっちはメッチャ真剣だっていうのに!
話したい事を話し、オクタヴィアンさんは最後に『凪に宜しく』と言った。『はい』と返事をすると、空間はキラキラと輝きあっという間に現実世界へ引き戻された。




