36.加護を授かりました。
あれから何度か冒険者ギルドのクエストを受けた。どれも薬草採取のクエスト。凪が一緒にいるとはいえ、魔物討伐はまだ自信がない。
宿も1週間の予定だったけど、1ヶ月に延泊した。収入に比べて出費の方が多いけど、今はしょうがないかと諦めることにした。まとまったお金を入れてくれたオクタヴィアンさんに感謝。
「今日はどうするんだ?」
「今日は商人ギルドでポーション買い取ってもらって、その後教会に行こうと思ってるよ。 気持ちに少し余裕が出てきたから、オクタヴィアンさんに会っておこうかと思って」
聞きたい事もあるしね。
今日はクエストを受けるわけじゃないから、普通の洋服で外に出た。
歩いていると見たことのある後ろ姿を見つけた。
「マルティナさん!」
「あら? ミオじゃない。 おはよう」
「おはようございます! 今日はお仕事じゃないんですか?」
「最近は立て続けに魔物の討伐に行ってたから、今日はお休みよ」
「そんなに魔物が出るんですか?」
「そうなのよねー、瘴気が濃くなったり薄くなったりで不安定だからかもしれないわね」
装備を揃えたら浄化に行こうと思ってた。でもいざ行こうと思ったら、赤い印が結構遠くまで離れてて、それなら計画を立てて行動しようって事になった。なったんだけど、次見たときにはまた近付いてて……いざ行ったらまた遠くまで離れちゃってと上手く浄化できないでいる。
瘴気の影響で凶暴になった魔物が悪さをしているんだろうな。
「そんな不安そうな顔をしないで。 Cランク以上の冒険者で交代で討伐依頼を受けようって話になってるのよ。 だから私たちは休みだけど、他の冒険者パーティが討伐に出てるから、街に危険が及ぶことなんてないからね」
1番の原因になってる魔物を早くどうにかしないと……と思っていたら、マルティナさんは違う心配をしていると思ったみたいだ。
「あまり無理しないでくださいね」
「冒険者だから無茶はしょうがないとして、無理はしないわよ。 それに、うちのリーダーは野生が強いのか危機管理能力がずば抜けてるからね。 そのおかげで何度危険を回避したか分かんないわ」
マルティナさんのパーティ_幻月_のリーダーはラウルさんだ。突っ走るイメージが強いだけに、引き際を間違えないという一面には少し驚いた。
「ミオはこれから仕事?」
「あ、いえ、今日は商人ギルドに行って教会に行くくらいです」
「じゃあ夜は空いてる?」
「空いてますけど?」
「今日の夜うちでみんなでご飯食べる事になってるんだけどおいでよ」
みんなってきっとパーティメンバーのことだよね?
「私までいいんですか?」
「いいに決まってるでしょ! うちの場所分からないと思うから、6時頃ラウルに迎えに行かせるわ」
「え!? それは申し訳ないですよ!」
「いいの、いいの! ラウルだし!」
いつも思うけど、マルティナさんのラウルさんの扱いって雑。
「また後で」と言ってマルティナさんと別れた。
“「嬉しそうだな」”
“「え?」”
“「表情筋が緩みまくってるぞ」”
“「え!? 嘘!?」”
両手でほっぺを挟んだ。
本当に緩んでたかどうかは分からないけど恥ずかしい。往来でにやけるなんて……。
素直に嬉しかった。道端で会って話したり、外で食事したりも勿論嬉しいけど、お家に呼んでもらえるのって、ある程度信用されてるからだよね?
これから不安がないと言えば嘘になるけど、こうして誰かと親しくなれる事は嬉しいし、そんなみんなの為にも浄化を頑張ろう!って思える。
商人ギルドでポーションを買い取ってもらって、教会に向かった。教会の場所は確認済みだ。
“「わー……凄い。 流石は首都の教会だね。 おっきくて綺麗」”
“「手入れが行き届いているな。 それだけここは大事にされているという事だ」”
建物も綺麗だけど、その周りに植えられたお花も綺麗に咲き、整えられている。
教会の中に入ると、何人かが椅子に座り、お祈りを捧げていた。比較的人がいない辺りに腰を下ろして、私も胸の前で手を組みそっと目を閉じた。
「やぁ! 久しぶりだね。 元気そうで安心したよ」
恐ろしく美しい笑顔で出迎えてくれたのは、この世界の守り神であるオクタヴィアンさん。昔からの知り合いでもないのに、オクタヴィアンさんの顔を見たらホッとした。少しは慣れてきたとはいえ、やっぱりまだ気を張っているのかもしれない。
「凪も元気にしていた?」
「はっ、この通り問題なく」
「そう、二人が仲良くやっているみたいで安心したよ。 どうぞ、掛けて」
丸いテーブルを挟んで向かい合う様に座った。
「何飲む?」
「コーヒーお願いします」
目の前に現れたブラックコーヒーにミルクを足した。オクタヴィアンさんの目の前にはミルクティーらしき飲み物が置かれている。生姜湯はやめたみたいだ。
「生姜湯は飽きちゃったから、高麗人参のミルクティーにしたんだ」
高麗人参……美味しいのかな?
「不自由はないかい?」
「はい、みなさん親切で、とても助けられてます。 それに、凪が側にいてくれるので、すごく心強いです」
「それにしても毒を食べてしまった時には心配したよ」
眉尻を下げて笑われた。
そういえばそんな事もあったね。もう遠い昔の事みたい。
「今はちゃんと鑑定使ってますよ」
「それは良かった。 それでも念のため僕の加護を渡しておこう」
「加護?」
「毒や麻痺などの状態異常に無縁になるよ。 それに風邪や流行病にもかからないし、どうかな?」
どうかな?って……軽い。内容はそんな軽い話じゃないよね。
「そんなルール違反みたいな事しちゃっていいんですか?」
「前々から思ってはいたけど、美桜は真面目だよね」
「そうですか?」
「そこも美桜の良いところだと思うけれどね。 僕たち神はそう簡単に人に加護を与えることはない。 けれど、美桜は自分の意思とは関係なく危険に身を置かなければならないでしょ? そんな美桜に細やかながらプレゼントを贈りたいだけだよ」
全く細やかではないよね?加護だよ?神様が守ってくれるって事だよね?凪まで紹介してくれた上に加護なんて……高待遇過ぎない!?
うーん……。
「難しく考える必要はないよ。 それに、僕の加護は凪にもついているからね」
「え? そうなの?」
凪の顔を見ると「オクタヴィアン様に仕えた日から頂いている」と言われた。凪も持ってるなら…とよく分かんないけどちょっと気が楽になった。
「それならお願いします」
オクタヴィアンさんは小さく笑い声を漏らすとテーブルに手をつき少し身を乗り出した。空いている方の手の人差し指がおでこに触れた。
「え!?」
体が光った!そしてなんだか体がポカポカする。
「ちゃんと加護を授けたよ。 魔力の弱い武器や魔法くらいなら弾いてくれるけど、できれば早く結界は使える様になった方がいい。 絶対防壁は聖女だけがもつ特殊な結界。 これはどんな攻撃も破る事はできないからね」
そう!その事を聞きたかった!
「あの、その絶対防壁って具体的にはどうやって使ったらいいんですか?」
「美桜の持つ絶対防壁とホーリーアローはどちらも想像を具現化する力。 元から形あるものではないんだよ」
「……つまり?」
「美桜は絶対防壁ってどんな形をしていると思う?」
「えっと……こういう丸い半球…ですかね?」
両手を思い切り上に伸ばして、円を描く様に横に下ろした。オクタヴィアンさんは笑顔でウンウンと頷いている。
「ホーリーアローは?」
「ホーリーアローは弓矢ですよね?」
一般的な弓矢しか思い浮かばないんだけど。
「そのイメージを魔力を使って形にするんだよ」
首を傾げた。
「今すぐここでやってみてって言ったところで直ぐには無理だと思う。 美桜の世界にはなかったものだからね。 だから練習してみて。 それでも分からなかったらまた聞きにおいで。 と言っても、凪に聞けばアドバイスしてもらえると思うよ」
「分かりました。 ちょっと練習してみます」
「それと、同じスキルを持っていたとしても、魔力量が多い方が強いスキルを使える。 けど魔力量が多いからと言って、強いスキルを発動できるわけじゃない。 精神力も力を強く安定させるのに必要不可欠なんだ」
「不安定だとうまくスキルが使えないって事ですか?」
「スキルが使えない場合もあれば、例え使えたとしても強度がなく簡単に壊れてしまうって事だよ。 強いスキルを発動させたところで、強度がなければ一瞬にして突破されてしまう。 それは攻撃も防御も同じことが言える」
「心も鍛えないとダメって事ですね」
「簡単に言うとそう言う事だね。 他に気になる事はある?」
「んー……今のところ大丈夫です」
その後はオクタヴィアンさんに近況報告をした。何も考えずに話ができるからか、コーヒーをお代わりするほど話し込んでしまった。




