41.現実はそう甘くありません。
商人ギルドを後にして、そのまま街を出た。通り慣れた道を通って、森に入ったら直ぐに凪の背中に乗って薬草採取に向かった。上級のポーションに必要な薬草が生えている穴場を見つけてからは、一番最初にその場所に行く様になった。道は凪が覚えてくれているので本当に助かる。ただでさえ方向音痴なのに、森の中はどこも同じに見える。凪曰くたくさん目印があるらしいけど私にはさっぱり分からん。
ここ最近で一番森の空気が淀んでる気がする。ホラー映画を観た後みたいな何とも言えない不安感。
「今日は嫌な感じがするな。 なるべく早く戻ろう」
「そうだね。 薬草採って、結界の練習したら急いで帰ろう」
凪も何かを感じてるみたい。
いつもなら薬草採った後にご飯を食べて結界の練習だけど、今日は時間短縮した方がよさそうだ。
薬草採取は2人で話しをしながら作業を進めてるけど、今日は会話という会話はほぼ無し。一心不乱に……って言ってもいいくらい集中して採取を終わらせた。
「よし! 結界の練習やろう!!」
「その前に水でも飲んで一息ついた方がいい」
言われてみれば採取しながら一滴も飲んでない。
「ごめん凪! 喉渇いてるよね!? 私自分の事しか考えてなかった…」
バッグから水を出して先ず凪の分を用意した。水を入れた器があっという間に空になったのを見て、更に反省。
器に水を注ぎ足し、自分もコップに水を注ぎ口をつけた。思っていたよりも喉が渇いていたみたいで、あっという間にコップの中が空になった。
私って気付いたら脱水症状でぶっ倒れる典型かも……気をつけよう。
_ッッ!?
結界の練習を始めようとした時、全身に鳥肌が立った。
「今の……な、に?」
「マップを開け」
慌ててマップを開くと、赤いマークが比較的近くに表示されていた。大きな赤い丸は一つだけど、その付近に小さな赤い丸がいくつか表示されている。
「な、何で急に!? 森に入る前に見た時はもっと離れた場所にあったじゃん!」
「理由は分からない。 ここから1キロも離れていないな。 行けるか?」
行けるか?って……そんなの!
「い、行くしかないでしょ!」
「急ぐぞ」
凪の背中に飛び乗った。握る手に力が入る。
初めての浄化じゃないのに身体が震える。馬鹿みたいに緊張してる。吐きそう。油断したら気を失いそう。
マップを見ず、そして私の案内がないにも関わらず、凪の走る足に迷いはなかった。私は凪程相手の正確な場所は分からないけど、進むにつれて嫌な空気が濃くなっていくのは分かった。
「あれ……」
「アンガーバードの上位種、コレールバードだな。 といっても、瘴気が濃すぎて本来の姿とはまるで違うがな」
離れていても分かるくらい大きくて真っ黒な鳥。
「グアアアアアァァアァ!!!!!」
けたたましい鳴き声に身が竦む。
「ミオ、お前は何があろうと生きる事、そして浄化する事だけを考えろ。 後は俺が何とかする。 いいな?」
「わ、分かっ__え!? あれって__」
誰かが戦ってる。近づくにつれ、その姿がハッキリとしていく。
「ラウルさん__ッッ!?」
「ミオ!? 急いで逃げなさい!!」
「マルティナさん!!」
コレールバードと戦うラウルさんの離れた後ろで、マルティナさんは数羽のアンガーバードと戦っていた。テオさんとシモンさんを守りながら……。
「凪! 凪はラウルさんのサポートお願い!! 私はマルティナさんのところに!!」
「承知した」
凪から降りた私に襲い掛かろうとしたアンガーバードを凪が風の魔法で斬り倒した。マルティナさん達のところまで道が開けた。
みんなのところにたどり着き、いつもの練習の通りに結界をイメージした。
1人分じゃない。いつもよりも大きい半円じゃないとダメ!!
展開された結界はアンガーバードを押しのけた。
「ミオ! 逃げなさいって言ったでしょう!?」
駆け寄ってきたマルティナさんに腕を掴まれた。その手も顔も……身体中傷だらけだった。
「ごめんなさい。 でも逃げるわけにはいかないんです!!」
「ミオ……」
「テオさんとシモンさんの状態を教えてください! 私いくつかポーション持ってるので何とかなるかもしれないです!」
グッタリと横になる血だらけのシモンさん。そして酷い怪我はなさそうだけど、座っているのがやっとという様な青白い顔をしているテオさん。目が虚だ。
「シモンは怪我が酷くて、テオは魔力が底をつきそうなの……ポーションは連日の討伐で少ししか持ってなくてもう……」
_ドン!ドンドンッッ!!!!
たくさんのアンガーバードに結界を叩かれる度に心臓が跳ね上がる。
落ち着け……落ち着け私。
「これをシモンさんに! 私はテオさんに魔力回復飲ませますから!」
バッグから慌てて出した再生ポーションをマルティナさんに渡し、私はテオさんの口元に瓶を近づけた。ゆっくりと口の中に魔力回復のポーションを流し込んでいく。喉元が動いてホッとした。
「シモン! お願い…お願いだから飲んで__っ」
マルティナさんの悲痛な声が聞こえて顔を上げた。
シモンさんの頭を膝の上に乗せ、どうにか飲ませようとしてるけど飲み込めないみたいだ。どうしたらいいんだろう…そう思った瞬間、マルティナさんは再生ポーションを口に含みシモンさんの口を塞いだ。
「ウッ__グッ…アァァアアアァ!!!!」
シモンさんの苦しそうな声が結果内に響き、驚いた。その時、「ピシッ」っという小さな音が聞こえた気がして見上げると、結界にヒビが入っていた。
まさか……そう思うと同時に結界は砕け散り、アンガーバードが私目掛けて降下してきた。咄嗟に隣にいるテオさんを突き飛ばし、身を守るように腕を顔のそばに振り上げた。
身体が後ろによろける。
「ッッッッ__!?」
言葉にならない程の激痛が走った。
何!?何が起こったの!?腕が熱い……っ!
恐る恐る右腕を見ると、真っ赤に染まっていた。痛みが酷くなっていく。
「ミオ!! 危ない__ッ!!!!」
切羽詰まったマルティナさんの声。 迫りくるアンガーバードは涙でボヤけてよく見えない。
身体が動かない。逃げなきゃいけないのに…怖くて動かない。力が、入らない。




