44.吹き出しました。
翌朝お医者さんが部屋に来て診察してくれた。1週間くらいで抜糸できるみたい。
「今日にでも退院できますが、どうしますか? 不安でしたら抜糸までの間このまま入院でも構いません」
「今日退院します」
「分かりました。 では午後までにお願いします」
そう言うと先生と看護師さんは部屋から出ていった。凪と2人きり。昨日は気が付かなかったけど、どうやら個室みたいだ。
この世界の病院の常識がわからないけど、私の感覚からすれば個室って入院費高いよね?それならさっさと退院して美味しいものでも食べた方が良くない?
保険にだって入ってないからなんの保証もないし……てかこの世界に保険の概念なんてあるんだろうか?
日常生活の事に関しては多少慣れてはきたけど、こういう風にイレギュラーな事が起こるとやっぱまだ何にも分かってないんだなって痛感する。
「……やば」
「どうした?」
「退院しますって言ったのはいいけど、私着替えがない。 そういえばマジックバッグは!?」
着替えよりもマジックバッグが無い方が大問題!あの中色んなもの入ってるのに!!
「バッグならマルティナが持っている」
「マルティナさんが!?」
「そんなに心配するな。 あれは美桜以外には扱えないだろ」
「あ、確かに。 それにマルティナさんだったら安心だね」
安心なんだけど、どうしよう。この世界にも電話みたいな通信機はあるみたいだけど、個人宅には置いてないみたいなんだよね。
困った……。
「俺がマルティナのところに行ってくる」
「え!? で、でも……」
「不安そうな顔をするな。 あの時に俺が話せる事はバレてるから問題ない」
「あ、うん、そっか……」
まだ頭が回ってないみたいだ。
凪が出ていった後、部屋の窓を開けた。風が吹き込み髪の毛が靡き首元が涼む。
あの戦いの後、頭につけているウィッグは見事にズレてしまったらしい。けど、そのウィッグをまた綺麗につけてくれたのはマルティナさんだったそうだ。みんな私の髪の毛の色を見てる…それに浄化をしてしまったから、私が聖女である事はバレたと思う。
聖女は国家規模で取り合うみたいだし、そういう存在は直ぐにお偉いさんとかに報告しなきゃいけないとか決まりがありそう。私が聖女だって事、ギルマスに報告されてないといいんだけど……。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。
「はぁぁぁ……」
そして下を向いてまたまたため息が漏れた。
右腕に真っ白な三角巾。ご飯、お風呂、トイレ、着替え…などなど、暫く生活は大変そうだ。あと薬……思い出しただけで口の中がもの凄く苦くなる。
この世界の薬は粉薬しかないらしい。それは別にいいんだけど、朝食後に飲んだ粉の鎮痛薬が苦すぎて思わず吹き出した。看護師さん驚いた顔してたけど、私もメッチャ驚いたから。凪なんて私の顔がよほど面白かったのか、暫く笑ってた。
ポーションの方がまだマシなんじゃないかと思って、『痛み止めになるポーションとかってないんですか?』って聞いてみたけど『ありません』と即答された。というか、鎮痛薬に限らず、通常の治療においてはポーションは使わないらしい。『ポーションは頻繁に使っていると身体が慣れて効果が薄くなるので、緊急時に効きが悪くならないため生活ではなるべく使わない方がいいですよ』と看護師さんからアドバイスを受けた。
もの凄く怖くて痛い思いをしたけど、そういう細かな情報を聞くことができたので、この入院はしてよかったんじゃないかと思った。それに今回のことで自覚ができた。この世界で生きていくんだっていう自覚。
窓を開けたままベッドに戻った。枕を立てて座った。
「…………」
今やっぱり頭から離れないのは薬のこと。一生忘れられないくらい衝撃的な苦さだった。暫くは腕の痛み引かないだろうから飲まなきゃでしょ?あー嫌だー……。
そうだ!「日本の薬用意できませんか?」ってオクタヴィアンさんにお願いしてみようかな。退院したら早速教会に行こう!
色々と考え事をしていたら眠くなってきた。何せこの世界には気楽にできる娯楽がない。テレビもなければスマホもない。本はあるけど持ち歩くの?こんなでっかく分厚いの、みたいな本ばっかり。でもまぁ、マジックバッグだったら持ち歩きはできるのか。そもそもそのバッグがないから今身動きすら取れないんだけどね。
「ふぁあ〜」
ウトウトしていると、足音が聞こえた。物凄いスピードで足音が大きくなっていく。
_バンッッッ!!!!
「うおっ!?」
「ミオ!!!!」
「マ、マルティナさん……」
ビックリした。心臓に悪いよ。
走ってきたマルティナさんに勢いよく抱きつかれた。腕の事を気遣ってなのか、頭を包み込むように。急いで来てくれたのか、息切れ切れだ。
身体を離したマルティナさんに、今度は両手で顔を包むように挟まれた。マルティナさんの瞳がウルウルしてて、泣きそうになった。
「目が覚めて良かった」
「マルティナさん__っ」
「ミオ、ありがとう。 本当にありがとう」
涙を流しながら言われ、私もとうとう泣いてしまった。




