43.バカップルとはなんでしょう。
目を開けると、薄暗かった。
カーテンの隙間から微かに光が漏れている。頭上からもオレンジ色の淡い灯り。
「__っ」
起き上がろうとしたけど身体中が痛くて動けなかった。特に右腕は見るのも怖いくらい痛い。
ここは……?
「まだ起き上がらない方がいい」
「凪……」
足元にいたらしい凪が静かに動き、お互いの顔が見える場所に寝直した。
「ここは?」
「病院だ」
「コレールバードは?」
「ラウルが倒した」
「みんなは?」
「無事だ」
「そっか、良かった」
みんなが無事だと聞いて物凄くホッとした。まだ出逢って間もないけど、みんなの事が好きだから誰一人失いたくなかった。
日本には32年間いたっていうのに、ここまで想えることってなかったな。ただ忙しいだけの、寂しい人生を送っていたのかもしれない。
「誰がここまで運んでくれたの?」
「森を抜けてからはシモンが運んでくれた」
「退院したらシモンさんにお礼言わなきゃね。 てか叩き起こしてポーション飲ませた方が面倒くさくなかったよね? 面倒かけちゃったなー」
「どうやら緊急を要さない限りポーションは使わないらしい」
「そうなの!?」
「美桜の右腕も医者に縫ってもらっている。 抜糸の時にポーションをかければ傷跡は残らないそうだ」
「そっか……良かった」
どうりで痛いわけだ。身体を縫われるなんて人生初だよ。
ポーションがあって良かった。嫁入り前の身体だからね。なるべく傷は残したくない。
「美桜」
「んー? 何?」
「俺に言いたいことは?」
「言いたいことって……?」
真剣な声、そして真剣な瞳。凪の雰囲気からこれは大事な事なんだなというのは分かるけど、何の事を言われているのか全く分からない。
「俺は美桜の身体や心の心配よりも先に、浄化できるかどうかを優先させた。 その事に関して文句の一つや二つ聞こう」
そんな事……気にしてくれてたんだ。
左手を伸ばして凪の頬に触れた。そして親指でそっと撫でた。
「あのね……私、この世界で生活してるのにやっぱりまだどっかで夢だって思ってた。 漫画や小説とかみたいに、ご都合主義で全部がトントン拍子に進んでいくんだと思ってた。 友達が傷だらけになってるところを見て、自分が怪我して漸く私はこの世界で本当に…生きてるって__っ」
「美桜……」
流れる涙を左手の甲でグッと拭った。ズルズルする音も気にせず鼻もすすった。
「怪我して、結界壊れて…もう、頭の中真っ白になって、怖くて……腕は信じられないくらい痛いしっ__正直……全部…投げ出して逃げたいって一瞬頭を過った…心が折れそうだった……でもね、そんな時凪の声が頭の中に響いた。 『まだやれるな?』って。 もしあの時凪に優しい言葉を掛けられてたら、私立ち上がれなかったと思う。 凪が戦ってるのに、こんなところでグジグジしてる暇なんてないって思った。 だから、凪……あり、がと…ぅっ__」
「俺からも礼を言う。 約束を守ってくれた事、感謝する」
「約束?」
「生きることも浄化することも諦めなかっただろ」
「これからも守るよ。 だから凪も約束して。 どんな時も生きる事を諦めないで…私がいる事忘れないで……」
「あぁ、約束しよう」
なんかこれって……
「何が可笑しい」
「あはは、ごめん。 なんか日本でこんな事言い合ってたらただのバカップルだろうなって思って」
「バカップルとはなんだ」
「馬鹿なカップル? 馬鹿っぽいカップル?」
「よく分からないが、馬鹿が付くってことは良い意味ではないんだろ?」
「あはは、呆れるくらい仲良しな2人って事だから、良い意味じゃないって事もないんじゃない?」
何を言っているんだって顔されて余計笑いが込み上げた。笑うと身体が痛むけど、そんな事どうでもいいって思えるくらい今は笑いたかった。
「凪大好き」
「…………」
「凪は言い返してくれないわけ?」
「……もう寝ろ」
「はーい。 おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
私は凪の方に身体を傾け、凪の前足に自分の手を重ねた。いつもはベタベタすると振り払われるけど、今日は如何やら特別らしい。甘えさせてくれる時に甘えておこう。
凪が人間だったら凪に恋しちゃって浄化どころじゃなかったかもしれない。そう思うと想像してしまって勝手に頬が緩む。
最後に凪の顔を見て目を瞑った。不安な気持ちはなくなり、安心感しかなかった。




